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文化祭が終わって、四組内の元一組対二組の関係悪化は一応終息したらしい。といっても、完全に和解という意味ではない。文化祭の準備と言う、対立する材料がなくなったっていうだけ。共同作業をした事で、一部、和解が進んではいるらしかったけれど。数日後、早瀬と岡田さんから声が掛かって、また購買部裏の通路に僕と湊と、四人で集まった。
「何かあったのか?」
湊が心配そうに聞く。
「いや、心配してもらうような事じゃないんだ。
件のあれ、何とかなりそうだよ」
何とか? 早瀬の言葉に、僕と湊の声が重なる。
「すごいの来ちゃったよ。いきなりチェックメイト。
佐倉君、彼女ができたっぽい」
岡田さんの言葉に、早瀬も頷く。僕と湊は同じような表情を浮かべていたと思う。唖然。
「え、マジか? 誰?」
湊の言葉に、僕も身を乗り出す。
「一年の永島さん? 三年の小野さん?」
「どっちもハズレ。二の一の藤森さん」
うちのクラスの、藤森麻琴か。活発で清潔感のある元気系女子。見た目の可愛さも、二年の中でTOPクラス。何より、気取らない面倒見のいい性格で女子に人気が高い。同性に好かれる子は、当然のように男子からも好感度が高い。女を感じさせる、というより、付き合ったらきっと楽しいだろうなと思わせるタイプ。
「今までそれらしい動きはなかったみたいなんだけれど、
最近、急にうちのクラスに来て佐倉君を呼び出すようになって」
「僕も一年二組で少しだけ話したことあるんだけれど、
すごく感じのいい子だと思う。
中学が祥沢二中で、修君と一緒なんだよね」
ふむ、と湊が顎に手を当てて考える仕草をし、ちらっと僕を見たのに気付いた。
「実は、んっと、神崎君にはちょっと辛い事言っちゃうけれど、
佐倉君に彼女ができたら、対立に巻き込まれたりするんじゃないかって、
心配だったの。
でも、藤森さんだったら大丈夫。
彼女自身、直接何かを言われても負けていないと思う。
佐倉君が、藤森さんとうまくいっていて、
もう北澤さんの事を変に意識していないって事になれば、
付きまとっているとか嫌がらせされているとか、
そういう話の信ぴょう性は崩せるし」
「確かに、えりかの事をそういう風に言われるのは、ちょっと辛いかな」
半笑いで言うと、だよね、ごめん、と肩をすくめる。
「修君に、最近藤森さんと仲良いねって話を振っても、
前から仲良かったよ、とか、照れた風にあいまいな態度で。
なんとなく、その話題には触れて欲しくなさそう、っていうか。
現状であんまり突っ込まない方がよさそうだし、
だからまだ、正式に付き合っているとかそういうのはわからない。
けど、これで全部が沈静化してくれたら、いう事はないと思うんだ。
ただ、なんとなく落ち着かない。もう一波乱ありそうでさ。
もう少しの間、気を付けて動きを見守ってもらいたいんだ」
早瀬の言葉に、湊が、俺は何にもやる事ないなあ、と空を見る。
「そんな事ないよ。
修君の話とか、聞いてあげてもらいたい。
やっぱり、僕には言い辛い事もあるみたいだし」
「了解。何事もないのが一番だしな。いっちも、あんまり気、つめんなよ」
「うん」
少し前に覚悟を決めたばかりだったのに。いつか、そうなったらいい、修には僕の事を忘れて、幸せになって欲しいなんて、思っていたのに。修に、彼女が。修に、彼女が。その言葉だけが頭の中をぐるぐると駆け回っていた。




