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P21

「とにかく、えりか、今までありがとう、じゃ、まあ、そういう事で」


こんなバカバカしいところで晒し者になるのはもうたくさんだ。僕はたった今からフリーだ。あんなに尽くした彼女に二股かけられていたっていうのに、身軽でうれしい。振り向くと、みんなが立っている。すっかり飽きたような態度だけれど、口元に微かな笑いを浮かべている湊、真っ直ぐに、少し誇らしげな表情で立っている早瀬、問いかけるようにじっと僕を見る、修。なんとなく、ただいま、と言いたい気分だった。彼らの友情に対する感謝で胸が熱くなる。


「伊月」


修。

守ろうとしてくれて、ありがとう。心配かけてごめん。痛い思いをさせてごめん。もう、僕は。


「ねえ、伊月も産業祭、行ける?」


ぶふう、と、早瀬が吹き出す。さっと後ろを向いた湊も、肩が小刻みに震えている。おい、お前ら。


「お話、終わったなら帰ろうよ。おなか減っちゃった。

 インド人が作るカレー屋さんのお店があるんだって。麻琴も行く?」


「私、日直だし、これから約束あるし。

 あ、上履きのまま外にでちゃった。やだ、はずかしー」


あのさ、今、すごく感動するような場面だったよね? こういっちゃなんだけれど、僕はたった今、君たちの目の前で彼女と別れたんだよ。みんな、それ、見ていたよね? 見ていて、インド人のカレー? 上履きで外に出るのは禁止だけれどさ、そっちの心配? ここには僕以外、まともな人間はいないんだろうか。


「先輩、今から伊月君と決闘してよ。私のために!」


「や、今からはちょっと。うちの犬の狂犬病の予防接種行くし」


「え、犬、飼っているんですか?

 うちにも唯っていう子がいるんです。

 毎日かわいいから唯っていうんですけれど」


「君んちも犬、飼っているんだ?

 へえ、毎日可愛いからゆいちゃんかあ」


いきなり、思い切り目を輝かせて修が飛び出してきて、一気にそう言った。うわあ、犬バカが食いついちゃったよ。てか、世界にただ一匹の犬だから、唯一の唯っていっていたよね? 毎日かわいいから唯ってなんだよ。先輩も、なんでその説明で納得できるんだよ。


「犬とか予防接種なんて、どうでもいいでしょう!」


「あ? なんだよ、えりか、うちのゴンザレス、ディスんのか?」


「狂犬病の予防接種は飼い主の義務なんだよ。

 それに、唯の事、どうでもいいとかひどいよ!」


修がゆいちゃんを大事にしているのはわかっているけど、さっき、「伊月にひどいこといわないで」って言った時より、声、張っているよね? 思いっきりハラの底から声、出ているよね? 微妙に凹むんだけど。


「このままだったら本当に、もう伊月君と別れちゃうからね? いいの?」


「うん、まあ、先輩と末永くお幸せに」


「かんざき、お前っていいやつだな」


「いい話だね……」


ほろりとする修にそう声を掛けられた藤森さんが、無表情に「どこが?」と返す。


「待ってよ、今別れちゃったら、

 クリスマスのドレスウォッチ、どうなるのよ!」


その答えなら、とっくに用意してある。


「パパかママに、買ってもらえるといいね」

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