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P7

湊がこっちを睨むきつい目を無視して、さらに言葉を続けた。


「僕の事、本気だったのかよ。

 言い寄られるから、その気になって受け容れているだけだろ。

 入院していたって、風邪ひいたなんてウソまでついて、

 お見舞いにも来てくれない。

 電話もくれない。それに」


「いっち、いい加減にしろよ」


「なんで僕ばっかり責められるんだよ。悪いのは修だろ」


「いっち!」


怒鳴る寸前みたいな声で言う湊の言葉に遮られて口を閉ざすと、修の目から涙があふれて頬を伝う。


「みんな待って、僕が勘違いしちゃっていたからなんだ。

 ケンカとかしないで。湊も、ごめん。

 伊月は、僕の事を、好きでいてくれるって、

 それ、今でも変わってないって、勝手に思っていて。だから。

 伊月、これね、よかったら使って。

 いらなかったら、捨てちゃって大丈夫だから。

 もう、お昼とか、帰りも、一緒じゃない方がいいね。

 ずっと、勘違いしていて、ごめん」


手にしていた紙袋を、半ば強引に僕に押し付けると、そういって中庭を早足で横切って行ってしまった。なんだよ、泣きたいのはこっちだ。


「いっち、それ、中、見てみろよ」


湊にいわれて、紙袋を覗くと、ノートが数冊入っていた。促される視線に取り出して開くと、表紙に教科が記されたそのノートには、修の字がびっしり並んでいる。


「毎日、俺のところに来て、今日使わないノート貸してくれって。

 文系コースの授業、自分なりに教科書見て、

 自習で理解してノートまとめていたんだよ。

 実力テストが近いのに、一週間も入院して学校休んでいるお前のためにだ。

 今度こそ一位取るんだって、お前、言ったんじゃないのか?

 クラスは違っても、修と同じ一位の席に座るんだって。

 修も、そのためには、自分の理系クラスの勉強も手を抜けないって。

 俺がもし、理系と文系、両方の授業内容を理解して、

 ノートをそれだけまとめようと思ったら、

 どれだけ睡眠時間削っても間に合わねえよ。

 何が、見舞いにも来てくれないだよ。

 授業は毎日ある。

 見舞いに行けば、その日、ノートをまとめる時間が取れなくなる。

 修から直接聞いたわけじゃねえよ。けど、想像はつく。

 睡眠時間を削ってまでこんな事をしているって言えば、

 お前が気を使うって思ったんじゃないか?

 修は、大した理由もなく、自分の勝手のために仮病なんて使うヤツか?

 入院しているお前に、心配かけたくなくて、ついた嘘なんじゃないのか?

 俺の知る修は、そういうヤツだよ。

 前にも言った事、あったよな? 

 なんで修を少しでも信用してやらないんだよ」


湊の言葉を聞きながら、次々ノートのページを繰る。一緒に勉強をしていた時の事が過る。僕が引っ掛かる場所は、なぜか修はすぐにわかってくれた。


(伊月、ここで引っ掛かっているでしょ?)


ピンポイントで解説してくれる修に、どれだけ助けられたか。ノートのどのページも、几帳面に優しい字が並ぶ。図形には解説が加えられ、色分けされたラインが引かれている。蛍光ペンのラインは、修のノートにはほとんどない。これはきっと、視覚のイメージで覚える、僕のための配慮だ。じわりと視界が滲んで、とっさに駆け出そうとする僕の腕を、湊が掴んで止めた。非難するように振り向くと、


「追うな」


と、感情を抑えた声で言う。


「今、追いかけて、修に何ていうつもりだ?

 追いたいなら、お前の彼女とかいう存在を、

 ちゃんとどうにかしてからにしろ」


足元からさあっと、力が抜ける感覚がする。


(何てことないところで超絶に抜けている時あるよな)


以前湊から言われた言葉が耳の中に響く。本当だよ。なんでいつも僕はこうなんだ。

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