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今日は火曜日だから、図書室へ行く。これは、僕の最大の誤算。少しでも修と関わっていたくて、無理やり図書委員に誘った。放課後、当番制で貸出や返却された本を棚に戻す作業をする事になっているから、修と図書室デート、なんて思っていた。当番は、自分でやりたい曜日を選べると思っていたんだけれど、一~三年までのクラスごとに十班に分けられた。月曜日から金曜日まで、それが偶数月と奇数月。二年一組、僕は偶数月の木曜日、修の四組は偶数月の火曜日が当番。当番の日が違ってしまって、別々に帰る日が倍に増えてしまった。

家の事があるから帰りが遅くなる委員はパス、と、誘ったけれど断った湊からは、


「いっちって頭いいのに、

 こういう、何てことないところで超絶に抜けている時あるよな」


と、呆れられた。くそ、反論できない。

でもいいんだ。お互いの当番の日は図書室で勉強しながら、相手の当番が終わるのを待って二人で帰るようになった。結果オーライだ。

四月の当番が終わり、五月が過ぎ、また、六月、再び偶数月になった。まだまだ梅雨前だというのに、夏本番が思いやられる暑さが続く。夏服になった事と、学校内が完全冷房なのがせめてもの救いだ。最近の気になる事と言えば、修と一緒に四組の図書委員になった女子の事。名前は、北澤絵梨花。一年の時は二組で、ちょっと派手で積極的な、ハキハキした子ってイメージ。目立つグループに属し、オシャレが好きそうなイマドキって感じの子で、それでいて、素直で人懐っこい面もある。彼女に憧れていたり、秘かに思いを寄せていたりする男子の名は、数名分耳にしている。一年の、クラスが別だった頃はそんな素振りはなかったはずなのに、最近、なんだかやたらと修にベタベタするし、僕と修で話していると急に会話に加わってきたり、気配を感じて視線を向けると、すっと僕から視線を逸らしたりする。早瀬と岡田早彩ちゃんいわく、休み時間ごとに何かと修に話しかけたりしているらしい。修と僕の事は、湊と早瀬、僕と修、四人だけの秘密って事にしているから、文句を言ったりもできない。すごく可愛い子だとは思うけれど、いや、だからなおさら、正直おもしろくない。


「あ、ありがとうございます」


ウキウキしたような、ひそひそと抑えた声の方を窺うと、ピシッと真新しい制服の女子が二人、キャーというような小さな声を上げながらカウンターから離れるところ。一冊の本をぎゅっと抱きしめている。彼女たちの嬌声の相手は、目的の本じゃない。それを手渡した、修だ。微笑ましげに彼女たちを見送って、僕に視線に気づいてこっちに来てくれる。


「一年生は可愛いね、初々しくて。僕たちもあんな風だったのかな」


「probably. 彼女たちは修のファンだから、なおさらだろ」


僕たちは一年間で、大きく変わった。けれど、入学したばかりの頃はあんな風に、きっと。


「ファン? 僕の?」


「や、なんでもないよ」


素で気づいていないような修の表情に、思わず笑ってしまう。えー、変なの、とカウンターに戻っていく。修のこういう所は相変わらずだ。


木曜日の放課後、返された本を棚に戻し易いように名前順に並べていると、修が入ってくるのがみえた。お互いに笑顔を交わして小さく手を上げて合図をする。そのまま真っ直ぐに、火曜日に僕が座っていた席へ荷物を置き、筆記用具を並べはじめた。そこからだとカウンターから適度に離れていて、中で作業している様子がよく見える。僕と修のお気に入りの特等席だ。少し楽しそうに薄く微笑みながらノートに何かを書き込む修をみているだけで、ふわっと暖かくなる感じがする。

カラ、と引き戸が動く音がして、無意識にそちらに視線を向けて、チリっとした感覚を覚える。北澤さん。何か、企みがうまくいったような、うれしそうな笑顔を浮かべて、すすすっと静かに足早に修に近付き、隣の席に座る。修は一瞬驚いたように彼女を見て、何か言葉を交わした。戸惑う表情を浮かべる修に、ノートを覗き込むように身を乗り出して額を近づける。

おい、くっつき過ぎだろ。

思わず手を止めて注視してしまうと、ふと視線を上げた彼女と目が合った。ふふん、と言う風に笑って、修の耳元近くで何かを囁く。じり、と暗い何かに気管を焼かれるような感じがした。


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