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P8

放課後、せめてノートのお礼をしようと思って四組に行った。それをきっかけに、修とちゃんと話せたらっていう期待もあった。HRが少し長引いているらしい教室の前に立っていると、他のクラスのやつらの視線と、クスクス笑うような気配を感じた気がした。なんだ? 感じ悪いな。もしかして、僕から負け犬臭みたいなのがでているんだろうか。気持ちが弱っているせいか、やたらと気になって凹みそうになる。

ガタガタと椅子を動かす音が聞こえて、前のドアから四組の担任が出てきた。教室内から誰かがでてくる動きが生まれるまで、少し待ってから後方のドアに近付くと、ドア近くの席の、元一年二組の女子が僕に気づいて、あ、とうれしそうな表情を浮かべた。


「きーたざわー、ダーリンがお迎え」


その声に、四組全体の視線が集まる。まだHRは終わったばかり。教室内には、ほとんどの生徒が残っている。元一年一組の知った顔も多い。早瀬、戸川、岡田さん、そして、教室の最前列で少し驚いたような、痛みに耐える表情を浮かべてすっと視線をそらす、修。


「すぐ準備するね、ちょっと待っていて」


うれしそうに頬を染めていそいそと準備する北澤さんに、近くの席の女子がからかうように声を掛ける。違う、僕は修に用が、とは、とても言い出せそうにない雰囲気。


「お待たせ、いこ」


目の前に立つ彼女へのリアクションに戸惑う。やっぱり、君と付き合う気はない、修と話したい、という言葉が頭の中に渦巻く。クラス中の視線が集まるこの場所では、さすがに、それは言えない。けれど、このまま修に背を向けて教室を離れてしまったら、本当に彼女を迎えに来たのだと思われたままになってしまう。北澤さんは、どうしていいか混乱し、固まって立ち尽くす僕にくすっと笑いかけると、手首をつかんで引いた。教室中から、ちらほらとヒューという声が上がる。


「出口に立っていたら邪魔になっちゃうよ。ね、帰り、どこか寄る?」


迂闊だった。さっき廊下で視線を感じた時に、凹んで逃げようとせず、その嗤いの種類を少しでも考えていたら、こうなる事は予測できたのに。どうする事もできずに、彼女に手をひかれ、そのまま帰る羽目になった。


マンションで一人になって、ケータイの画面を見つめていた。帰りがけ、彼女から言われるままにケータイ番号とアドレスを交換したので、何通かメールのやり取りをした。自分の迂闊さに呆れるばかりだ。どんどん後戻りできない道を進み続けている。修に、ノート、ありがとうと伝えたい。傷つけてごめん、って。そして、本当の気持ちを。

湊に言われるまでもない。今の状況でそんな事を言っても、さらに修を傷つけるだけだ。今思えば、入院中に電話した時、きっと修は、このノートをまとめていたんだろう。早く寝るようにと急かすのも、ただ、本当に、純粋に、僕を心配していただけだったに違いない。修が「隠していた」事、僕の体調が良くなり、退院したら話そうと思っていた事も、このノートの事だったのかもしれない。それか、北澤さんから、僕との仲を取り持つように頼まれていた事か。湊のいうように、ほんの少しでも修を信じていれば、あとほんの一日か二日、僕自身のわがままを我慢してさえいれば。

ノートはとてもわかりやすくまとめてあった。僕と似たタイプの奴がいたら、というか、文系コースで成績にちょっとでも悩んでいるやつだったら、のどから手が出るくらい欲しくなるレベルのノートだ。修にお礼のメールを送るのを戸惑わせるのは、ここでお礼を言ってしまったら、話しかけるきっかけを無くしてしまうっていう思い。なんで修に関しては、こんなに女々しくなってしまうんだろう。改めてノートの文字を見て、そっと、その表面に触れてなぞる。図書室でみていた、俯いて薄く微笑んで、ノートに何かを書き込む修を思う。胸が詰まって息が苦しくなる。こんなに愛しいのに、どうして。

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