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P23

「詳しく、って。私のお母さんが、修のお父さんの妹なのね。

 うちのお父さん、実家が遠いの。

 こっちの大学を出て、そのまま就職しちゃった人だから。

 修は小学校に入る前くらいだっけ?

 小さな頃からおばあちゃんちで暮らしていて、

 私とお兄ちゃんはよくおばあちゃんちに泊まりに行っていたし、

 うちの両親、修の事すごく可愛がっていたから、

 普通のいとこより、姉弟みたいな感じかな」


「麻琴のおうちで旅行とか、遊園地に行く時は、

 僕も連れて行ってもらったり、

 クリスマスやお誕生日のお祝いとかしてもらったりね」


修が付け足すと、藤森さんも、うん、と認める。


「修は三月生まれで私は四月で、

 同じ学年って言ってもほとんど一歳違うし、

 よく泣かされる子だったから、私がいつもかばって、

 情けない弟みたいな感じ。

 だから、この前の時も、つい。条件反射ってやつかな」


「一年の頃は、学校でほとんど話してなかったよね?

 二年の二学期になってから、急に学校で話すようになったんじゃない?」


早瀬が質問を続けると、ああ、それは、と藤森さん。


「夏休みにお付き合いを始めた彼が、

 クラッシックとかジャズとかが好きなんだって。

 いつかライヴとか連れて行ってくれるっていうんだけど、

 私、そういう音楽詳しくなくて。

 修は詳しいし、CDいっぱい持っているから、CD借りたり、

 教えてもらったりしていたんだ」


「それだけじゃないでしょ。

 夏休み中遊んでいて、二学期はじめのテストで、ひどい点数取って、

 これ以上成績が下がるようなら、

 彼氏と会っちゃダメって叔母さんに怒られたんだよ。

 平日の放課後は、なかなか時間が取れないし、週末は彼氏と会うっていうし、

 学校の休み時間とかに勉強を教えてって言われて。

 なのに、問題集やっていても、りょうくん、りょうくんって、

 彼氏の話ばっかりでちっとも集中しないし」


「だって、りょうくん、格好いいんだもん。

 お兄ちゃんの友達で、大学一年生なの」


「一学期に、伊月が入院した時だって、

 最初、麻琴から教科書とノート借りたんだけれど、

 その時はまだ、彼氏とお付き合い始める前だったんだけれどさ、

 抜けているところは多いし見づらいし。

 授業に集中できてない、理解できていないの、

 丸わかりのノートだったんだ」


「実は高城君のノート、私もみせてもらっちゃったんだ、勝手にごめん」


「あれで危機感持てたおかげで、

 麻琴、一学期末の実力テスト、ぎりぎりなんとかなって、

 一組に残れているようなものだよ」


二人のやり取りを呆然とみていた。ふと疑問が思いつく。


「えっと、あのさ、じゃ、名前は?

 なんで最近まで、お互いに名字で呼び合っていたの?」


「付き合っているんでしょって言われるから」


「修、それじゃわかりにくいよ。

 私たち、小学校は別だったんだけれど、中学で一緒になったの。

 祥沢二中って、主に三個の小学校の卒業生が集まるんだけれど、

 私と修の出身小学校と違う、もう一つのところから来た男子が、

 私たちが名前で呼び合っているのを、

 いちいち付き合っているんだろうってからかってきたの。

 何回もいとこだからって言っているのに。

 だから、学校ではお互い、他の子たちみたいに、

 苗字にさん付けで呼ぼうって事にしたんだけれど、

 高校ではさすがにそれでからかわれたりしないと思うし、

 今さらいいかなって。修はいつも間違えるし」


「学校で麻琴っていうと怒られるし、

 家で藤森さんっていうとおばあちゃんに笑われるし、

 呼び方を統一できるようになって、すごく楽になったよ」


どっと力が抜ける。彼女、だったわけじゃないんだ。じゃあ、修は。湊と早瀬にとっても衝撃的事実だったのだろう、リアクションに困っているようだった。早瀬が思い直したように笑顔を浮かべる。


「じゃさ、修君も今年は一人でクリスマス、かな」


修は、え、と、少し複雑そうな表情を浮かべて、おばあちゃんとゆいがいるよ、と笑った。


ふと見回すと、教室に残っているのはもう僕たちだけだ。夕闇がそこまで迫っている。


「あ、そういえば、修の好きな子って誰?」


藤森さんが勢いづけて身を乗り出すと、そこにいる全員が藤森さんに注目して固まる。え、なんでそんな、と修がおろおろと視線を彷徨わせて俯く。


「この前、一年生に告白されて、

 好きな人がいるからって断ったって聞いたよ?

 修が咄嗟にそんなウソつくとは思えないんだよね。誰かいるんでしょう?」


修の、好きな人。その場にいなかったはずなのに、見たように光景が過ぎった。やわかく、すまなそうに微笑む修が言う。


(ごめん、好きな人がいるから)


その時、修は誰を思っていたんだろう。思い上がりかもしれない。勘違いかもしれない、けれど、藤森さんじゃないのだとしたら、きっと。藤森さんは、気まずそうに俯いたままの修にそれ以上問い詰める事はあきらめて、僕たちを見回して、誰か聞いていない? と明るく問うけれど、誰もが視線を逸らせて無言になった。さすがに何かを察したのか、あれ? という表情を浮かべて、ま、いいやと肩をすくめて修に向き直る。


「私もいっぱい助けてもらっているし、お礼くらいさせてよ。

 修が好きな人とうまく行くように、応援するから。ね?」


そういうと、うん、ありがとう、と、少し困ったような微笑を返した。ほっとしたように乗り出していた身を起こして、からかうように言葉を続けた。


「修は、クリスマスよりお正月だもんね。

 年越しUNOする人、早くできるといいね」


修の表情が驚きに変わって硬直する。後から思えば、修の性格っていうか、特性を理解していたら、この時に続きの話をするべきじゃなかった。けれど、これから起こる事を、その場にいた誰が予想できていただろう。


「去年の年末、二人でやったよね、UNO。」


そういう僕に、みんなの視線が集まる。湊と早瀬は、へえ、というような。修と藤森さんは、驚愕の。

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