P24
「二人でUNOとか、おもしろいのかよ」
「他にゲームなかったの、トランプとかさ」
「泊まりっていったらとりあえずUNOだろ?
いや、正直、最初は二人でUNO? って思ったけど、
意外と白熱したんだって。結局、元旦の朝まで、って、修?」
さっきの気まずい雰囲気を切り替えるチャンスとばかりに、湊と早瀬がおもしろそうに、からかうような苦笑を浮かべていう。僕ものって、笑って返しながら同意を求めて振り向くと、修の表情が蒼ざめて硬い。藤森さんもおろおろと僕と修の間に視線を彷徨わせる。
「あの、修、聞いて。一般的には」
そういう藤森さんの言葉を遮るように、ガタンと勢いよく席を立って僕を睨む修の目に、みるみる涙がたまっていく。え、何?
「こ、こんなところで、みんなに、そんな、いう事ないだろ。
ね、年末で、年越しで、UNOなのに、
泊まりだから、とりあえず、とか、そんな。
みんなだって、そうやって、わら、笑って」
「ちょっと待って、修、聞いて」
立ち上がって修をなだめようとする藤森さんを振り切るように、教室から駆け出していってしまった。唖然とする僕たちに、ごめん、といって藤森さんもその後を追う。一番はじめに動いたのは早瀬だった。ケータイを取り出して素早く操作して耳に当てる。
「あ、修君? どうし……あ。もしもし?」
耳から離したケータイから、ツーツーという音が漏れて聞こえる。再び同じ操作をすると、女性の声が、電源が入っていないか電波の届かないところにいる、と告げる。残された三人で呆然と顔を見合わせ、早瀬がケータイをポケットに仕舞うのを横目で見ていた。気配に顔をあげると、泣きそうにしょんぼりした藤森さんが戻ってきて、見失っちゃった、という。
「今、ケータイに掛けてみたんだけれど、
電源ごと切られちゃったみたいで。
あの、修君、どうしたの?」
そう優しく話す早瀬をちらっとみて、それから僕を見て、きゅっと口を結ぶ。
「俺らが何か、地雷踏んだんだよな? 教えてくれる?」
湊が立ち上がって藤森さんに近付きながらいうと、思い切ったように口を開く。
「あの、去年の年末、神崎君、うちのおばあちゃんちに泊まったんだよね。
えと、修のところに。その時点で、二人って、修は、その」
いい難そうに、こちらの表情を窺いながら語尾を弱くする。ぞく、と胸の奥が締め付けられる感覚に堪えて、ゆっくり息と一緒にその傷みの残骸を吐き出す。
「付き合っていた」
はっと顔をあげる藤森さんを、じっと見つめ返す。そっか、そうだったんだ、とうな垂れる彼女に、早瀬が、ちゃんと聞かせて、とさっき座っていた席へ促がした。その場からいなくなった修以外の四人、同じように席に着く。
「修って、あの、変な子で」
湊と早瀬が力強く、うん、と頷く。君らさ、少しは否定してやれよ。
「普通とは違った感覚とか、勘違いとか思い込みとか、たくさんあるの。
全裸になるのはそんなに抵抗なくても、
前髪をあげるのは、恥ずかしいから絶対にいや、とか。
後、夕方に霊柩車を見ると死んじゃうとか。
年越しのUNOもその一つで」
そういって、小学生の頃の話をしてくれた。




