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購買部の裏は、密談の定位置になりつつある。
「冬はやっぱりアイスよね。濃厚バニラ、ジャスティス。
あ、チョコも捨てがたいかも。次はチョコよろしく」
夏も秋も似たような事、言っていただろ。ていうか、なんで僕がアイスをおごる事が当然のようになっているんだよ。ま、岡田の情報はありがたいし、今回いろいろお世話になったお礼と思えば、安すぎるくらいだけれど。今日は二人でその後の報告会みたいな事をするつもりだった。
修が僕のマンションに来てくれて、また仲直りができた日、えりかの事、許してやってという僕に、
「許すって、僕が? 北澤さんの事? 別に、ケンカとかしてないよ」
と、不思議そうにいう修に脱力してしまった。いいよ、修はずっとそのままで。というか、頼むからいつまでもそのままでいて。
岡田さんの情報によると、しばらく前から、相馬先輩とえりかは昼食を一緒に取ったり、帰ったりするようになっていて、僕の知らないところで秘かに、三角関係か? とうわさになっていたんだそうだ。そうして最近、えりかと仲の良かった女子二、三人は、教室で孤立してしまっているという。それでもプライドなのか、意地なのか、クラスメイトに折れて近寄る事もせず、わざと悪ぶったり悪態を吐いたりしては、ああ、また始まったと呆れられるか、主に戸川とぶつかる事が多いという。
「結局、えりかは何がしたかったんだろうなあ」
見上げる空は、桜の枯れ枝の向こうに遠く青い。岡田さんはアイスのスプーンをぺろりと舐めて、うーん、といって肩をすくめる。
「恋愛感情より、ステータス、だったのかな。
そういう子って、いるよ。
時計が欲しいってねだっていたのだって、物欲からっていうより、
彼氏から時計をプレゼントしてもらったっていう事実の方が、
重要なんじゃないかなって気がする。
相馬先輩だって、成績はアレだけれど、格好いいし、
すごく優しくておもしろいから人気あって有名人だし。
佐倉君と神崎君、学校の中でも目立つ親友同士が自分を奪い合って争う、
なんて、最高においしいシュチュエーションだったんじゃないかな」
そういうものかね? そんな理由で仲違いさせられたら、たまったものじゃないけど。悪そうな見た目と違ってやたらと人のいい、えりかの今の彼氏の相馬先輩は、聞けばなんと、あの相馬一族だという。うちみたいな、ばあちゃんが没落した元華族とはいえ、実質じいちゃん一代で財を成した成金の小金持ちとはまるで格が違う大財閥だ。ステータスっていうなら、絶対先輩の方が高いのに。ただ、岡田さんが言うように、成績はびっくりするくらい残念だけど。まあ、あの先輩だったら、えりかの事を真っ直ぐに全部受け容れてくれるだろう。あの率直さとおおらかさは、きっとえりかを癒してくれる。