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第十七話「歌が下手なのは禍と称される重罪人」

 シ――――――ン。


 只今、静謐な空気が漂っています。私は目をパチクリとさせながら、目の前のお美しい王様を見つめておりました。そちらの王はものすごぉおく不安気というべきか、意に介する表情をされて、私を見つめていらっしゃいます。


「千景、理解しているかな?」


 王は私に確認を求めてきた。が、さすがに優しい王からでも「そうなのですね」と納得出来ませんってばぁあ! わざわいってあの「禍」でしょ! 人に不幸をもたらす物事なのに、それがあっしだって言いたいんでしょ! 理解出来ても認めたくないすよぉお!!


 それに、なにが悲しくて美しい王の口から、禍呼ばわりをされなきゃアカンのよ。私は名付けようのない複雑な顔をしている事だろう。蒼白となったり、険のある表情となったり、苦衷した顔となったり、その様子を見て、王は宥めるように声を掛けてきた。


「千景、君はね……」

「なんで私が禍なんですか!? どういう事か説明して下さい!!」


 私は不躾を承知で王の言葉を遮って、自分の意見をぶつけた。


「うん、ちゃんと説明するから、落ち着いて」

「落ち着けません! そもそも私は禍ではありませんから!」


 相手が一国の王であるのに、私は感情に身を委ねて荒げた声を出した。王は酷く困惑した様子で、私を見つめていた。


「千景、王にその態度やめろ」


 物静かに指摘するキールに、私は心底イラッとした。


「うっさい!」


 自分でもなんでこんなに感情を昂らせて怒っているのか不思議だった。救世主だと信じていたのに、その真逆の禍だなんて言われて、悲しみやら羞恥やら恐怖心やら、次から次へと湧き出てくる感情に、胸の内では収まらず爆発した。


 そして気が付いたら、いきなりキールから唇を重ねられていて、私は呆気に捉われる。でもすぐに我に返って、バッシーンと彼の頬を叩いていた。痛々しい音が広間(ホール)へと響き渡った。


「なにすんだよ! 他の人が居る前で! キールのキス好きも度が過ぎてるんだよ!」


 なんだか無性に虚しく悲しい気持ちが胸を締め付けて、瞳が涙で滲んでいた。


 …………………………。


「悪かったよ。でも王の話はきちんと聞いてくれ。国を守れるか大事な話なんだ」


 あのプライドの高いキールが謝って懇願してきた。これにはさすがの私も興奮が冷めてくる。


「う、うん。私の方こそ、ゴメンネ」


 自分でも素直に謝った事には驚いた。キールが調子づくかと思ったけど、彼が口元を綻ばせたものだから、めちゃ面食らった。急に自分の顔に熱が集中してきてドギマギとする。


 キールはイケすかないヤツだけど、笑顔だけは萌えだったりするんだな。僅かに顔が緩んだ私の表情を目にした王は安堵感を抱いたのか、頃合いを見計らって声を掛けてきた。


「あのね、千景は自分の世界にいた頃、人を悶絶させた事が何度かあっただろう?」

「はい?」


 またとんでもない唐突な質問に、私は目をこれでもかというぐらいパチクリとさせる。悶絶って苦しみ悶えて気絶する事だよね? あっし、そんな人を瞬殺する能力はもっていないですよ?


「えっと、私にはそういった記憶がないのですが?」

「うん。多分そうだろうなぁって思っていたよ。千景、人前で歌った後に聴いていた人達が、どうなっていたか思い出せるかい?」

「ん?」


 問われて私は記憶を辿ってみた。


「そういえば昔、幼稚園のお遊戯とか発表劇とか、あと学校の合唱コンクールだったかな。“お願いだから、口パクで歌ってくれ”って先生に懇願をされたり、友達とカラオケに行った時には私の歌が上手すぎだからか、みんなが余韻に浸るようにして気絶していたな。なんか私って歌姫みたいに人を惹き付ける力があるみたい!」

「オマエ、自分が歌上手いって思ってんの?」


 キールは美顔を崩し、ポカンとした表情で問う。


「そう思っているけど?」 「バーカ、その逆だよ! 人を悶絶させるぐらいド下手なんだよ! オマエのフル音痴は瞬殺もんだ!」

「はぁぁああ!?」


 私は即あったまきたから、言われてもないけど、その場で歌を披露してやった! 曲は桃色萌魅(ももいろもえみ)ちゃんの「桃色エスパー」。ハードロック調のノリノリでカッコイイ曲なんだよね!


 ――♪♪♪ ~♪♪♪ ~♪♪~♪♪♪ ~♪♪♪


 どうだ! サビを歌い尽くしてやったぞ! ところが、キール達の方に目を向けると、彼らは揃いも揃って固く瞼を閉じ、苦虫を潰したような表情をしていた。


「ひっでぇ~、まさに音の凶器だ。オレ等は術者だから、なんとか悶絶せずに済んでいるが、一般市民が聴いたら瞬殺ものだな」

「確かに」


 おいおいおいおい、付き人の女性までキールの言葉に、なに納得しちゃってるんですか? 有り得ませんから! 人を滑稽にして辱めて、なにが楽しいんだろ、この人達!


「千景、オマエの歌、破滅的にヤバイ。音が外れてるのは勿論だが、もうオマエにメロディという概念が存在していない。人を不快に……いや、悶絶躄地(もんぜつびゃくじ)に追い込む悪魔だな」

「アンタねー!!」


 言わせておけば、いけしゃあしゃあと言いよって! もう我慢出来ねー!! 私は第二の噴火を起こそうした。そこに物柔らかい王の声音が挟まれる。


「千景、君を傷つけたくはないんだけどね、君の歌声は人々を悶絶させてしまうんだよ」


 王から言われて、私は自覚せざるを得なかった。自分の歌が下手過ぎて、今まで人を悶絶させていたという事実に。私は言葉を失い、愕然と肩を落とす。


 もう今すぐこの場所から離れたい、消えたい、逃げ出したいぃぃ! カッコ悪いってもんじゃない、辱められて恥ずかしくて、私は顔を真っ赤にして伏せる事しか出来なかった。


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