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P9

お昼を北澤さんと食べるようになって、三人とは、かなり疎遠になってしまった。彼女は決して悪い子じゃない。素直だし、僕を好きでいてくれて、何かと喜ばせようとしてくれる。話題も豊富で、話していて楽しい。修の事がなかったら、本当に好きになっていたかもしれない。付き合えない、という理由が思いつかない。他に好きな人がいるといえば、それは誰なのかと問い詰められるだろう。これ以上、修を巻き込むわけにはいかない。


「そういえば、最近、うちのクラス、すごく賑やかなんだよ」


ある日の昼休み、北澤さんがふいにそう言った。


「へえ、四組? なんで?」


「佐倉派の活動が、活発なの」


「佐倉派? って、修?」


くすくす笑いながら、うん、そう、と楽しそうに答える。どういう事だろう。


「知らないの?

 去年の文化祭あたりから、神崎君たち仲良しの四人、

 すっごく人気あるんだよ。

 特に、神崎派と佐倉派が二大勢力。

 でも、神崎君と佐倉君、仲良くてなんとなく間に入りづらい雰囲気があって、

 みているだけって子たちがほとんどだったの。

 それが、私と神崎君が付き合い始めて均衡が崩れたっていうか。

 神崎派が佐倉派に鞍替えしたり、

 他の子に取られるくらいならって、焦る子が出てきたりで、

 佐倉君へのアプローチが激化し始めているってわけ。

 佐倉君は今のところ、特定の誰かっていないみたいだけれど。

 せっかくだから、幸せになって欲しいよね」


「ん? うん」


修が、そんな事に。くそ、そっちの情報が欲しい。けど、四組に近付くと発見されて目立ってしまう。かくなる上は。こっそり行動範囲に目星をつけて待ち伏せると、予想的中。


「おかっち、おかっち」


廊下の角から小声で呼びかけて手招きすると、呆れたような表情で岡田早彩がそばに来てくれた。


「ご指名とは珍しい。どうした、キタザワダーリン」


ちっ。

言い方から察するに、修の事は別としても、多分、そういわれる事を喜んでいないであろう僕の心情に、なんとなく気づいているんだろう。軽くしかめ面をしてから本題を切り出す。


「情報が欲しい。佐倉派とか、なんなの」


「ああ、君が片付いてからこっち、動きが活発なようだね」


「修は、どんな?」


「最近暑いよね。購買のアイスがおいしい季節」


「後でおごるから」


「ま、のらりくらり、かな。落ち着かなくて疲れている風ではある。

 バニラといちご、どっちにしようかなあ」


「わかったよ、両方食べればいいだろ」


「有力候補は、今のところ二人。

 まず、一年二組の永島さん。

 タウン誌の美少女紹介とかいうのに載った事があるらしい。

 特技がピアノっていう才色兼備。

 本人は元々大人しい子みたいで、

 どっちかっていうと、周りの友だちが盛り上がって押している雰囲気。

 もう一人が三年生、茶道部部長の小野さん。

 古風でしっかり者の美人って感じかな。

 あ、図書委員で一緒らしいから、神崎君も会っているかも」


その二人とも知っている。数年前まで男子校だったという蓬泉は、圧倒的に男子生徒の方が多い。きれい系の女子は目立つ。


「で、そっちはどうなの?」


「そっち?」


「君たち、二人。仲良さそうだけど」


さらっとした聞き方だけれど、本心は何を聞きたがっている? じっと様子を窺うと、諦めたように言葉を続ける。


「根強い神崎派から、たまに聞かれるんだよね」


「別に、普通。アイスは、後で声かけて」


はい、毎度、という彼女に手を上げて応えてその場を離れようとすると、あー、ちょっと、と呼び止められた。


「佐倉派の情報もいいけれど、

 ハニーの動向にも、気を回しておいた方がいい気がするよ」


ハニーって、北澤さんの事か?


「どういう事?」


「うーん、今の段階では、言えるのはそれだけ。

 この情報料はおまけしておく。じゃ、そういう事で」


なんだ、一体。ま、北澤さんの事は付き合っていくうちにわかるだろう。とにかく佐倉派のアプローチが活発って話は本当らしい。束縛できるような立場じゃないけれど、だからこそ、心配だ。

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