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第四十四話「待ち受けていたものは……」

「ここは?」


 広がる目の前の景色に私は茫然と見つめていた。そこは空も空中も地面もみな無色だった。ここは私がこの世界に来て、初めて目にした景色と一緒だ。ここが「キールの意識」の中なの? 疑念を持ちつつ、私は足を進ませる。


 初めて来た時のように、何もなくて何も感じられない不思議な空間だった。私はひたすら同じ方角へと向かって歩き続けているが、歩いても歩いても同じ風景の広がりに、不安が募ってきた。


 王は確かこの意識の中はどんな世界でなにをすればいいのか全くの未知で、アドバイスのしようがないと言っていた。だからキールにどう会えばいいのかも、会えても彼をどう目覚めさせるのかもわからない。


 さらに過酷な試練が待っているとも聞いた。一体どんな試練なのだろう……。考えれば考えるほど、不安は扇いでいったけれど、まずはキールと会えると前向きに考えるようにした。そういえば初めて来た時、思い付いたように両手を広げてみたら、躯が浮遊したよね?


 それを思い出した私は、あの時と同じように両手を広げて地を蹴ってみた。すると、フワ~ッと躯が浮き始めた! 私はしめたっと歓喜の声を上げて、さらに躯を浮上させ、先へと進む事にした。


 ――絶対にキールに会うんだ!


 何処に向かったらいいのか全くわからなかったけど、絶対に大丈夫の信念をもって、私はひたすら真っ直ぐに進んで行った。


 …………………………。


 暫くすると、祈りが通じたのか遠目で何かが目に入った。私はそれを確認する為に、スピードを上げて目的物へと近づく。


 ――あ、あれは?


 なんだろう? 大きな氷らしき塊が宙に浮かんでいる? 上から見下ろしていた私はそれを正面から見ようと、恐る恐る下りて行った。そして正面まで行くと……?


 ――!?


 思わず大声を上げそうになるが、あまりの驚きに却って声を発せなかった。何故なら氷の中に人が嵌め込まれていて、その人物が!


「キール!?」


 三メートルほどの大きな氷の中に包まれ、瞼を閉じているキールの姿があったのだ。会えた喜びを感じる間もなく、私は絶望感に襲われた。


「ど、どうしてこんな中に! まさか凍らされて死んじゃってるの!?」


 私は急いで氷に近寄り触れてみると、


「つ、冷たい」


 火傷をしてしまいそうな冷たさだった。こんな中に入れられているなんて正直生きているとは考えられない。だけど、私はなんとかして氷を溶かそうと周りを見渡すが、相変わらずウンザリとする無の景色の中に、希望となるモノがある筈がなかった。


「ど、どうしたらいいの!」


 せっかくキールに会えたのに、こんな意識の中まで眠っているだなんて、こんな事ってないよ! 私は絶望感に染まり、なにも出来ない自分の不甲斐なさや悲しみに涙が浮かんできた。


 ――なんで私、勝手に宮殿の外へと出てしまったのだろう……。


 あれだけ外に出るなと言われていたのに。今更後悔の念に見舞われ、止めどもなく溢れる涙に、私はただ立ち尽くす事しか出来なかった。


 ――キールを失いたくない!


 キールはエッチな事はしてくるし、腹の立つ事も沢山言うけど、私がこの世界に来て過ごせてこられたのは、キールが面倒を見てくれていたからなんだ。沢山お世話になったのに、私はキールになにもしていない。私のせいでキールがいなくなるなんて嫌だよ!


 彼を連れて帰らなきゃ、王やシャルトの元にも帰れない。本当にどうしたらいいの! 私は心の中で幾度と助けを求めた。拳を作り、血が滲み出るような思いで救いを祈り続けた。


 ――お願い! キールをここから出して! 目を覚まさせて!


 …………………………。


 しかし、願いは虚しくなにも変化は起きなかった。その内に諦めの心が勝り、涙すら枯れてきていた。私は途方に暮れ、目の前の氷に包まれているキールを抱き付くように触れる。触れた部分は一瞬にして凍りつくほどの冷たさだ。


 さっき触れた時は火傷をしそうだと反射的に離れたけど、今は全く離れる気が起きなかった。手も額もジリジリと痛み始めるが、それでも離れたくなかった。だってこんな凍りつく冷たい中に、キールは包まれたんだ。


 私の何倍も苦しかった筈だ。だから私もこの痛さに耐えないといけない。徐々に感覚が麻痺し、脳まで犯されそうな苦痛が回る。それでも私はさらにギュッと氷に強く抱き付いた。その時だ……。


 ――禍の姫よ。


 突如、上空から張りのある低音の声が響いてきた。


「え?」


 私は声に反応して氷から離れた。


 ――禍の姫よ。


 再び声が響く。誰? 誰かが私を呼んでいる? 私は声が聞こえた上空へと顔を向ける。声は再び私に話しかけてきた。


 ――其方が望む力を授けよう。


「え? それってこの氷を溶かせるのですか?」


 ――さよう。


「く、下さい! 私に氷を溶かす力を下さい!」


 私は姿が見えない天の声に縋るように懇願した。


 ――私が其方に与えるのは火を起こす力だ。


「はい、その火を起こす力を下さい!」


 ――火を起こすには……其方の肉体を燃やす。それでも力が欲しいか?


「え? 今なんて?」


 私は天の声を疑った。火を起こすには私の躯を使うって? 思考が停止する。まともに言葉の意味を把握する事が出来ない。


「え? えぇ!? ほ、他に方法はないのですか!?」


 ――残念だが、その方法でしか、その氷を溶かす事は出来ぬ。


 私は茫然となる。そんなバカな事って。確かに王は辛い試練を与えられると言っていた。


 ――それがこういう事だったの?


 試練どころかキールを救うには自分の命を差し出さなければならないという事? それって……究極の選択だよね! どうしたら? でも天は他に方法はないとキッパリ言い放ったのだった……。


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