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第四話「美少年の色気の行為に気づかず」

『すぐに商品の取り調べをさせて貰おう』

『待ってくれって』

『監査される側に拒否権はない。取り調べをさせないのであれば、至急我が国まで連行を願おう』

『うわぁ~、わかったよ』


 なにやら、おっさん達が益々慌てふためいている感じだな。続いて私が乗っている荷台から足音が聞こえたと思ったら、今度はガタガタとした音がざわつく。なんだなんだ? 暫くゴソゴソとしと音が耳を纏っていた。なにか探しものでもしているんかい?


『その大きな物はなんだ?』

『そ、それは……』


 おぉ、な、なんか触られているんですけどぉ! 躯の所々を手荒に触られていた。セ、セクハラだぞ!


『何故答えない? まさか人ではあるまいな? 我が国では人売買は重罪だ。まして我が国から強奪したとなれば、処刑は免れんぞ?』

『ま、まさか』

『それでは中身を確認しよう』

『ま、待ってくれ! それは貴重な物なんだ! 布はオレが取る!』


 おっさんの一人が焦燥感に駆られた声で、私の方へと近づいて来るのがわかった。


『その必要はない』


 素敵ヴォイスが冷然なる口調で突き返し、私に掛けられている布を剥ぎ取ろうとした。おっ、これで助かるのか! 私は大いなる期待を胸に膨らませ、布が取られるのを待った。ところが……。


『ッキショー! コイツを殺やっちまえ!』

『オレ達の命の為だ! うぉぉ―――!!』


 ――ん?


 いきなり、おっさん達の雄叫びが聞こえたと思いきや、バタバタと足音が騒ぎ……? 続いてバキッ、ドガッ! と、なんとも鈍い音が響いてきたぞ!


 ――ひょぇ、こ、この音って!


 人が殴られている音っぽくない? 急展開の出来事に私の躯は酷く強張り、乱れる心臓の音が生々しく耳の奥へと響く。それも束の間、野蛮な音はすぐに()み、静謐(せいひつ)な空気が訪れた。


 ――な、なにが起こったんだ!


 そのまま身動(みじろ)ぎせずにいると、スッと頭に質量を感じて、すぐに布が剥ぎ取られた。数時間ぶりに浴びる光は眩しく、思わず目を瞑る。恐る恐る瞼を開くと、視界へ蓄積されていく映像に目を剥いた。古代アラビアン風の建物がズラリと並んでいたからだ。


 ――ひょぇ、やっぱアラビアンナイトの世界ですか! ん?


 視線の先にはさっきのおっさんニ人が仰向けになって伸び切っていた。そしてすぐ目の前に長い脚らしきものが? どうやら男性が立っているようだ。顔を上げようとした時、目の前の人物が腰を下ろしてきて、私を縛っている縄を解き始めた。


 男性は難なくすべての縄を解くと、今度は私の上半身をサッと起こし布を綺麗サッパリと取り払ってくれた。鮮やかな手つきであっぱれ! そしてその人物と視線が絡み合った……その瞬間!


 ――どっひゃぁああー! 出たぁぁあああ―――!!


 少女マンガの定型的な王子様、ナイト、王道ヒーローかい! 優に百八十センチは超える高身長で、褐色肌の引き締まった躯はバーヌース系の衣装を纏っていた。そしてショコラ色の癖のないサラサラの髪、新緑のように瑞々しい翡翠色の瞳は吸い込まれそうだ。


 顔のパーツは装飾美ですか? というぐらい端麗。美しさだけではなく、精悍さも含んだ厳かな雰囲気を放っている。すんごぉいカッコいい、こりゃ今まで見た男子で一番だよ、ナンバーワンだ! マジで押し倒したくなるほどの美少年だよぉ!


 ――そう、でも「少年」なんだよぉぉおおお――――!!


 彼はどう見ても高校生ぐらいにしか見えなかった。二十五の私から見ると、高校生も幼稚園児も同じ少年に見えちまうんだよ。私があと十歳、いやせめて五歳若ければなぁー、チキショー。


 しかも美少年って若いだけあって、不純異性交遊にお盛んだからな。この年で遊ばれたくないんだよね。つぅか、私と年の近い美青年を登場させて下さいよ~。お願いしまっせ、神様~。


 そんな私の思いとは裏腹に、少年は無遠慮に私を見据えている。そんなにジロ見しちゃって一目惚れでもされたわけじゃないよね? あ、ちなみに私達の横で伸び切っているおっさん達は、この少年がやっつけてしまったんだろうね。


「あの?」


 私が助けてくれたお礼を伝えようと口を開いたと同時だった。


『言い伝え通り娘か。まずは……』


 少年がなにを言っているかさっぱりわからなかったが、いきなり私の顔を両手で包み込み、さらに彼の唇は私の唇を塞いできた。

 ……………………………。


 押し付けるように深く唇を重ねてくるんだけど……。


『口開けよ?』

「なに言っているのかわからないよ?」


 少年は意表を突かれたように驚いている。


「つぅか今キスしたよね? やっぱ私に惚の字になっちゃったのかな、うひゃ♬」


 そんな私の喜びをよそに少年は再び唇を重ねる。なんだか動物からチューされているみたいで、くすぐったい。思わず吹き出しそうになった。そんな私の様子を少年は感取したのか唇を離し、大きな瞳を揺るがせる。


 ――本当に吸い込まれそうな綺麗なグリーンの瞳。宝石の翡翠石みたいだ。


 チューには集中出来ないけど、この瞳には魅かれていた。そして私の心とは別に少年は舌を見せてきた。私に舌を差し出す身振りをしているのだろうか。


「舌は出さないって。好きでもない人と舌を絡めたって気持ち良くなれない体質なんだよ、私は。っていっても言葉がわからないか」


 私は首を横に振って意思を伝える。


「助けてくれた事はお礼を言います。有難うございました」


 私はその場で少年に頭を下げてお礼を伝えた。うーん、このままこの少年と一緒にいても、王子様には出会えない気がした私はその場を去ろうとする。


 ――早くしないと夢が覚めてしまう。


 私は少年に背を向けて歩き出そうとした。


「何処に行こうとする? 言葉もろくに喋れないのであれば、再びどっかの商人にでも売られるだろうな」


 聞き慣れた懐かしい言語が耳に入ってきた! この声は間違いなく、さっきの少年だろう! 私は目を大きく見開いて振り返った。


「日本語喋れるんかぁーい!」


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