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第五十三話「まさかの……負への大逆転!」

 ぐふふ❤ぐへへ❤ 只今の(わたくし)は一人ベッドの上で、枕を強く抱き締め、ニマニマ二ンマリとした表情を浮かべていた。


「千景、顔怖いぞ」


 仕事から帰って来たキールは人の顔を見るなり、実に気味が悪そうな表情をして言った。普段の私ならプンスカしてしまうところだけど、今の私はすべてを寛容に許せる仏の心をもっていたのだ。


「なんか良い事でもあった?」


 さらにキールは突っついて訊いてきたぞ。


 ――ありましたとも! ありましたとも!


 今日の昼間、数日ぶりにチナールさんと宮殿の中で会ってさ。先日のスイーツ事件以来になるけど、チナールさん体調も良くなったみたいで、また食材を宮殿へ届けに来ていたんだ。それでね、会話の途中で、な、なんとチナールさんから、


「いつも千景さんのニコニコの温かい笑顔に癒されます。千景さんのような方と一緒に過ごせたら、毎日が明るくて楽しいのでしょうね」


 なんて言ってもらえたんだよ。これってけっこうな脈ありだと思いませんかね? 遠回しにプロポーズされているって思っていいよね! まさかチナールさんも私と同じ気持ちでいてくれたなんて。これは興奮して顔にも出ちゃうってもんだよ!


「あ、そうだ、私の結婚式の時にはキールも呼んであげるから来てよね」

「はぁ? オマエ結婚すんの?」


 キールは露骨に面食らい、そして何処か煩わしそうな様子をして訊いてきたぞ。私は勘の鋭いキールに悟られないように、慌てて誤魔化そうとする。


「その時が来たらの話だよ」


 その日は近いかもしれないけどね! そうそう、だからキールとこうやって一緒のベッドで寝るのもヤバイよね。ましてやエッチをしているなんて問題外だ。チナールさんの奥さんになる身としてはキッパリと断らなきゃな。


 ――でもまだ正式に求婚されたわけじゃないからな~。


「まぁ、行けたら行くわ」

「なんだよ、人がせっかく誘ってんのにさ!」


 キールは特に興味も示さず、そのまま湯浴み室へと姿を消してしまった。まぁ、なんだかんだ式にはキールも来てくれるよね。チナールさんとは面識があるし、私ともこうやって一緒に過ごした仲だしさ。


 ――はぁ~、いよいよこの宮殿ともおさらばする時が来たんだなー。


 キールとの生活もお別れかー……、あんれ? なんか胸がチクリチクリとモヤモヤし始めぞ?


 ――なんでだろう?


 私は疑問に思いながらも、特にそれ以上は追求せずに、そのまま眠りの態勢に入った……。


☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆


「あれ? 千景さん?」


 ――こ、この声は!


 回廊のとある一角で名を呼ばれて振り返ると、な、なんと、チナールさんが目の前にいるではないか! ニ日連続で会えるだなんて初めてだ! これは完全なる運命としか言いようがないな!


「チナールさん❤」

 私は嬉しさのあまり、ほのかに色気づいた声で彼の名前を呼んだ。


「どうしたんですか? 昨日食材を届けに来られていましたし、今日は別の用事ですか?」

「そうなんです。実は本日特別なお客様がいらっしゃると、昨日シェフ様からお聞きしまして、改めて本日食材を届けに参ったところです」

「そうだったんですか!」


 そっかそっか、急な来客に感謝だな。こうやって連日でチナールさんに会えるなんてさ。近い内には毎日顔を合わせる仲になるんだけどね! ぐふふ❤ 私はまた自然と顔がニヤケてしまっていた。


「そうだ、千景さんもよろしければ、こちらをどうぞ」


 なにかを思い出したように、チナールさんは手元に持っていた紙袋の中から、レインボー色の丸いフルーツを取り出して渡してくれた。初めて見る果物だな。


「これは?」

「それは年に数回しかもぎ取れないレインボーフルーツです。そのままかじって頂いても大丈夫ですよ」


 私は言われた通りにフルーツを一口かじってみる。v

「お、美味しい!」


 目をキラキラさせて、思わず叫んでしまった。今のフルーツ、ナタデココのようにプニプニと弾力があって、触感は桃や洋梨のように甘く絶品だった。こんな美味しいフルーツ初めてだ。


「せっかく採れましたので、頼まれていた食材と合わせて持って参りました」

「す、すっごく美味しいです! こんな美味しい果物は初めてです!」

「良かったです。女性は特にお好きなお味ですよね。私の妻も娘も大好物なんですよ」

「……はい?」


 私はチナールさんの最後の言葉を聞いた途端、時の流れが止まったように感じた。頭をガツンッと殴られ、目の前が真っ暗になった気分だ。そんな私の急な様子の変化に、チナールさんは不思議そうな表情をして私の名を呼ぶ。


「千景さん?」

「チ、チナールさん、も、もしかして……け、結婚されていたんですか?」


 私は声を震わせて問うていた。


「はい。そういえば、お伝えをしていませんでしたね。実は妻と子供が五人おります。子供達はみな年子なんですけどね」


 そういうチナールはなにかんだ様子で答えた。


 ――お子さんが、ご、五人! しかもみな年子とは! ど、どんだけ奥様と愛し合っている仲で!?


 その後の私はチナールさんとの会話や、どうやって別れたのかも全く記憶に残っていなかった……。


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