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「寒くなかった?
今、なにか暖かいもの淹れるから、座っていて。コーヒーでいい?」
部屋に入って、なるべく明るい口調でそう声を掛けながら準備を始める。気まずい無言の数秒。
「この前、ありがとう。
えりかに叩かれそうになった時、かばってくれて。
ちゃんとお礼もしてなかった」
「ううん」
「あの時、言っていたよね?
僕に嫌われているって。えりかに言われたの?」
口ごもる気配の後、僕のいるキッチンまで近づいてきて数歩離れたところに立った。
「伊月が、湊や早瀬君とは仲良くしているけれど、
僕とは親しくないって、友達なわけじゃないって言っていたって。
僕が北澤さんと伊月の事を邪魔しているから、
伊月がすごく怒っているって。
北澤さんに嫌がらせしているって噂になっていて、
もう、話もしたくないって言っているから、話しかけないでって」
「それ、信じちゃった?」
「最初にその話をしたの、伊月が盲腸で入院している時で。
いや、退院して、学校に来る前の日かも。
北澤さんとお付き合い始めたっていう、次の日だよ。
その前から、伊月、ずっと怒っていて、話しかけても冷たい気がして、
それで、退院したらちゃんと話そうと思って、
ノートを作ったりしたんだけれど。
でも、北澤さんに、僕のせいで伊月の具合が悪くなったんだから、
会ったり話したりしたら、余計にひどくなるって言われて」
いろんな事が急速に繋がる。退院した日、偶然出会ったえりかに、イライラに任せて、修とは親しいわけじゃないって言ってしまったのは確かだ。そうだ、えりかと付き合い始める前、修に対してよそよそしい態度をとっていた。けれどそれは、えりかが修に付きまとっていると思って、勝手に嫉妬していたせいだ。実際、修にあたるのは理不尽でおかしい。僕が悪い。落ち切ったコーヒーをカップに移して、リビングへ戻った。
「えりかと付き合っている間、ずっと考えていたんだ」
カップを両手で持ったまま、隣に座る修に話しかける。
「修はもう、子供を作るのだって問題ない。
将来、すごく偉い、有名な人になった時、
僕の事はよくない噂になるんじゃないかって。
あー、こういう言い方、なんかすごくずるいな。
修のせいにしているみたいだ、ごめん」
驚いたように僕を見て、ううん、と首を振る。
「えりかの事も、好きだったよ。
もっと、ちゃんと好きになろうと思っていた。
そうして、修とは友達になれたら、きっとそれが一番いいんだろうって」
僕の無意識の中に、常にえりかに対する罪悪感があったのだろう。だから、わがままを全部きく事で償おうとした。えりかも不安を感じていたのかもしれない。試すように距離を詰めても、向き合いもせず抵抗もせず、受け容れ続けてしまったせいで、底なし沼にはまるように、お互い身動きがとれなくなっていった。はじめから対等じゃない、歪んだ関係だった。僕を好きになってくれた人だったのに。可哀想な事をしてしまった。戸惑うように俯いたままの修を見る。
「修はずっと、僕の事、信じようとしてくれていたのに」
バカみたいな疑念。勝手に抱いた嫉妬。そのせいでいろんな人を傷つけてしまった。




