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第五十六話「危険な国から脱走を試みます!」

 案内された浴室へ足を踏み入れると、


「うっわぉ~」


 思わず私は感嘆の声を上げた。バーントシェンナ国のバスルームは可愛らしい紫色のパステルカラーだったけど、こちらはエレガントなフラワーデザインとなっていて、バスタブもキラキラのピッカピカのゴールドなんですけどぉお! マジビビリますって!


 私は侍女さんから聞いた鏡の前に置いてある替え着を確認した後、着ている服を脱ぎ始めた。この後、王様に会わなきゃならないもんね。キレイキレイにしておかないと、無礼だって処刑されても困るし。


 すっぽんぽんになった私はバスタブの中へと入る。それと同時にきゅるるるぅ~と、お腹の虫が鳴った。参ったなぁ~、お腹が空いているわ。そりゃそうだよね、私ってば三日間も眠っていたんだもん。お腹もペコリンコになるわ。


 それから湯加減を調整した後、ボディタオルで躯を洗い、髪もワシャワシャと洗う。シャンプーもソープも香り高い。いつも使っているものは柑橘系の甘い香りのものだけど、こちらのは上品な香りだ。最後にお湯を溜めて躯を浸からせた。


 浸かりながら私は物思いに耽る。キール、心配しているよね? なんたって私は三日間も姿を暗ましているんだもん。きっと必死で私の事を探しているよ。一緒にも眠っていないし、もしかしたら淋しさのあまり、お酒と女性で紛らわしているかもしれない。


 あぁ~キールをそんな状態にさせた責任は重いな。そもそも私はどうしてこの国に来ているんだ? まさか……連れ攫われて来た? 確かバーントシェンナでの最後の記憶を辿ってみると、あの倒れていた男性に私は後ろから強く押さえ付けられて、その後の記憶を失くしているんだよね。


 ――それって………拉致られた!?


 そう思った瞬間、大きく戦慄が走った。心臓はドックンドックン、頭もグラグラとしてきた。それにシャルトの事も凄く心配だ。だって彼は私を助けようとした時、背後から頭を打ちつけられて、倒れてしまっていたんだもの!


 それを思い出すと瞳が涙で滲む。シャルト大丈夫だよね? 誰かが助けてくれているよね? 私はどんどん気分が沈んでいった。そもそもあの不思議な声の主はなんだったの? 助けを求めていたから、安全圏を通り越してまで救いに行ったのに、まさか…?


 今更だけど、あの声は私を(おび)き寄せる為の罠だったんじゃ…? 以前にスイーツを貰った時も深い眠りにつかせる毒菓子だったし、ケンタウルスのスーズも攻撃をかけられた事があった。今のバーントシェンナには危険が潜んでいる。今回も罠だったのかもしれない!


 ――ど、どうしよう。


 そういえばキールが言っていたよね? 今のバーントシェンナには他国の刺客が紛れていると。この国がまさかの……?


 ――わぁ~、王様に会うのどうこうの前に、とっとと脱走した方がいいんじゃ!


 私は居ても立ってもいられなくなり、すぐにバスタブから上がって服を身に着ける。さっきまで眠っていた寝室まで戻ると、心臓が飛び出すかと思った。


「お上がりでしょうか?」


 さっきの侍女さんが戻って来たのだ。


 ――ど、どうしよう。今すぐ部屋から出たいのに。


「お食事の用意を致しました。王が参るまで、ごゆっくりと召し上がって下さいませ」

「は、はい」


 緊張し過ぎて変に声が裏返ってしまう。私は出来るだけ自然に装って、用意された食事の前に腰をかけた。お、お料理は豪華で見事だな。フレンチ&イタリアン料理が混載の超ゴージャスで、醸し出されている匂いが私の食欲をそそるんですけどぉお!


 うぅ、ジューシーな肉料理から、大好きなクリームソースを使ったムニエル、海鮮たっぷりのパスタ、デザートもパフェやスイーツetcと、どれも、お、美味しそう。


 ――今すぐにかぶりつきたいけど、王が来る前に脱走しなきゃ!


 し、しかし、侍女さんがいるから出るに出られない。私がフォークとナイフに手をつけられずにいると、


「遠慮なさらずに召し上がって下さいませ」


 侍女さんから勧められる。一先ず、私はフォークとナイフを手に取って食べる事にした。すぐ目の前にあるムニエルを一口だけ食べてみると、


「お、美味しい!」


 絶品のあまり、思わず絶賛の声を上げてしまった。


「お口に合うようで良かったですわ」


 侍女さんは優しく微笑み、グラスにシャンパとよく似たお酒を注いでくれた。と、とりあえず、この後の体力を考えて食べられる内に食べておこうかな。私がモシャモシャと食を進めると、


「私はこれで失礼致します。また後ほど片付けに参りますので、宜しくお願いします」

「あ、有難うございます」


 侍女さんは丁寧に伝えてくれた後、部屋を後にした。こ、これは今がチャンスではないか! 私は逃げ出す機会を逃さんとばかりに、身を乗り出そうとした。が、目の前の料理を残して行くのが忍びないという気持ちと葛藤となり……。


 ――あ~食事をする手が止まらないんですけどぉおお!


 早く出て行かないと、王様が来ちまうよ! 私はパパパッと簡単にだけど、デザートまで食べ終えて、すぐに部屋の窓を調べに行く。


 ――ムゥー、この窓は開けられない造りになっている。


 仕方ない。部屋を出てバルコニーを探そう。私は急いで出入り口の扉へと向かって走る。その時だ。


 ――コンコンコン。


「え?」


 ドアがノックされる音を耳にして、私は素っ頓狂な声を上げた。


 ――ヤ、ヤバイゾ!


 ま、まさか、まさかまさかだとは思うけど、王が来たとかじゃないよね!


『姫君、入っても良いかな?』


 ぐぉっ、扉の向こうから甘々なイケヴォに声をかけられたぞ! ま、間違いない、今の声が王なんだ! ここはなんとか隠れて王が部屋から出るのを待とう。私は返事をせずに隠れる場所を探す。


『姫君、おるのか?』


 ひょぇ! 急げ急げ! 私はベッドの下を覗き込む。


「思ったより隠れられない!」


 次にクローゼットの中を開ける。ギッシリと詰められたドレスが並んでいて、あっし一人ですら入る事が出来ないよ。


 ――ヤバイヤバイ、ヤバイゾ!


 さらに私はキョロキロと視線を巡らせ、隠れ場所を探す。


 ――ギィイイ―――。


「え?」


 ――ひぃいいい!! 扉が開いてしまったぁぁぁぁ!!


 私はムンクの叫び顔に変わり、心の中で盛大に雄叫びを上げた。


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