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第十八話「禍から抜けるには術者と契りを交わす!?」

 赤恥(あかっぱじ)をかいて顔を伏せている私の頭をポンポンと撫でてくる人がいる? 視線だけを上げてみれば、キールから撫でられているのがわかった。何気に慰めてくれているのかな?


「千景、気分を害させて本当に申し訳ない。ただ天性のものだから気にする事はないよ」


 そう穏やかに微笑む王だけど、ちっとも慰めにもフォローになっていませんよぉ~! 生まれもったものだから、諦念しろって事じゃん! うぅ~、穴があったら即行入って二度と穴から出たくないよ。


「あの、禍の私を召喚してメリットなんてありませんよね? 私はなんの為に呼ばれたのでしょうか?」


 そうだ、そうだ、禍なんて呼んでどうしようってんだい? ま、まさかとは思うけど……世界制服!?


 ――いーやーだぁぁああああ!!


 フル音痴の歌で人を(あや)めるだなんて、カッコ悪いにもほどがある! そんなヒロイン聞いた事もありませんからぁぁああ!! 私は今、相当戦慄(おのお)いた表情なのだろう。キールがなにか言いたげだったけど、言うに言えないといった様子だった。


「うん、そう思うよね。千景がね、こちらの世界に来る事は秘伝の書物に記されていたんだ」

「秘伝の書物ですか?」


 新たに伝えられた事実に、私はお決まりに首を傾げる。秘伝の書物か。また随分と特別なものに思えるな。


「そう、預言を記してくれる秘密の書物なんだ」

「そこになんて記されていたんですか?」

「唄により生あるものを死へ至らす禍の娘だと」

「なんか凄い書かれようですね!」


 もう怒る気力も無くなっっちゃいましたよ! もうここまで来ればどんと来いさ! この時の私は完全に開き直っていた。フル音痴だと認めた今なら、なんでも受け入れられる気がして。


「禍の娘が現れる今日(こんにち)の日付と場所が記されていたんだ。よって私達の所存で千景を召喚したわけではないのだ」

「そうなんですか。じゃぁ、私ってなんの為に導かれたのでしょうか?」


 そうだそうだ、なにか理由があるから導かれたんだよね。それはきっと大役なんだろうな! 私は大いに胸に期待を膨らませた。


「それはね“唄により生あるものを死へ至らす禍を封印しなければならない”と記されている」

「へ?」


 今、なんと言っとばい? 「封印」って言いませんでしたか? …………えっと、え? え? えぇえええええ!? 私はあまりの衝撃にヨロヨロになりながら後退していく。


「い、嫌です、封印されるなんて!! 大体好きで音痴体質に生まれてきたわけじゃないのに、悶絶させるとか禍とか言われて酷すぎます!!」


 ――じょ、冗談じゃないぞ!


 勝手に召喚されたってのに殺されてたまるか!


「千景、まだ続きがあるから落ち着いて」

「もう聞きたくありません!!」


 私は興奮状態に陥った。恐怖で足は竦み、頭の中は酷く混乱していた。そもそもおかしいよ! 歌で人を殺める事が出来るなんて! しかも罪人扱いされて禍だの封印だのって冗談じゃない!!


 私は後退する速度を上げ、ここからすぐに逃げようとした。ところが、それよりも早くキールにガシッと腕を捕まれてしまった!


「放せ! 放せっ!! 私は禍じゃない!! 普通に日本で平和に暮らしてたんだ!! なのに、こんな世界に引きずり込まれて、禍呼ばわりされて封印なんかされたくない!!」


 私は恐怖のあまりボロボロに涙を流し、狂ったように泣き叫んだ。


「おい! 千景、落ち着けよ! まだ話が終わっていない!」


 キールは硬い口調で私を落ち着かせようとするが、私にはすべてが恐怖にしか聞こえなかった。


「うるさい! 放せ!! うぅ~怖い、帰りたいよぉ! お家に帰りたいよぉ……ひっく」


 とうとう私は子供が喚くように、わんわんと泣き始めた。だって私はただ素朴でいいから、温かい家庭を作る事がずっと夢だったのに、この状況はあまりにも酷すぎる。そんな私を見てキールはいきなり私の頬を両手で包み込み、自分の方へと向けさせる。


「千景、大丈夫だ。オレが禍にさせない。封印もしない、だから泣くな」

「キール?」


 私は大きく瞳を揺るがせ、キールと視線を重ねる。彼の澄徹(ちょうてつ)した翡翠色の瞳に我を忘れて見つめていると、さっきまでの喚きと興奮が嘘みたいに引いていく。暫く私はキールの瞳に見惚れていた。


「そこ、二人の世界に入らず、きちんと王の話を聞きなさい」


 付き人の女性から鋭い突っ込みが入った。私はハッと我に返ってキールから離れる。なんか今の私とキールの様子を見られていたのかと思うと、無性に恥ずかしいんですけどぉおお! 自分の顔が茹タコみたいに真っ赤になっているのがわかる。


「また話を聞いてもらえそうで安心したよ」

「取り乱してスミマセンでした」


 王は私を気遣い、柔らかな口調で話しかけてくれた。やっぱ王は素敵だな。


「あのね、確かに千景はそのままだと禍として封印される存在となるんだけど……」


 私はその言葉にビクッと肩を跳ね上がらせる。だが王はそのまま話を紡いでいく。


「実はね、ある不思議な能力をもった人物、私達は“術者”と呼んでいるんだけど」

「術者ですか?」

「千景の国だと魔法使いと言えばわかるかな?」

「魔法!?」

「正確には魔法のようなだけど。その術者とね、千景は契りを交わせば、禍としての力は失われるんだ」

「え、契りと言いますと?」


 私は目が点になった。だって「契り」って、つまりだよ?


「まさかとは思いますが、その術者さんと肉体的に交わるって意味ではありませんよね!?」

「察しが良くて安心したよ」


 ひぇ! そこ安堵の笑みを零すところじゃないすよ! 私、何処の誰かもわからん人とエッチしなきゃいけないのぉおお!? オーマイガッ!!


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