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「なあ、かんざき」


「こうさきだって、なに?」


「この前、教室でえりかの事、庇ってくれたんだってな。あいつ、すげえ喜んでいて、そんで、ちょっと泣いていた。ありがとな」


 数日前、掃除の時間に戸川ともめていた時の事を思い出す。先輩に話したのか。


「あいつさ」


 足元で愛犬とじゃれている修を見下ろしながら、静かに言葉を続けた。


「最近、すっげえ落ち着いたっていうか、前は泣いたり怒ったり忙しかったんだけどよ。トゲが抜けたって言うんだっけ、優しくなった。前のわがままも可愛かったけど、今のあいつの方が、なんつうんだろうな、幸せそうだ。

力が抜けて楽そうにみえる。あいつがラクそうにしてんのがさ、泣いたり怒ったりもいいけど、やっぱ、笑っているのが一番だよ。お前のおかげだよ」


 ああ、やっぱり。僕だったら、自分の彼女が二股をかけていた相手に、こんな風には話せない。そいつが彼女をかばったり、今でも大事だなんて言ったりしたと聞いたら、よかったな、なんて思えない。あのヒステリーを、可愛いなんて言えない。この、先輩の大らかさや素直さ、人としての大きさは、一生真似できない気がする。えりか、君は見る目があるよ。


「いや、僕と離れた事が良かったんだと思いますよ。先輩がでっかい男だから、えりかも安心するんでしょう。お礼を言うのは僕の方です」


「お前、マジですっげえイイヤツだな」


 驚いたように目を見開いていう先輩に、笑ってしまう。


「そうだな、今日から俺たちも友だちだ。佐倉は犬友で、えっと、なんていうんだ、フタマタの相手同士だったから、マタ友か?」


「なんだよそれ、イヤ過ぎるだろ。普通に友だちじゃだめなのかよ」


 思わずタメ口で突っ込んでしまったけれど、先輩はうれしそうに、そうか、普通の友だちか、と繰り返していた。えりかも先輩も、幸せになってもらいたい。放っておいたら平気で何時間でも犬と戯れていそうな修に、そろそろ映画、始まるから、と声を掛けると、あ、そうか、と立ち上がる。君、思いっきり忘れていたね? 今日は僕と映画を見に行く日であって、ゴンザレスと戯れる会の日じゃないから。


「じゃ、先輩、また」


「おう、俺はもう、三学期はほとんど学校、行かなくなるけどな。俺、連合にはカオ利くから、なんかあったら言えよ。またな、……コンザキ」


「はは、どうも」


 連合ってなんの連合だよ。あれか、暴走連合とかいうやつか。いらないし。てか、カンザキとコウサキで迷って混ぜるな。コンザキとか、キツネか。コンコンちゅっちゅか。先輩もゴンちゃんもまたね、と手を振る修と、再び並んで歩き始めた。さっきまでしょんぼりしていたのがウソみたいに、頬を赤くしてにこにことうれしそうだ。本当に犬が好きなんだなあ。

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