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第1話 隙間女

怖くはしないつもりです。

温かい目でお読みください。

熱帯夜とは今夜のようなことを言うのだろう。

無駄に暑い。蒸し暑い。

タンクトップにトランクスという非常に夏らしい格好なのだがやはり暑い。

もう全裸になってやろうか。

誰も居ない部屋に叫んでみた。

当然ながら返事は無い。

こういうとき一人暮らしの寂しさが辛い。

孤独に耐えられずテレビをつけた。

こんな季節だからつまらない心霊番組がテレビで放送されている。

再現VTRで名前も知らない女優が悲鳴を上げている。

夕飯、塩が多かったかな?

唐突にのどの渇きが気になった。

冷蔵庫には麦茶があったはずだ。

重い腰を上げて台所へ向かう。

テレビからまた悲鳴が聞こえた。




冷蔵庫から麦茶を取り出した。

ペットボトルを口に運んだとき、俺の視線は冷蔵庫と壁の隙間に釘付けになった。

……。

誰これ?

やべぇ。

マジヤベェよ。

何でこの隙間に人が居る?

壁と冷蔵庫のわずか2,3センチの隙間に女の人が詰まってこちらを見ていた。

赤いワンピース怖っ!

何でそんなに髪も長いんだよ。

顔見えねぇだろ。

だから家賃安かったのか。

一通り頭のなかで言葉が出尽くした後思い出した。

これって『隙間女』だよなぁ。

聞いたことがある。

いわゆる都市伝説。目が合ったら動いてはいけない。動けば死ぬ。

くそう。怖いじゃねぇか。

それにのども渇いてるし。

お茶があるのに飲めない。

あっ!

汗で手が滑りペットボトルが落ちた。

運悪く2リットルの凶器が小指の上に落ちた。

「痛だっ!」

思わずうずくまる。

動いちまった……。

麦茶が床に広がっていく。

ずるっという音が聞こえた。

隙間からだ。

怖っ!

顔上げたくねぇ〜。

絶対怖い顔して目の前に立ってるよ。

こうなったら意地でも顔上げるもんか。






昔から俺の意地が長く続いたことは無い。

喧嘩してもいつも俺から謝っていた。

ものの5分も経たないうちに俺は顔を上げた……。

予想に反して隙間から女は出てきてなかった。

なんで?

疑問はすぐに解決した。

赤いワンピースから覗く白い素足に粘着シートが引っ付いていた。

先日家にゴキブリが出たときに仕掛けたヤツだ。

俺が顔を伏せている間に散々頑張ったと見えてワンピースにだいぶ埃がついていた。

これなら動ける。

俺は余裕を持って目の前の妖怪を観察した。

隙間に入っていること以外は人と変わらない。

長い髪の毛で顔は分からないがなかなかスタイルは良い。

服装は膝丈の赤いワンピース。今は埃で汚れている。

目立った怪我も無い。

思い切って髪の毛を分けて顔を見てみようと手を伸ばした。

顔にぎりぎり触れないあたりでいきなり手をつかまれた。

「うぉわ」

変な声を上げてしりもちをついた。

そのせいで隙間から女を引っ張り出す格好になってしまった。

倒れた俺に女が覆いかぶさる。

こんなこと初めてだ。

一瞬ポジティブになったがそれもすぐにかき消された。

髪の毛の隙間から口だけが見える。

赤い口紅を引いたその口が笑みを浮かべている。

もう死ぬ。

怖い思いをする前に死んでやる。

俺はかたく目をつぶった。

「キャー!」

テレビから悲鳴が聞こえる。






「キャー!」

今度はテレビからではない。

真上だ。

目を開けると同時に突き飛ばされた。

もちろん隙間女にだ。

訳も分からず台所の床を転がった。

転がった拍子に腹部から何か走り去って行った。

台所に良く出る触角の長い黒いアレだ。

隙間女は玄関に走っていった。

……。

助かったか?

いや違う。

戻ってきた。

手に何か持っている。

スリッパだ。

スリッパを取りに行ったのだ。

何する気だ?

もうゴキブリは居ない。

隙間女はスリッパを持ってこちらに歩いてくる。

スリッパで殺される。

どう考えても残酷な死に方が想像できない。

スパーン!

思いっきりスリッパで頬をはたかれた。

呆然と頬を押さえる俺を隙間女は睨んだ。

「汚い!」

捨て台詞を残して隙間女は戸棚の隙間に入っていった。

頬がひりひりする。

テレビからは悲鳴が聞こえる。

外では虫が鳴いている。

俺は床にこぼれた麦茶を拭き始めた。





















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