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番外編①「イジメられればられるほど愛が深まります」

 あの時「覚悟」を決めた。私がこの世界に来て、一世一代の決断だったと思う。が! 契り未遂の時と同じく、いつの間にか睡魔に襲われていて、気が付いたら……朝になっていた!


 ――なんでだ!


 強烈な睡眠薬が回ったみたいに、急に意識が遠のいていき、気が付けば部屋に眩い陽射しが差し込んでいた。


 ――これは偶然なのか?


 そして肝心なキールと最後までエッチしたのかというと………………………………


……………………………………………………………………していないとの事だった!


 キールからは急に私が眠りについてしまったって言われたけど、そんな筈はないっすよ! あの時、あんだけ心臓がバクバクとして破裂しそうだったってのに、悠長に寝られるわけないじゃん!


 もしかしたらキールがなにかしたのかな? って思ってはいるんだけど、もしそうであれば、けっこうショックだったりする。だって私はあの時、勇気を出して「欲しい」って、こばっずかしい事を口にしたのに、キールは実行しなかった。


 すなわちキールは私とはしたくなかったって事だよね! あ~私一人で盛り上がって、愛されているかもって勘違いもしちゃって、めちゃめちゃハズイってのぉおおお!! 確かにキールから一言も好きだとも愛しているとも言われてないしね!


 ハハッ、この恥ずかしさは言葉では表せられましぇ~ん。さてはて今日は五日ぶりに、シャルトとの勉強会が再開された。何故五日ぶりかというと、シャルトが私の躯から漂っていたスルンバのフンのニオイに耐えられないと、勝手に休学にしやがったのさ!


 レディに対してなんて失礼なヤツだ! さすがの私でもそんな理由をストレートに言われて、ショックを受けましたけど! まぁ、私としてもみっちりな勉強を四日も休めて、息抜き出来たから良かったけどね。


『やっと、ニオイが気にならなくなったわ。良かったわね、千景』


 勉強会が始まろうとした時、シャルトがにこやかな笑顔を向けて言ってきた。


『良かったよ。一番良かったって思っているのはシャルトだろうけど』

『そうね』


 躊躇いもなくハッキリと言いやがったよ! 酷いニオイだったのは認めるけど、そんなハッキリと言われると、傷つくんだからね、フンフン。


『シャルトが言うほど、におってなかったもん』

『あれは強烈だって』

『し、失礼な! キールはぜっんぜんにおってないって言ってたもん』

『は? そんなわけないでしょ? そういえば、怖くて訊けなかったんだけど、この5日間、まさかアンタ達一緒のベッドで寝てたわけじゃないわよね?』

『一緒だったけど?』

『はぁ? 冗談でしょ?』


 シャルトは思いっきし、しかめっ面をして訊いてきた。失礼な!


『冗談じゃないって』

『有り得ないって。だってキールって有能な術者なのよ? 普通の人より何百倍も嗅覚に優れているんだから、ニオイがあったアンタとは絶対に寝られないって』

『そんな事言われても、キールは一緒に寝てたもん。それににおってないって言ってたんだからね!』

『それってさー、アンタに嫌な思いさせたくなくて相当我慢してたんだね、あのコ』


 シャルトは同情した表情を浮かべて溜め息を零した。


『え?』


 私は目を見張ってシャルトを見返す。


『よく考えてみたら、この数日間、あのコの様子が微妙におかしかったもの。きちんと仕事はこなしていたけど、たまにふとボーッとしていて、まるで目を開けて寝ているみたいな?』

『それって寝不足だったって事?』

『そういう事』


☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆


 夜になり、私はソファーの上でジーッと物思いに耽っていた。勉強会でシャルトが言っていた事って本当だよね? そしたらキール相当我慢していたんだ。この一ヵ月間を振り返ってみると、キールって何気に気を遣ってくれてたよね。


 私がチナールさんと話がしたくて、夢中で言葉を覚えようとしてた時、寝る前によくキールから教えてもらっていた。何時間も付き合わせていたにも関わらず、キールは嫌がる素振りを見せなかった。


 それをシャルトに知られたら、しこたま怒られたんだよね。キールのやっている仕事は何千とあるから夜は寝かせろって。あとこっちの文化とかしきたりの事とか私生活で困っている事があったら、なんだかんだ手助けをしてくれていたし。


 よくよく考えたら優しいよね、あのコ。そんなこんなんを考えている内に、キールが浴室から上がって来た。そして私がソファーで寝転がっている姿を見て、すぐに眉を顰める。


『なんでまたオマエそっちで寝ようとしてんの?』

『……だって本当はキール、我慢してたんでしょ? シャルトから聞いたよ。術者だから普通の人の何百倍も嗅覚がいいって』

『それはシャルトが言っていた事だろ? オレはにおってないと言った筈だ』


 断定的に言い切ったキールだが、私は彼が気を遣って嘘をついているのだと察する。


『まだニオイが残っているかもしれないから、暫くはこっちのソファーで寝るよ』


 私は掛けシーツを被って寝る体勢に入った。キールはすぐに私の所にやって来て、私はビクッとなった。


『何度も言うけど、マジにおってないって』

『嘘だぁ』


 私はシーツから目だけ覗かせて答える。


『本当だって、だからベッドで寝ろよ。それとも意地張ってソファーで寝るっていう事は、この間みたいな事をされたいのかよ?』

『え?』


 私はキョトンとした。こ、この間みたいなって? ……思い出してシュボボボ~ッと赤くなった私はサッとソファから躯を起こした。


『ベッドで寝る』


 恥ずかしくてキールと視線を合わせずに答えた。そこにキールからいきなりクイッて顎を上げられて、キスをされる。口内に舌を差し込まれ、お互いの舌が重なると、舌を強く吸われてビクンッと躯が跳ね上がる。


 でもすぐに優しく絡められる。お風呂上がりのキールから甘い良い匂いが香り、湿った姿はフェロモンムンムンで、おいでおいで~と誘われているような感覚となり、頭がクラクラする。


『……ん、んんあっ』


 蕩けるような甘いキスに自然と吐息が零れる。


『そんな物欲しそうな顔して、もしかして誘ってんの?』

『ち、違うよ! 変態! んんぅ……』


 またキスを落とされる。今度は激しく舌がネットリと回る。何度も何度も甘いと激しいを繰り返され、段々と本当に欲しくなってきてしまった。


『やぁぁん、なんでまたエッチな事するんだよぉ!』


 気が付けば、また熱い夜を過ごす事になる。キールを慕う女性達から悪口や嫌がらせは相変わらずで、減る事はなかったけれど、彼女達のしでかした事がキールの耳に入れば入るほど、彼は私にラブラブ行為をして、私との仲が深まっていくのであった……。


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