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第五十八話「バーントシェンナは敵国?」

「あ、あの、それってどういう意味ですか?」


 私は不穏な色を浮かべ、マキマキ王を注視する。


「おや? 聞かされていないのか?」

「?」

「まずは腰を掛けてくれないか? このまま立って話を聞かせるのも悪いからね」


 王に勧められ、私はすぐ後ろに設えてある豪奢なベッドに腰を掛けた。すると、ごく自然に王も私の隣へ腰を掛ける。


 ――うわぁ!


 無駄に近くに来んといて~。せっかく落ち着いてきた心臓がまたドンチャンと騒ぎ出してしまったよ! そんな私に気付いているのかいないのかわからないけれど、王は淡々と語り始める。


「古の書物には禍の娘が召喚されると記されていた。どうやら凶器の音調・旋律を奏で世に禍をもたらせる、という内容が書かれていた」


 ――や、やめておくれ! 人を凶器とか禍扱いにせんといてくれや!


 私は王の辛辣な言葉に、心の中で鋭く突っ込みを入れた。バーントシェンナの時も、アイリッシュ王達から聞かされたその事実に、あっしがどれだけ辱められた事か! 再びあの恐怖が舞い降りてきた。


「そして娘の持つ禍の力は封印する事が出来る、とも記されていた」


 ――え?


 封印という恐ろしい言葉を耳にして、恐怖という痺れに躯が支配される。


「そ、それって私自身を封印するという事ですか!」

「そうではない。先ほども申したが、術力をもつ王と交われば、禍の力は封印され……」


 ここで何故か王は間を置く。空気がピリッと強張ったように感じた。


「そして交りを為した王には幸福の力が得られる」

「幸福の力?」


 ……ってなんだ?私はポカンとして王を見上げる。


「そう、正確には王が望む願いを叶えるという意味だ」

「え?」


 そうだ、今思い出した。アイリッシュ王も確か禍の力を無くす方法と幸福を叶える力の話をしてくれたな。でもそれって確か術者と交わればって言っていたような?


 だからバーントシェンナの中ではアイリッシュ王かキールかシャルトの誰かと交われば、禍の力は無くなるとばかり思っていたけど、でもこのマキマキ王が言うには「王」って限定した言い方をしているよね?


 あ、それとキールも言っていたな。禍の力を封印出来るのは自分じゃないと出来ないって……。だけど、キールは王じゃないしな。どうしてこう食い違いが出て来ているんだ?


 古い書物みたいだし、記載内容が異なってしまったのかな? ん~わっかんなぁ――い! 私の困惑した心が表情へと出ていたようで、王は宥めるような柔らかな様子で話を続ける。


「私は貴女がこちらの世界へ招かれたのは禍をもたらすのではなく、幸福の力を与える為だと思っている。それがまだ間に合って良かった」

「え?」


 なになに? 間に合ったってどういう意味だ?


「まだあちらの王と契りを交わしていないようだが?」

「は、はい」


 み、未遂ばっかだったもんね。ところどころキールと最後までいきそうな行為はあったけど、なんだかんだ先延ばしになっていた。


 ――そ、そういえば、キールとは私の女のコデーが終わったら、最後までって約束してたな。


 今までのエッチした出来事や約束を思い出したら、めちゃめちゃハズイんですけどぉお! 私はシュボボボ~と顔から火を噴き出した!


「大事な内容であるが、様子を見る限りバーントシェンナの王から何も聞かされていないように思えたのだが?」

「いいえ、話は聞いていました」

「そうか。貴女が来てから一月半(ひとつきはん)は経っているが、バーントシェンナの王は既成事実を作ろうとはしなかったのか?」

「へ?」


 そ、それは契りを交わさなかったのか、という意味ですよね? こっちの世界に来て初っ端から危うい行為ぼっぱなされておりましたよ! 私のなにか物言いたげな表情を目にした王は悟ったようだ。


「そうだったのか。しかし、あちらの王は貴女に我が国やヒヤシンス国の話はされたのかな?」

「ほぇ?」


 今の王からの質問に、私の思考は一時的に止まる。契りの件で、他国の話は一切聞いていない。私も特に訊かなかったってのもあるけどさ。


「いえ、特には」


 私は変に飾る事もせず、素直に答えた。


「それはまた酷い話だ」

「え?」


 穏やかな表情をしていた王の笑みが一瞬にして消える。


「契りを交わせる能力を持つのは、それぞれの王達だけだ。まさかバーントシェンナの王は自国の要件だけを伝え、事を済ませようとしていたのか? あそこの国は至福の国と讃えているが、実際は自国……いや正確には自分達王宮の人間の幸福しか考えておらぬ。自国の民衆や他国など、目もくれぬ冷酷無比な者達だ」

「へ?」


 いきなり告げられた事実に、私は裏返ったような声を上げてしまった。


「そ、そんな事はないと思いますよ」


 アイリッシュ王もキールも国や民衆の事をよく考えて、いつも遅くまで仕事に勤しんでいる。


「良くに見せかけているだけだ。禍との交じりはあの国だけの特権ではない。我が国もヒヤシンス国にも権利はある。それになにより貴女の意思も関係している。しかし、バーントシェンナの王は他国の話もせずに、無理に貴女を抱こうとしたのではないのか?」

「そ、それは……」


 私は返答に窮する。確かにこっちの世界に来た初日、キールに無理に押し倒されて、行為を成し遂げようとされた。あの時、言い争いになって私は散々泣いた。だってキールってば、私の気持ちをてんで無視してエッチしようとしたんだもん。


「私の言う事が間違っているかい?」

「そうではないんですけど……」


 でもあの時、途中から何故か熱が入ってエッチし始めちゃったんだよね。結局、最後の最後で行為をやめちゃったんだけど。それから一ヵ月ほどは全く手を出されなかったんだけど、スルンバのフン事件から、またエッチするようになって。


 なんだかんだ今ではキールに手を出されると、受け入れちゃんだよね。触れられていると心地好くて、なんだか愛情をもらってような錯覚が起きる。なんかキールの事を思い出したら、急に顔を見たくなってきたな。


 ――もう三日間も会ってないもん。向こうだって淋しがっているよね。


「あの」


 私は俯いていた顔を上げ、思い切って要望を口にする。


「私をバーントシェンナ国に帰して下さいませんか?」

「しかし、今話をした通り、貴女の意思や気持ちを考えない愚かな者達がいる国だ。いずれ貴女を不幸にするとわかっていて帰すつもりはない」

「私は不幸にはならないです。それになにより私が帰りたいんです」


 早くキールの元へと帰りたい。無性にその気持ちに駆られていた。


「残念だが帰させるわけにはいかぬ」

「え?」


 フッと顔に翳りを感じた。次の瞬間、私の背中はベッドの中へと沈んでいた……。


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