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第九十四話「至福のひと時」

「あれ?」


 薄らと光が見え始めた。霞んでいた光が澄んだ視界へと変わっていく。明確になった頃、私はハッと我に返る。弾力のある固いなにかに包み込まれていて、それがキールの胸の中だと気付いた。


 自分の顔のすぐ隣には宝石のようにキラキラとした顔のキールが気持ち良さそうに眠っていた。確か……私達やっと一つになれて? そうやっと一つになれたんだ! その後にキールは契りの唱えを交わして、神様に願いを聞き入れてもらえて?


 私は記憶を思い出して歓喜に打ち震えた……が、ちょ、ちょっと待って! その後が肝心だよね。一つになった私達は? 愛を躯で感じ合っ…………た記憶がないんですけどぉおお!!


 ま、まさかもう終了したんとちゃうか? そんな感じですよね? あっしは全く記憶がないっすよ! 激し過ぎて記憶がぶっ飛んだのか! オーマイガッ! 神よ、記憶をお返し下さい! 


 私は相当なショックを受けて、あたふたともがいていた。その妙な動きで気付かされた事が……まさかまさかのキールと躯が繋がったままだったのだ!


 ――な、なんという事だ! や、やだぁぁ、ど、どうしよう。


 身動きが取れず、ぴとってキールの胸元に蹲っていると……。


「気が付いた?」


 いつの間にかキールが目を開いていて、私を覗き込んでいた。


「キール、起きていたの?」

「たった今、目が覚めた」

「な、なんか繋がったままだよ」

「ん、せっかく繋がったのに、離すのもったいなくて」


 柔らかな笑顔を見せて応えるキールに対し、私はあまりの恥ずかしさで、彼から視線を逸らしてしまう。


「一旦離そうよ?」

「なんで?」


 急に不機嫌な口調に変わったキールに、ヤバイと思った私は咄嗟に視線を合わせる。


 ――うわ、表情も険しい。すんごぉく怒っているぞ。


 私が困惑してたじろいでいると、キールの私の躯に怒りをぶつけた。

 

「や、やめてよぉ、酷いよぉ」

「酷いのどっちだよ? 契りの唱えを終えたら眠ってくれちゃってさ。こっちは生殺しのままで、起きていたら無理に犯しそうだったから、理性を抑えるのに無理やり寝たってのに」

「そう言われても、好きで寝ていたわけじゃ……」

「我慢してた分、ヤラせろって」


 ――ストレートだなぁ、もう。


 キールの素直な気持ちに、怒る気力が無くなっちゃったよ。ようやく、ようやくここまでやってきたのだ。私だってこの瞬間を大事にしたい。だから私はキールの愛に応える事を決めた。


 私達は時の流れも忘れるようにして、たくさん愛し合っていった。二人の情愛から生まれた陶酔は私の躯を快楽へと溺れさせる。私の恍惚感はキールにも伝わり、より彼の気持ちを昂らせて、さらに行為に拍車をかける。


 ありとあらゆる場所に愛情を注ぎ込まれ、神経が痺れ足の爪先から、頭のてっぺんまで快感に支配さていく。頭の中が蕩けて真っ白になるまで犯される。汗が迸り、お互いの躯に熱が上気し、繋がった奥までも熱くて蕩けそうだった。


 どうしてこんなに温かで幸福な気持ちにさせるのだろう。触れ合う肌からフワフワと熱に浮かされるような温もりを感じ、心も躯も快楽の極致へと向かっていた。まるで天国へと向かうような気持ちだ。


「千景……」


 耳元で囁かれるキールの甘い声。


「なあに?」

「愛している」

「え?」

「愛している。ずっとこうしたかった」

「キール……」


 私は涙が溢れて流れた。愛する人に包み込まれて愛の言葉をもらう。今まで経験した愛情とは比べものにならないほど、幸福感いっぱいに溢れ返っていた。躯全体で幸せを感じ過ぎて涙が止まらない。


「私も大好き。愛しているよ」


 ギュッとキールの背中に回した腕に力が入る。禍と称され、苦しく辛い思いもたくさんあったけれど、こうしてキールと巡り逢わせてくれた神様に私は深く感謝した。きっとキールと出会って愛し合うコトは必然的だったんだろう。こんなに愛する人はもう現れない。


 改めて心も躯も愛を確かめ合った私達は深く強く肌を重なり合う。触れ合えば触れ合う分だけ、次々と愛情が、幸福が生まれてくる。それは相手がキールだから味わえる至福のひと時だった。


 もう誰にも邪魔はされない、二人だけの時間。二度と離れたくない。離して欲しくない。それをお互いが確かめ合うように、そして魂までしっかりと刻み込むようにして、たくさんたくさん愛し合った。


 …………………………。


 …………………………。


 …………………………。


 心身共に満たされた後、キールは繋がったまま私に躯を預けてきた。


「……キール、大丈夫なの?」

「大丈夫だ。理性が吹き飛んでたから、我に返っているだけ」

「そ、そっか」

「オマエ、凄いな」

「ど、どう言う意味!?」


 ――私だけが激しいみたいな言い方されてない?


 レディに対してなんちゅー言い草だ!


「ハハッ、それだけオマエの情愛は深いって事だろうけど。しっかりと離さないって事だもんな」

「フーンだ!」


 私はブーくれてキールから視線を逸らしてやった。褒めたって許さないもん。だってし終えた後に言う言葉じゃないよね!


「悪かったよ、怒るなよ。やっと一つになれて幸せだ。千景は?」

「うん、私も同じ気持ちだよ」


 答えるとカァーッて躯全体が赤々となる。


「そっか」


 キールは満足げに笑みを深めた。その表情を目にしてしまえば、さっきの凄いという言葉はもうどうでもよく思えてきた。


「これでオマエの禍の力は完全に封印されたよ。歌ってももう誰も悶絶しないぞ」

「そ、そうなの!?」


 な、なんと! じゃぁ、これで心おきなく歌う事が出来るんだ!


「でもフル音痴なのは変わらないから無駄に歌うなよ」

「し、失礼な!」

「ハハッ!」

「笑い事じゃないっつーの!」


 と、まぁキールからの憎まれ口はこれからも減らないだろうけど、人を死に至らせる恐ろしい禍の力は封印され、私は禍から晴れてキールの「女神」となれたのだった。


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