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第九十一話「欲求不満をなんとかして下さい」

「千景、もういいか?」

「え! そんなもういきなり!?」


 まだラブラブモードに入って間もないというのに、恍惚とした顔と乱れた息遣いをさせたキールは内に秘めていた思いを爆発させてきた! 


「ま、待って! 心の準備が!」

「もう我慢出来ないんだ!」


 な、なんという事だ! 欲望をブチまけてきたぞぉ! とうとうキールの分身が私の中へと……。


「ま、待っててばぁああ――――!!」


 私は喉が張り裂けそうになるぐらい叫んだ!


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あんれ?」


 私は我に返ったようにキョトンとなっていた。ベッドの上で躯を起こしていて、どうやら叫んだと同時に眠りから醒めたようだ。


「い、今の夢だったの?」


 な、なんちゅーリアルドリームだったんだ! はぅー、こんなエッチな夢を見てしまうとは欲求不満とちゃうか! それもそうなる筈だよ。だってキールと離れてから、丸三ヵ月が経とうとしているんだもん。


 あのマルーン国とヒヤシンス国との戦争を終えてから、キールはおっそろしいほど、目まぐるしい生活を送っていた。なんたって大国の王がニ人もいなくなり、一気に三国の王となったキールはこの三ヵ月もの間、バーントシェンナ国の宮殿で過ごす日がなかった。


 マルーン国は弱肉強食主義で、共和国の考えをもつキールに反発して、反乱を起こそうとするし(反乱を起こした者は黒焦げの刑にすると脅して治まったけど。byアイリッシュ)、閉鎖的な考えをもつヒヤシンス国は心を開くのに時間はかかるわで、てんわやんわ。


 まぁ、アイリッシュさんのフォローで、だいぶ落ち着きが出てきたようだけど、それでもバーントシェンナ国に帰れるほどの余裕がないみたい。しかもいつ戻るのかもわからないんだとさ。


 今のバーントシェンナ国はシャルト率いる大臣や役人達がしっかり補佐をしていた。おかけでシャルトとの勉強会も中途半端になっていて、今は別の人から教えてもらっているけど、癖のある学者さんばかりで正直つまんない。


 たまに勉強を教えに来るシャルトに、キールに逢えない不満を愚痴るとフルシカトされる。愚痴を聞けるほどの余裕がないし、聞いていてウザイって言われたさ! そんな状況の私があんな夢を見る気持ちもわかるでしょ?


 私がそうなるぐらいだから、年頃のキールは毎日見ちゃって、私を恋しがっているかもしれないな! 今すぐ飛んで逢いに行きたいぃぃ―――! しかし、むやみやたらに掟を破ると、キールの愛が冷められてしまうのではないかとヒヤヒヤして、実行に移せないのだ。


 んで……肝心な「契り」も行えていないのだぁぁ! 超重要な事柄が後回しってヤッバイでしょ!? 他国の王がいなくなって契る相手がいなくなったからって、放置プレイは良くないと思うよ、うん!


 そもそもキールは三ヵ月前のビア王との戦いから、バーントシェンナ国に帰る事も許されず、他国の処理に追われる羽目になったんだよね。帰国が無事に出来ていたら、とっくに契りを交わせていただろうにさ。


 ――早くキールと一つになりたいよ。


 私は切なる思いを心の奥底へとしまって、ベッドから出たのだった……。


☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆


「あーあ、今日も一人で寝るのか」


 入浴を済ませた私は大人しくベッドへと入った。やっぱ一人は淋しいよ。キールも淋しい思いを抱いて寝ているわけだし、我慢だよね。……ん? 私はふと思った。


 ――ま、まさか欲求不満になって、私以外の女性とムフフな時間を過ごしていないよね?


 王のストレスを溜めてはいけませんとかなんとか周りがはやし立てて、美女を用意しとらんよね! 私は口があんぐりとして硬直する。


 ――あ、有り得そうだぞ! な、なんという事だ!


 私は我慢に我慢を重ねているというのに、片や欲求不満の解消を(おこな)っていたなんて! 確証のない出来事だけど、妙に私はイライラとする。そもそも私の事を本当に心から愛してくれているなら、一日ぐらい逢いに来てくれてもいいもんね! 淋しい思いをしていないから、逢いに来ないんじゃない!


 ――ッカー、もしそれが事実なら、あっしだって浮気してやるんだから!


 私は怒りをヒートアップさせ、枕をバフンバフンッとベッドに押し付けた!


「フンだ! フフンだ!」


 鼻息を荒くして、興奮度マックスになっていた時だった。


 ――ギィ――――!


「え?」


 突然に部屋の出入り口扉が開いたのだ。誰か入ってきたのかな? と、私は扉に視線を向けると……、


「ほぇ?」


 やたらキラキラした秀麗な人物が入って来たぞ。その人物とは……。


「キール!?」


 私はビックリして、思わず突拍子もない声を上げ、彼の名を呼んだ。


 ――わわっ! なんでなんでキールが!?


 今日戻るなんて聞いてないぞ!


「千景……」


 私と視線を重ねたキールも私の名を呼んだ。彼は深青色のオスマンコートを着用し、顔つきも一層精悍と男らしくなって帰って来た。その神々しい眩い姿を見て、私は気色に溢れ胸の奥が熱くなる! ずっとずっと待ち焦がれていたキールだ!


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