P22
自分の机に突っ伏して、あー、と声を出す。最近、修と早瀬は一組に来ることが多い。今日も放課後、なんとなく僕の席周辺に集まって話していた。
「何、情けない声出してんだよ」
湊が呆れながら言う。えりかと別れたのは、正直よかったと思う。僕にとってだけじゃなく、えりかにとっても。あのまま二人で付き合い続けているのは、お互いにいい影響がなかったはずだ。けれど、修に彼女ができている以上、僕がフリーになったからと言って、元の関係に戻れるはずもない。
「だってさあ、もうすぐ高二のクリスマスだよ?
後、一か月もないよ? 彼女なしとかあり得なくない?」
「だーかーらー、去年も言ったろ? 家で水炊き、食っとけって」
「また、みーの鍋物押しきたよ……」
「一緒に過ごす子なら、誰でもいればいいってわけじゃないでしょ?」
僕と湊のやり取りに、呆れたようにくすくす笑いながら早瀬が言う。
「早瀬はいいよな。今年もジルエット行くの?」
「いいお店なんだけどね、近くにいいホテル、ないからさ」
「くあーっ」
なににやにやしているんだよ、あー、くそ、羨ましいなあ。
「早瀬君、有紗さんと旅行に行くの?」
「ううん、お泊りするだけだよ。でも、お泊りする事はここだけの内緒ね」
ふうん、そう、わかった、楽しんできてねとにこにこしている修は、クリスマスに恋人とホテルに行く意味をちゃんとわかっているんだろうか。わかってないだろうなあ。
「そうはいっても、修君だって、
藤森さんと一緒にクリスマス過ごすんじゃないの?」
早瀬の台詞に、思わず、ぴくっと硬直してしまう。
「麻琴と?
小さい頃は一緒にケーキ食べたりしていたけれど、
もうそういう年じゃないし」
「小さい頃って、藤森とは幼馴染なのか?」
「幼馴染っていうか、いとこだけど」
湊が不思議そうに問うとさらっと答え、一瞬、空気が止まる。そ、そうなんだ、いとこ。まあ、いとこだったら結婚もできるしね。道理でツーカーっていうか、二人の雰囲気が落ち着いている仲良しって感じだ。
「それに、今年は彼氏とクリスマスってはしゃいでいたから、
多分家にいないよ」
へえ、藤森さんも彼氏とデートか。
って、ええええええ?
「ちょっと待って、修君、藤森さんと付き合っているんじゃなかったの?」
「ええ、僕が麻琴と? そんなわけ、ないじゃない」
いや、どういう事? 脳内がパニック。そこにちょうど、当の藤森さんが教室に戻ってきた。
「藤森さん、ちょっと、ちょっとこっち」
僕が呼ぶと、ん? と、不思議そうに僕たちの席に歩いて来てくれる。早瀬が立ち上がって、あのさ、と声を掛けた。
「藤森さんって、修君といとこなんだってね?
それで、付き合っているわけでは、ない?」
「えー、付き合うって、修と私が?
なんで修となんか。ないない、私、彼氏いるし。
修、私たちがいとこだって、みんなに言ってなかったの?」
その声は大きかったわけじゃないけれど教室中に響いて、ええ、という驚きの声がそっちこっちで上がった。修なんか、とかひどくない? と修が抗議する。立ち話もなんだから、と近くの椅子を引き寄せて勧めた。もうちょっと詳しく、と早瀬がいう。