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第四十三話「彼を救うには……」

 王の辛辣な言葉に、一瞬にして私の頭の中は真っ白に染め上がった。私の身勝手な行動一つで、キールを巻き込んでしまった。しかも絶望的な状況で成す術がないなんて。


 ――どうしよう、どうしよう、どうしたらいいの!?


 意識が朦朧とし始めるが、倒れている場合ではない! 私は必至で気丈を保とうとする。


「そのスイーツはなんなの!」


 シャルトは(いか)りと悲しみを(こら)えて、王へと問う。


「呪術がかけられている」

「それってまさか?」

「こんな強力な呪術を利用出来る術者がいるのは、多分ヒヤシンス国の人間だろう。街の中に刺客として紛れて込んでいたんだろうね」

「千景が外に出るタイミングを狙っていたのね。なんて事なの!」


 シャルトは頭を抱えるように瞼をきつく閉じた。呪術? 刺客? 恐ろしい言葉を耳にして、私はワナワナと震えが沸き起こる。そもそも私が狙われていた? なんで!


「どうするの! 祈祷師か魔術師を呼んで、術を解いて貰えばいいの!?」


 私の心に僅かな期待が生まれた。今のシャルトの問いが希望になるの?


「駄目だ。こんな強力な呪術はかけた本人しか解けない」


 王の否定された答えに、私の鼓動がドクンッと大きく波打つ。


「そんな! ヒヤシンス国が認めるわけないでしょ!」


 僅かな希望が打ち砕かれたからか、シャルトの苛立ちは強まり、王に食らい付いた。


「わかってる。それにまさかキールがこんな事になったなんて容易にも知られたくない」

「じゃぁ、どうするのよ! 周りに知られるまで、このままキール様をこの状態にしておくつもり!」

「そうとは言ってない! そんな事するわけないだろう! ……キールの意識に入って彼を呼び起こす」


 ――え?


 王の言葉に私は疑問を抱いた。意識の中に入るって、どういう意味?


「その禁術はキール様の許可がないと出来ないでしょ!」

「そのキールがこんな状態だ! 許可なんて律儀な事を言っている場合じゃない!」

「そうだけど」


 ここまで冷静でいた王の態度が変わると、シャルトの威勢が萎縮した。


「ボクが意識の中へと入る」

「ちょ、待ちなさいよ! 万が一の事があったら、今後この国はどうすればいいのよ!」

「君が後継者になればいい」

「なに言ってるのよ! アイリ、先代はアンタに託しているのよ! 私がなれるわけないでしょ!」

「ボクはその先代に命を懸けても、キールを守ると約束をしている! だからボクは行くからね!」

「駄目よ、私が行くわ!」

「ダメだ! ボクが行く!」

「……あの、私が行くのじゃダメ?」

「「え?」」


 急に間に入ってきた私に、王とシャルトは目を丸くして私を見つめる。ニ人の会話には正直わからない部分があったけれど、キールを救える手だてがあるのなら、私は黙っていられなかった。


「千景! これはお遊びじゃないのよ!」

「わかってるよ。私の勝手な行動が起こした事だから、責任を取りたいの!」


 シャルトに叱咤されたが、私は怯まなかった。彼は言葉を失ってジッと私を見つめている。強張った空気に見舞われる中、王は冷静な様子で私を見据える。


「千景、ボク達が今からしようとしている事はとても至難の業だ。人間の意識の世界は、いわば異次元のようなもので、下手をすれば、その次元に閉じ込められ、永遠に彷徨い続ける事もある。しかもそこでキールに会えたとしても、彼をどうやって目覚めさせるのかもわからないし、聞いた話では死に至るような厳酷な試練が与えられると聞いている。せっかく申し立ててくれたけれど、普通の人間の君に任せる事は出来ないよ」

「それでも私は行きます! 怖いから辛いから苦しいから、そんな理由で怯んでキールの生かせる可能性を潰したくないんです! 私はキールを失いたくない! 罪と責任を重んじて自分の命に代えてでも、彼を救いに行きます!」

「「千景……」」


 私は王の言葉にも怯まなかった。王とシャルトは視線を合わせ、瞳で物語っている様子だった。


「わかった。……千景に託そう」

「アイリ!」


 王の言葉にシャルトは一驚し、瞳を大きく揺るがせる。王の見据える視線に、私は揺るぐ事なく見つめ返す。その様子にシャルトも、それ以上なにも言わなくなった。


「もう一度言うけど、君の命の保証は出来ないよ? しかもどんな世界でなにをすればいいのかも、全くの未知であって、アドバイスのしようがない。それでも本当にいいんだね?」

「はい」


 私は躊躇いもなく答えた。キールは私が救い出す。責任だけで言っているんじゃない。キールがこのままいなくなるなんて考えられない! 王やシャルトがキールを大事にしているように、私も彼が大切なんだ。


「わかった。そしたらすぐに術をかけるから、こっちへ来て」


 私は王の言われた通り、キールが横たわるベッドの前まで足を運ぶ。


「寝台に腰を掛けて」


 言われ私は腰を落とす。王と向い合せになると、彼は宥めるような優しい瞳を向けてくれていた。


「千景、君なら大丈夫。なんたって君はキールが……」

「え?」


 最後の言葉が聞き取れず、すぐに王から額をコツンと重ねられた。


「千景、今から君をキールの意識の中に送り込むから、目を瞑って心を無にしていてくれ」

「はい」


 言われた通り、私は瞼を伏せて心を無にする。すぐに呪文のような不思議な声が聞こえてきて、刹那、眩い光に私の視界は埋め尽くし、王やシャルトの姿は見えなくなっていった……。


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