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第五十七話「マルーン国の王はストライクゾーン!」

 私は躯を硬直させ、扉へと神経を研ぎ澄ます。ゆっくりと開かれていく扉から、ゆらりと姿を現す男性が映る。


「!?」


 私はみるみると目を見開いていく。


 ――どっひゃぁああ――――――!! あ、あれは!!


 髪と瞳が煌く宝石の光を閉じ込めたプラチナ色、肌も雪のように透明感があって超美肌、服装はカッターシャツの上にベスト、その上に肩章が飾られたノーブルなフロックコートを羽織り、そして長い髪を美しく靡かせ、私の方へと向かって来る絶対的存在の男性の姿が!


 ――ど、何処の王子様で!


 バーントシェンナのアイリッシュ王を初めて見た時、神々しい陽射し(サンシャイン)に照らされた姿に魅了されたけど、この男性は妖艶な月光を湛えたような不思議な魅力をもっている。


 ――う、美しいんすけどぉお!!


 そのあまりの美しさに、私は委縮して後退してしまう。それから男性は私の前まで来ると、無垢な赤ちゃんへ向けるような柔らかな笑みを零した。あのアイリッシュ王より、さらに美顔だ!


 し、しかもモロ私のストライクゾーンだぁああ! し、心臓が息苦しくなってきたぞ。酸欠、酸欠が起きてます。そして男性と視線が重なると、魂が昇天しそうになった。


『良かった。返事がないから、姿をなくしてしまったのかと心配したよ』


 し、しかも声が良すぎません? 声優さんなら人気ナンバーワンになっちゃう、お決まりのイケヴォなんですけどぉお! そして背もめっちゃ高い。キールやアイリッシュ王も長身だと思っていたけど、この男性はさらに高くて、けっこう見上げるぞ。


 私は話しかけられていたんだけど、妙に緊張が高まって返事が出来ずにいた。そんな様子の私に男性は覗き込むようにして顔を近づけてきた。ぐぁあ! 無駄にその美顔を近づけんといておくれや!


『もしや言葉が通じていないのか?』

「?」


 ……言葉? そういえば!


「あー! 日本語を話している!?」


 私は面食らった声を上げた。美顔に魅了されて気付かなかったけど、男性はさっきからずっと日本語で話をしていた。最近まで音沙汰のなかった言葉に懐かしさが込み上げてきた。


「これは驚いた。こちらの世界の言葉が話せるのか?」

「は、はい。一応は……」


 男性は驚きの色を見せた。


「貴女がこちらに来てから、一月半(ひとつきはん)を過ぎたばかりだ。その月日でここまで話せるとは、貴女はとても聡明な方のようだ」


 男性はまた穏やかな笑みを浮かべて褒めた。


 ――ドッキューン!!


 艶めかしさを含んだ笑みに、あっしの鼓動が高鳴るんですけどぉお! それに褒めてくれたしね。そういやキール達から褒められた事ってなかったもんな。私は胸の内にホワ~ンと温かな気持ちが流れていた。


「まだ髪が濡れているな」


 男性は私の水分を含んだ髪に気付くと、私の頭上に手を乗せる。すると……?


「あ、あれ? 一瞬にして乾いた?」


 驚いた事に髪が綺麗に乾燥しているではないか! 不思議な力……まさか?


「ま、魔法使い?」

「ハハッ、そうだね。貴女の国ではそう言うのかね? こちらの世界では術者と言われている」

「あ、あの?」

「どうした?」


 私はさっきから抱いていた疑問を恐々としながら口にしようとした。


「アナタはもしかして……国王陛下ですか?」

「あぁ、申し遅れてすまなかった。そうだ、私は東地帯の大国、マルーン国王のマキシムズ・ア・ロンドルと申す。貴女は?」

「私は千景です」


 ――どっひゃ、やっぱり王様なんだ。わ、若いな。


 私と年が変わらない。多分、二十代半ばだと思う。王様というよりも王子様って感じだしな。


「千景か。やっと会えた。この一月半(ひとつきはん)以上も、私は貴女に会う事を待ち焦がれていた」


 な、なんと! マキマキ王は本当に待ち焦がれていたと言わんばかりに、愛おしそうにして私を見ているぞ! その表情を目の当たりにした私は熱を沸騰させる!


 ここまでの美形に、そんな表情をされたらノックアウトしちまうよ! 私はマキマキ王の熱い視線から瞳を逸らす。その時にふと目に入ったのが……。


「ピアス?」


 王は右耳を見せるようにして髪を耳裏へとかけていた。耳朶にプラチナ色のリングのピアスをしている。そのピアスにはバラのような華やかな花の紋章が彫られていた。


 ――このピアスに似たピアスをどっかで見たような?


「これは王のみが飾る国の紋章が入ったピアスだ。バーントシェンナの王も着けていただろう?」

「?」


 ――ん? アイリッシュ王って着けていたかな?


 王は長髪を下ろしているから、気付かなかっただけか。あれ? だけど、確かに私はこれに似たピアスを見たんだよな。何処でだっけな? 思い出そうとするのに全くダメだ。全然思い出せない。それよりも……。


「あ、あのどうして私の事を知っていたんですか?」

「古の書物より知っていた。“禍の姫君”よ」


 フッと真顔になった王の表情に、私は剣吞を感じ取って凍りついた。


 ――今……なんて?


 私の事を「禍の姫」って言ったよね。もしかして……? 私はふと浮かんだ嫌な予感に躯を退ける……ところにいきなり王から腕を掴まれた!


「!」

「すまない。とても失礼な言い方をしてしまったな」

「は、放して下さい!」


 私は掴まれた手を振り払う。だって私を禍って呼ぶって事は私を封印しようとしているかもしれないんだもの! 動悸が速まりに汗が滲み出る。やっぱりすぐに逃げれば良かった! 戦慄くあまりに瞳が涙で霞む。


「放してってば! 私は禍なんかじゃないんだから!」

「知っている。貴女は“救いの女神”だ」

「え?」


 王から意外な言葉が洩れ、私は暴れていた腕を止める。


「禍の娘は王と交われば“救いの女神”になると聞いている」

「え?」


 ――どういう意味なの?


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