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P6

その日の夜と翌日、湊か早瀬にメールしようと思っていた。日中はさすがに授業だろうと戸惑ううち、午後から微熱が上がり、どうにも眠くてほぼずっと寝て過ごしてしまった。だいたい、なんて話せばいいんだ。修と北澤さんがイイ感じになっていると勘違いして、焦って仲を壊そうとし、気が付いたら、自分が彼女と付き合う事になっていた、って? それを言ったとして、どうなるっていうんだ。湊にしろ早瀬にしろ、「自分で何とかしろ」って言うに違いない。修は、どう思うだろう。これから僕たちはどうなるんだろう。辛すぎて、考えるのも億劫だ。夕方、朝食用に買ってあったパンを食べ、シャワーを浴びたらまた眠くなって、気づいたら学校に久々に登校する日の朝になっていた。


朝イチで職員室に寄ったから、教室に入ったのは授業が始まる直前だった。一斉に僕に集まった視線は、退院した僕の体調を心配してくれているものばかりじゃなかった。むしろ、好奇の視線の方が強い。呆れたような湊に迎えられる。


「よう、もう大丈夫なのか?」


「うん、お見舞いありがとう」


「昼休みに、な」


「うん」


僕の方こそ、聞きたい事、話したい事は山ほどある。


昼休みまでの授業の合間の休み時間、ぽつぽつといろんな声が聞こえて来た。北澤さんはテンション高く言い回っているようで、僕が熱烈に告白して付き合い始めた事になっていた。聞こえてくる単語には、「略奪愛」なんてものもある。イライラでおかしくなりそうだ。昼休みになって、誰かに話しかけられるより先にと、湊と一緒に急いで教室を出て、中庭へ向かった。ちょうど同じくらいのタイミングで早瀬と合流して、いつもより人の輪から離れた、校舎を背にした花壇のあたりに移動した。


「普段は他人の色恋なんて、首を突っ込まない主義なんだけど、

 今回はちょっと説明してもらえないと、納得できないかな」


早瀬が珍しく、棘のある言い方をする。修は? との湊の問いに、さっき声かけたし、すぐ来るはずと答える。一瞬の沈黙の後、紙袋を下げた修が歩いてきた。一週間ぶりに見る修は、元々華奢だったけれど、さらにやつれた様に細く、顔色がよくなかった。入院していた僕より、ずっと具合が悪そうに見える。ちょっと泣きそうな表情で僕たちの輪に近付いて、いきなり、ごめん、と頭を下げた。


「なんで修が謝るんだよ」


いらっとしたような湊の言葉に顔を上げて、一瞬口をつぐんでから話し始めた。


「僕、勘違いしていて。伊月の本当の気持ち、わかってなくて。

 北澤さんから、伊月との事、取り持ってくれって頼まれていたのに、

 ずっと断っていた」


「なんで、言ってくれなかったの?」


怒りを抑えた僕の言葉に、小さくびくっと竦む。


「北澤さんが、伊月の事が好きで、付き合いたいって言っているって、

 僕が言ったら、伊月、嫌かなって。

 北澤さんも、伊月に断られたら傷つくだろうし、他の人に知られたくないかなって、

 誰にもこの事を言わないで断ろうと思っていたんだけれど、

 北澤さん、諦めてくれなくて、なんでだめなのって、

 神崎君、好きな人とか、付き合っている人いるのって聞かれて」


「修といっちの事は、他のヤツには内緒って言っていたから、

 本当のことは言えなかったって、そういうわけか」


湊の言葉に、項垂れたまま、うん、と頷く。


「だから、伊月を困らせようとか、

 みんなが言うみたいに、僕も北澤さんの事が好きで、

 それで二人を邪魔しようとしていたとか、そういうのでは全然なくて」


「修、いいよ、わかった。

 俺らはもう、修の思っていた事とかはわかったから」


な? と見回す湊に、早瀬が、うん、と頷く。


「修君の事はわかった。僕が知りたいのは、神崎の方。

 あのさ、神崎から告白してどうのっていうの、あれ、実際どうなの」


修が、本当の事をちゃんと言ってくれていたら。僕はそんなに、信用できないか? これは八つ当たりだと頭のどこかではちゃんとわかっていた。けれど。


「本当だよ。彼氏、いないっていうから、立候補したいって言った」


「なんで? それ、本気だったの?」


「修はどうなんだよ」


早瀬の問いには答えず、修に詰め寄った。

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