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第三十七話「大胆な愛の告白!」

 ど、どうしてキールが!? ま、まさか昼間の続きを伝えに来たとか!?


 ――バクンバクンバクンッ。


 私の心臓の音が急激に加速する。キールは颯爽とした足取りで、私とシャルトの前まで来ると、


「千景、話があるんだ」

「えっ」


 私は無駄に驚いて声を発してしまった。キールは半端ない真剣な眼差しを私に向けている。ま、間違いない、キールは私に想いを伝えようとしている!


 私は動揺を隠せず、思わずシャルトにアイコンタクトを送って助けを求める。が、何故か彼は冷め切った顔で、私を見返している。


 ――な、なんで、そんな顔しているんだ!


「シャルト、悪いが千景を借りて行く」

「わかったわ。とっとと連れて行って」


 な、なんですと! 人が助け舟を要しているのに、それをシャルトはフルシカトして、私をキールに渡そうとしているではないか。なんてヤツだ!


「千景、一緒に来てくれ」


 うぅ、キールからめちゃめちゃ本気(マジ)をぶつけられ、嫌だと言いづらいわ。そして彼は歩き出してしまい、渋々私も後に続く。シャルトの横を通る時、チラッと覗いてみると、早く行きなさいって叱咤するような怖い表情で返された。


 フンだ、後でキールを傷つけたって罵ってきても、私は謝りませんから。ちゃんと相談したのに、ないがしろにしたのはアナタなんですからね!


 …………………………。


 閑散とした夜の回廊に靴音が鳴り響く。キールの背中を追って歩く間、会話は一言もなかった。その空気が重いのなんのって。


 ――キール、まだ若いからな。私がフッたら、きっと暫く落ち込んじゃうよね。


 前から私がチナールさんを好きなのは知っている筈なのに、どうして好きになってくれたんだろう? まぁ、それは本人しかわからないにしても、好きな女性(ひと)が他に想っている人がいても、ラブアタックしてくるとは。


 好きになったら、気持ちが抑え切れなくなったんだね、きっと。それに今までフラれた事がなさそうだし、自信があるんだろうなぁ。参ったな~。さすがのキールを傷つけちゃうよ。あぁ~フラれるのは辛いけど、私的にはフル方が辛いよ。


 そんなこんなんを考えている間に、気が付けば、あるバルコニーの中まで来ていた。温暖気候のバーントシェンナ国だけど、さすがに夜ともなれば、ヒンヤリとして肌寒い。


 バルコニーの奥まで来てみると、背を向けていたキールが振り返って私を招く。彼の隣に立つと、私は目を見張って息を呑んだ。視界の先には街の明かりで連なる光の絨毯が広がっていて、瞬く間に目が奪われた。


「わぁ、すっごいキラキラ、綺麗!」


 宮殿からこんな美しい夜景が見える場所があったんだね。こっちに来てから一ヵ月以上が経つけど、全然知らなくて勿体ない事してた。こんな綺麗な夜景なら毎日だって見たいよ。


 興奮して自分の瞳までキラキラになっていた。その私の様子をキールが微笑みながら見ている事に気付いて、ドキリと胸が高鳴る。そしてハッとして気付いた。


 ――も、もしかして、ここでキールは愛の告白を?


 た、確かに、こんな素敵な場所で告白されたら、ひとたまりもない。しかもキールは綺麗な顔をしているし、背も高くてカッコイイ。さらに年が若い割に聞き惚れる低音ヴォイスをもっているし、その声で好きだって言われて、熱いキッスなんてされたら……。


 ――ヤ、ヤバイ、心がグラついてきたぁああ!


 で、でも私には……。


「……千景」

「は、はいっ」


 わわっ、変に緊張して畏まっちゃったよ。名前を呼ばれて向かい合わせになると、視線が重なる。その瞬間、心臓が爆音となり、キールにまで聞こえているとちゃうか。


「昼間の事だけど……」


 キールは(おもむろ)に口を開く。や、やっぱり、愛の告白をしようとして。ど、どうしよ~。


「あい」

「!?」


 まだキールが言いかけているのに、私は極度に反応をしてしまい、


「キ、キールの気持ちは嬉しいけど、私はチナールさんが好きなの」


 瞼を硬く閉じて叫んだ! だってだってだってキールが大胆にも、あ、あい、愛してるって! 確かにキールから愛されたら情熱的だろうとは思っていたけど、ここまで熱いとは!


「それは知っている。でも関係ない」

「!?」


 さらに驚きが乗っかってきて、私は瞼を開いた。か、関係ないって? や、やっぱりキールは相当な自信があるんだね。彼のペースに呑まれないよう、私は必死に言葉を選んで伝える。


「キ、キールの気持ちは言わなくてもわかってるよ。で、でも私には応えられないの。ご、ごめんね!」


 これ以上、ここにいたら気持ちがグラついてしまいそうで、私は伝えるだけ伝えて、この場から去ろうとした。


「待てよ。応えられなくてもいいから、最後まで話を聞けって」


 うわぁ~、キールからガシッと腕を捕まれたぁああ! 彼はなにがなんでも私に想いを伝えようとしているんだ!


「わ、私にはどうしようもないんだよぉ」


 私は涙目になって搾り出すような掠れた声が出た。


「わかってる。オマエに伝えてもどうしようもないって……。それでも伝えておきたくて」


 もうダメだ。キールは完全に思い詰めているようで苦しそうだ。言わせてあげない方が気の毒だと思った私は諦念し、彼の言葉を待つ事にした。


「あい」

「!?」


 あいと言われ、ビクッとする……けど?


「……つとはもう終わっている。でもずっと腑に落ちない事があって、気掛かりなだけなんだ」

「はい?」


 私の目は点になっていた。全く予想外な言葉が返ってきたものだから、思考がピタッと停止した。


「千景が勘違いしているみたいだったから、伝えておくよ。オマエからしたら、どうしようもない事だけどさ」


 私は目をパチクリとさせ、キールの言葉を懸命に把握しようとするけど、さっぱりわからないよぉおお!


「オレの自己満の話に付き合ってくれてサンキュー。これ以上ここにいたら、風邪引くな。早く部屋に戻ろう」


 霧から解放された澄んだ空気のような面持ちのキールは私に背を向けて歩き出した。


 ――え? え?? えぇぇえええ!?


 あ、愛の告白は? 私はキールの背中を唖然と見つめながら、頭の中では沢山の「?」を浮遊させて、暫くその場に立ち尽くす羽目となった……。


 本編後のちょっとした小話 ↓↓↓


「千景、なにしてんだよ? 風邪引くぞ、早く来いよ」


キールは私が後について来ない事に気付くと、振り返って自分の方へと来るように促す。


「ま、待ってよ、キール! 他に私に伝えたい事があるんじゃない!?」


 私はキールとの距離を縮めて食いついた!


「は?」


切迫感に募る姿の私を目にしたキールは怪訝そうに首を傾げている。な、なんか本気でわからなそうなのは何故?


「だ、だって、ほら! す、す……」

「す?」

 

 私の事が好きだって言いたいんでしょ? って訊きたいのに、は、恥ずかしくて言葉に出来ないぃぃ~!


「すっごく綺麗だ! 夜景よりオマエの方が綺麗だとか!」

「は? なに言ってんだ、オマエ?」


 キールが神妙そうな表情をして、私を見ているではないか!


「オレ、もう眠いんだけど。早く湯浴みに入って寝たい。先に行っているぞ」

「うわ~待ってよ~。置いてかれたら一人で部屋に戻れないじゃん!」


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