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第四十六話「待っていたのはお仕置きです」

 ――あんれ?


 視界に薄っすらと靄がかかっている。ついさっきもこんな感じで目覚めたような気がしたけど?


 ――んん?


 見覚えのある景色が瞳に映る。あれはまさしくピンク色の天井、すなわち私の部屋だぁああ! 私は咄嗟にガバッと起き上がった。どうやら私はソファの上で眠っていたようだ。すぐに歓喜の声が聞こえてきて、私は視線を向けた。


 そして目にした光景にハッと息を呑んだ!ベッド上で深い眠りについていたキールが、目覚めていて、その彼に抱き付いているアイリッシュ王とシャルトの姿があった。


「良かったです、キール様! 本当に今回ばかりは駄目かと思いましたよ~」

「うん、ボクも正直覚悟してた。だけど、君は必ず戻って来てくれると信じていたよ!」

「んな大げさな」


 シャルトと王それぞれが感極まって涙を浮かべる中、キールは苦笑いをしながら、ニ人を抱擁していた。私はその姿を見て、何故かとても淋しい気持ちになった。なんだか三人の強い絆のようなものが見えて、自分には入れない雰囲気だった。


 本当は私もすぐにキールに抱き付きたい。彼の安否の無事を肌で感じたかったけれど、私にはその資格がないんだ。だって今回の事件の発端は私の身勝手な行動から起きたのだから。私は三人の様子を見ているのが辛くなって俯いていたら……。


「千景?」


 突然にキールから名前を呼ばれて、ビクッと反応して顔を上げる。


「あ……」


 私は罰が悪そうな表情をする。まともに三人の顔を見る事が出来ない。合わせる顔もないし、それにきっと咎められる。怒られて当然なんだけど、私はビクビクとしながら、言葉を待った。


「アイリ、シャルト、悪いが千景と二人にさせてもらえないか?」

「「え?」」


 私は思わずキールの方に視線を向けた。王とシャルトは一瞬驚愕した表情を見せたけど、互いに顔を見合わせると、そのまま立ち上がる。


「「わかった」」


 キールの言葉に従い、ニ人は部屋から出て行こうとする。私の横を通る時、突然に王がギュッと私を抱き寄せた。


「え?」

「千景、君は本当に頑張ったよ。本当に感謝している。キールを救ってくれて有難う。君を信じて良かったよ」

「王……」


 王の言葉に私の目頭は熱を帯びた。


「本当に頑張ったわ。キールは自分達の命より大切なの。救い出してくれて感謝しているわ」

「シャルト……」


 続いてシャルトも私の頭を撫でながら、感謝の気持ちを述べてくれた。私の頬に涙が伝う。王とシャルトに宥められた後、彼等はすぐに部屋を後にした。


 キールとニ人っきりになると、私は緊張の高まりと咎められる覚悟に、心臓がバクバクと鳴り始めていた。ソファから立ち上がって、キールのいるベッドへと足を運ぶ。彼を前にすると……。


「ごめんなさい」


 私はすぐに頭を下げて謝った。


「…………………………」


 キールはなにも言わず、ジッと私を見据えている。それから徐に口を開いた。


「なんで外に出た? 外に出るなと忠告したばっかだった筈だ」

「それは……ごめんなさい」


 謝る事しか出来なかった。今はなにを言っても言い訳にしかならない。謝って許される事ではないけれど、今の私にはそれしか言葉に出来なかった。


「あぁ~、そうか。千景は仕置きをされたかったのか」

「え?」


 続いたキールの言葉に、私の動きが固まる。お、お仕置きって?


「オレがどういう風に忠告したか覚えているよな?」


 私はハッとなって思い出す。あの時、確かキールは私のスカートをたくし上げ、その後、私の抗う声に行為を()めたけど、あのままされていたら本当は……。私はその先の事を考えると、シュボボ~と顔から火を噴き出そうになった。


「思い出した? 千景はあの時の仕置きの続きをされたくて、忠告を破ったんだもんな」

「ち、違うよ」


 即行私は否定したが、一通りのお仕置きが下されてしまった。私はボロボロに涙を零して躯を震わせていた。まだキールは怒っているだろう。ところが彼は私の髪をまるで愛おしむように優しく撫で、柔らかな声で語り出す。


「人の意識の世界で行われる試練は非常に厳酷だと言われている。あまりの非道な内容に狂気へと陥る者もいる。オレも過去に一度経験をした事がある。今でもほんの少し思い出すだけでも震え上がる。それをオマエはよく逃げ出さずに乗り越えられたな」

「それは私のせいでキールを死なせたくなかったし、それに王にもシャルトにも、約束をしたんだ」

「約束?」

「自分の命に代えても、キールを助けるって」

「………。オマエ意外と大した女だったんだな」

「なんだ、意外とは! 私は初めから大した女だぞ!」

「ハハッ。……千景」

「なに?」

「感謝している、有難う」


 キールの腕に力が込められ、その温もりに私はおのずと涙が頬に伝った。心の底から湧き上がる安堵の涙だった。


「本当に良かったぁ」


 無事にキールが眠りから覚めて、本当に本当に良かった。あのまま目を覚まさず、死んでしまっていたらと思うと、気がおかしくなりそうだった。悲しさに押し潰されて、心が死んでしまいそうだった。


 私はキールに応えるようにギュッと躯をより強く重ねた。ドクンッとドクンッと感じるキールの心臓の音がなにより彼が生きていてくれているという安心だった。


「もうベッドに入れよ」

「うん」


 言われて私はキールから離れ、ベッドへと入る。ゆっくりと寝よう。キールも相当疲れているだろうし。………しかし、その考えは大いに崩れ落ちた。何故なら眠りにつこうとした私のスカートの裾を再びキールがたくし上げてきたからだ。


「なっ、なにしてんだよ!」


 私は心底信じられんという奇異の眼差しをキールに向けて言う!


「なにって仕事まであと数時間はある。それまでにしっかり仕置きをしておかないと」

「お仕置きはさっきので終わったんだろ!」

「誰が終わったなんて言ったんだよ? そう簡単に終わらせられるモンじゃないだろ? 仕置きというか、オマエにはしっかりと調教しておかないとな」


 な、なんという事だ! さっきまでのイイムードが一気に興醒めし、青ざめへと変わる。そして私はキールの仕事の時間を迎えるまでに、たっぷりとお仕置きという名の調教が行われたのであった。


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