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第三十四話「彼等の恋愛事情」

 王の唇が私の唇と重なる……その瞬間!


『ふんぐぅ』


 今の声は私ではない。そう王から漏れた声だった。私はキスされる瞬間、左手で王の口を右手で王の目を覆った。一国の主にこんな事をするのは恐れ多いけれど、こちらもある意味貞操の危機と言える状況なので仕方ない。


 何故、目まで隠したかというと、それはこんな(まばゆ)い瞳で見つめられていれば、悩殺されてキスをしてしまいそうだったからだ。美形から見つめる瞳はマジヤバイ!


『ち、千景?』


 名を呼ばれて、私は王へと覆っていた手を素早く離した。


『い、いけませんわ! 一国の王がこんな何処のど、どいつかもわからない娘となんて!』

『ボクとじゃ嫌だったかな?』

『嫌とかじゃないんですけど、やっぱりこういう事は、す、好きな人とじゃないと、嫌なだけです!』


 素直な気持ちを伝えたけど、失礼な言い方になったよね? まるで王に対して愛情がないように聞こえるもん。


『そっかぁ。じゃぁ、千景は好きな人じゃないとキスをしないんだね?』

『はい』

『ふーん。好きな人としかねー』


 王は意味ありげな表情をしていた。私は怪訝に首を傾げていたけど、とりあえず王の機嫌を損ねてないようで安心した。が! 王って草食系男子に見えて、実は隠れた肉食系なんじゃ!


 キスする仕草も手慣れている感じで自然だったし、こ、これは所謂ロールキャベツタイプ! ひぃやぁああ~、イ、イメージがぁああ! と、私の心の雄叫びは当然王には聞こえておらず、


『王には大事な方がいらっしゃらないのですか?』

『え?』


 私は咄嗟に話題を持ちかけた。その質問に王は瞠目する。


『キールもですが、キ、キスとか好きな人以外にするのはどうかと』

『あ、なーる』


 キョトンとしていた王は私の言いたい事を察して微笑んだ。


『今のところボクにはいないよ』

『でも国王様なら婚約者さんがいらっしゃいますよね?』

『バーントシェンナ国に政略結婚は有り得ないからね。王族でも自由恋愛で結婚をしているし。残念ながら今ボクには心に決めている女性がいないけどね』

『そうなんですか。でもキールにはいますよね?』


 確か契り未遂の時、キールに訊いた「大事な女性(ひと))」。あの時はキールの恋人はシャルトだと思っていたけど、今となってはそれは全くの見当違いだってわかっている。でもキールに「想い人」がいるのは確かだと思う。


『気になる? キールの想っている女性(ひと)?』

『え?』

『でもそれを聞いたら、きっと千景はその女性に妬いちゃうよ?』

『はい?』


 私はポカンとなっているけど、王は真顔だった。なんかまるで私がキールの恋人を気にしているみたいに思われているよね? もう! 私の想い人さんはチナールさんだって知ってて、なんでそういう事を言ってくるんだろう?


『キールの事が好きで気になるわけじゃないですけど、やっぱり契りの事を考えると、相手の人に申し訳ないとは思います』

『そっか。ちゃんと契りの事を忘れずに考えていてくれていて嬉しいよ』


 王は満足気な笑みを広げる。


『キールの想い人はね、ボクの想い人でもあったんだ』

『へ?』


 王は躊躇う様子もなく、サラリと語り出してきて、私は度肝を抜かされる! 今なんと? キールと王が同じ女性を想っていたと! 私のポカンとした表情を面白そうに見つめている王が言葉を続ける。


『ボクやシャルトはキールが生まれた時から、今までずっと一緒に育ってきたんだ。そして、もう一人ある女性も一緒に』

『もう一人ですか?』

『そう。ボクは物心がついた頃から、彼女の事が好きだったんだけど、まぁ、昔からずっと一緒だった事もあって、中々想いを伝えられずにいたんだ。月日が経ち、今から二年前かな? キールが成長期でグンと男性らしくなった頃、彼も思春期だったんだろうね、ボクの想っていた女性を好きになったんだ』


 王の表情に切なさが滲み出る。


『ボク達は争ったわけでもないんだけど、気が付いたら見事に彼女の心はキールのものになっていたよ。正直キールよりもボクの方が彼女と仲が良かったから、とても驚いた』

『それって横恋慕ですか! ま、まさかキールは成長した躯を使って無理やり彼女を!?』


 キールって好きな相手には激しいラブラブ行為をしそうだもんね! 絶対に躯を使ってゲットしたに違いない!


『いやいや、そんな卑劣な事はしてないよ。純粋に彼女に気持ちをぶつけて、彼女はキールを選んだんだ』


 そうなんだ! あのコ、本当に好きなコには手を出さないのか。という事はやっぱり私って……。ただの契りの相手にしか見ていないんだね! まぁ、あっしにはチナールさんがいるから、どうでもいいけどさ。


『じゃぁ、やっぱりキールには恋人がいるんですね。彼女さんとは同じ宮殿の中にいる筈なのに、私が来てからの一ヶ月間、一度も会っていないです』


 彼女からしてみれば、キールの契りの相手とは会いたくもないだろうけど。


『そうだね。でもきっと会わない方がいい』


 フッと王の顔から笑みが消えた。やっぱ契りの私が会ったら、噛み付かれちゃうって事でしょうかね?


『わかりました。私からは好んで会わないようにします』


 アッサリと肯定した私を姿に、再び王から笑みが戻る。


『やっぱり、彼女に妬いちゃった? 聞かない方が良かったんじゃない?』

『ぜーんぜんですよ! 私にはチナールさんがいますし、キールの彼女の事もきちんと聞けて良かったです。有難うございました』

『そう? それは良かった』


 ふーん、やっぱキールには恋人がいたんだ。ん? だったら私と一緒に寝ているのヤバイよね? そんな事を思っている時にタイミング良く……。


『今の話、キールには秘密だよ?』


 最後、王から釘を刺されたものだから、キール本人に訊くが出来なくなり、私は今まで通り、夜はキールと同じベッドで休む事になるのだった……。


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