あの子を守る為ならどんなに嫌われても構いません
『私は頑張る女の子を応援したいのです』の別視点です。
大財閥の一人娘として生まれ、
両親譲りの美貌を受け継ぎ、
教えられた事は難なく一発で覚える能力を持ち、
両親にも周りの大人たちにも可愛がられ、
何不自由なく暮らしているのが当たり前だと思っていたある日。
ある少女との出会いが『わたし』の『記憶』を呼び起こしてしまいました。
私はこの世界が『わたし』が大好きだった乙女ゲームの世界であることに気づいたのです。
『わたし』の記憶が蘇った時、『私』は5歳でした。
最初はパニックを起こし、熱を出して1週間寝込んだみたいです。
その時の『私』の記憶がないので…後から両親から聞きました。
『私』と『わたし』の記憶が混乱していたからだと思います。
生まれる前の『わたし』つまり前世の『わたし』は病気がちで入退院を繰り返していた少女でした。
唯一の楽しみが、姉が買って来てくれた少女漫画や小説、乙女ゲームでした。
だから気づいてしまったのです。
私が生きている世界が前世のわたしが最後にプレイしていた乙女ゲームの世界とそっくりであることに。
そして、今の自分の名前を再確認して絶叫しそうになりました。
乙女ゲーム嫌われ主人公No.1の宮代鈴奈に生まれ変わっている事を知ってしまったのです。
ゲーム内の宮代鈴菜はWヒロインの一人でした。
才色兼備で常にイケメンに守られていた主人公に最初から好感を持てるプレイヤーはいませんでした。
(一部奇特な方もいらしたみたいですが…)
攻略キャラは私立橘樹学院の初等部時代からの同級生や上級生でした。
なので最初から好感度は平均以上のため、選択肢さえ間違えなければ一発でベストエンドまで進めるキャラでした。
一方、もう一人の主人公・八城愛生は高等部から編入する外部入学生なので、攻略キャラたちの好感度は0からのスタートなので、ユーザーからは鈴菜の後にプレイすると苦労するけど、その分ベストエンドを迎えた時はボロ泣きしたと多くの感想が寄せられたという。
ゲームを進める上で、簡単に攻略できるのは鈴菜ルートでの攻略ですが、全てのキャラルート後に待ち受ける悲劇にユーザーから『後味悪い』『なんでこんな結末作ったの?』という怒りの感想があるのです。
鈴菜は攻略キャラとのエンディングを迎えた後、長年側にいた幼馴染を殺してしまうのです。
鈴菜と結ばれた男性に『これからは鈴菜のことお願いね』とお願いをしている場面を見た鈴菜が誤解し、嫉妬して幼馴染を殺してしまうのです。
特定のキャラだけならこういうこともあるだろうと思うが全てのキャラエンドで発生したため、鈴菜は乙女ゲーム史上もっとユーザーに嫌われた主人公となったのです。
そんな主人公に生まれ変わってしまった『わたし』は考えました。
そして、決意したのです。
彼女…季松紫都香に嫌われるように行動しようと…
紫都香は黒い髪を背の中ほどまで流した和風美人ですが、いつも無表情のため周りからは近寄り難いと思われていました。
しかし、ふと浮かべる笑顔を見た人はみな、彼女の虜になるのです。
私も紫都香のふんわりと浮かべる笑顔が大好きです。
写メにとって保存しておきたいほどに紫都香の笑みは貴重なのです!
紫都香のファンの方たちがこっそりと撮った笑顔の紫都香の写真を配布しているのを見て私も欲しいと言いそうになりましたわ。
紫都香に嫌われるようにしようと思ったその時から私は紫都香の前でだけ意地の悪い笑みを浮かべたり、
ほんの少し前まで優しくしてあげた人の悪口を言ったりして、紫都香が私に対して『嫌悪』するように仕向けました。
数年も経てば、私の側にはいたくないという紫都香の心の叫びは私にも分かりました。
だが、周りが私から紫都香が離れることを許しませんでした。
私と紫都香は常にセットとして見られていました。
下級生、同級生、上級生はもちろん、教師たちにまで…
私が紫都香を開放してあげられるチャンスは一度だけ…
ゲームの開始日である高等部の入学式を迎える前の中等部の卒業式がラストチャンス。
その時を逃したら紫都香の死を回避できなくなる。
私は中等部の卒業式の後、紫都香をこっそりと裏庭に呼び出しました。
呼び出された理由が分からない紫都香は首を傾げながら私が話し出すのを待っていました。
私はぎゅっと自分の両手を握り締めて
「紫都香、高等部に入学したら、私のお手伝いをしてくださいますわよね」
いつものように紫都香の前だけ晒していた黒い笑みを浮かべながら告げました。
紫都香は一瞬何を言っているのか分からないという表情を浮かべたが、次の瞬間きゅっと表情を引き締めた。
「鈴菜様、お返事は高等部の入学式までお待ちいただけますか?」
紫都香の問いに私は小さく頷いた。
「ええ、構いませんわ。色よい返事をお待ちしておりますわ」
私はそれだけを言うと紫都香をその場に置いて学院を後にしました。
私は確信しました。
紫都香は必ず私の側を離れると…
きっと4月から編入してくる八城愛生の友人になると…
これで紫都香の死を回避できます。
私は初めて出会った時から紫都香が大好きなんです。
いいえ、『わたし』がゲームをプレイしてた時から一番好きだったキャラなのです。
友情エンドがなかったことを嘆いたほどでしたから…
だから、彼女の死は絶対に回避しなければいけないのです。
その為には私の側にいてはダメ。
私の側にいたら常に『死』が彼女に付きまとってしまう。
私ではなく、八城愛生の側にいれば最悪の事態がなければ紫都香は生き残れるのです。
4月
私立橘樹学院高等部の入学式が行われました。
私の予想通り、紫都香は八城愛生の友人になり、私の側を離れました。
今までの私たちを知っている人たちは紫都香を裏切り者と罵る事がありました。
しかし、紫都香は新たに出来た友人たちと楽しい学院生活を送っておりました。
ずっと無表情だった彼女が徐々に笑顔を浮かべる時間が長くなっていきました。
私では引き出せなかった表情を八城さんはどんどんと引き出していきました。
時々、八城さんと攻略キャラを挟んで揉め事が起きました。
何度避けようとしても発生してしまうので八城さんの方が好感度が上がるように行動するようにしました。
全ては紫都香を生かすため…
八城さんがバッドエンドを迎えてしまうと紫都香が八城さんを庇って死んでしまうからそれを避けるためだけに、私は行動する。
紫都香が生き延びてくれるのなら私は嫌われても構わない。
大好きな紫都香が生きていることが私の幸せなのですから…
お読みいただきありがとうございます。
【鈴菜ルートで紫都香が殺される理由】
鈴菜が紫都香を誰よりも愛してしまったがために、誰にも渡したくないという想いが生まれたために『紫都香を殺して、自分だけのものにする』という行動を起こさせてしまう。
たとえ、愛する異性を得たとしても、鈴菜の一番は常に紫都香だった。
鈴菜と紫都香の互いの想いは『恋愛』か『友情』かの違い。
鈴菜は紫都香に『恋愛感情』を持っていたが、紫都香は『友情』しか抱いていなかったため、鈴菜の中で徐々に狂いが生じて暴走した想いが『紫都香を殺せば私だけのものになる』という行動を取らせてしまった。
という理由からでした。
Σ(・口・)別に殺す理由ないじゃないか!というつっこみは無しで…(苦笑)
誤字脱字は見つけ次第訂正していきます。