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P14

ふと過った違和感を口にした。


「てか、なんで戸川が修を庇ったの?」


これに、早瀬がきょとんとした風に答えた。


「なんでって、え、いや、あの二人仲良いし」


「ああ、そっか。

 いっち、一年の三学期、違うクラスだからみてないのか」


湊の言葉に、早瀬も、ああ、と納得して頷く。


「え、どういう事? 仲良いの?」


「うん、修君の天使のような清い優しい心で、

 戸川の頑なな心を懐柔したんだね。

 戸川って科学オタクらしくて、修君と話が合うみたいだよ。

 クラスでお昼を食べる時は、僕と修君と、あと戸川の三人って事、多いし」


思わずぽかんと口を開ける。三人がよくつるんでいるのは、俺も知っていたぞ? と湊が呆れたように言う。


「そういうのもあって」


食べ終わったアイスのカップをつぶしてビニール袋に仕舞いながら岡田さんが言う。


「佐倉君、早瀬君、戸川君の三人は、えりか姫に意地悪をする悪者。

 正義の味方の王子様も、この三人と敵対して、姫を守ってくれている、

 っていうわけ。

 最初、そんな彼女の言葉を全く信じていなかった元一組の人たちも、

 あれあれ? ってなってきている。

 だって、実際に、あんなに仲の良かった四人組が、

 すっかり疎遠になっちゃっているんだもん。

 中でも、神崎君と佐倉君が顔を合わせてもよそよそしい、

 これは何かあったんだろう、実は北澤さんの言っている事は本当なのかも、

ってね。

 意地悪首謀者の佐倉君、クラスの中でどんどん立場が悪くなって来ていて、

 佐倉派の活動も停滞気味」


「僕も主犯の一人、か。

 情報を集めようと思っても、核心に迫るものが入ってこないわけだ」


「それ、どうにかならねえの? 修、可哀想過ぎだろ」


湊の言葉に、目の奥がじんと痛くなる。


「僕が彼女と別れれば、こんな事は終わるよね」


三人の視線が集まる。岡田さんだけが、眉をしかめる。


「それは、逆じゃないかな。神崎君も悪者になるだけだよ。

 そういう場合の保険っていうのかな、

 悲劇のヒロインになる準備は、着実に進んでいると思う」


「どういう事……?」


声のトーンを落として早瀬が岡田さんに問う。


「彼女、事実を湾曲するの、うまいっぽいんだよね。

 佐倉君と神崎君が自分を奪い合ったとか、

 佐倉君が邪魔しようとして嫌がらせした、

 そんな妨害に負けず、結ばれた運命の二人、とか、

 実際にあったわけでもないのに、普通言える?

 それ、信じている人もいるんだよ。

 神崎君、誕生日にキスしたんだってね」


「え、なんで、それ」


「少なくとも四組で知らない奴はいないよ」


見回す僕に、早瀬が少し同情したように言う。


「そう。

 伊月くん、強引で、えりかびっくりしちゃった、

 でもいいの、はじめてのキスが大好きな人で幸せ、もう結婚確定、ってね。

 一方的に別れるなんて言い出したら、その原因の一つが佐倉君絡みで、

 その後、また四人が仲良しに戻った、なんて事になったら、

 どんな態度で出てくるか、なんとなく予想できちゃうな」


四人にからかわれていたとか、遊ばれたとか利用されたとか、そんな事か。キスした事、四組の全員が知っている、という事は、きっと、修も。湊が、沈んだ風に口を開く。


「何か、修に負担がかからないようにうまくいく方法、ねえかな。

 ぶっちゃけ、俺や早瀬は、わけわからん事言うやつらは、

 無視しておけばいいってキャラだから、別にいい。

 けど、修はそうもいかねえ、気にして参ってくるはずだ。

 あいつは、できればこういう事に巻き込みたくねえんだけど」


「神崎君と佐倉君が、

 前みたいにいっつも一緒にいるようにすればいいんじゃないの?

 別に、仲たがいしていませんよ、って」


岡田さんの言葉には、三人とも、う、と詰まった。しばらく、優しくしないでという修の言葉と、必死な表情が脳裏に浮かぶ。


「それはちょっと、事情があって。できれば、他の案で」


早瀬の言葉に、不審そうな表情を浮かべて、でも、それ以上問い詰めずにうーんと考えてくれる。


「難しいなあ。誰にでもわかるような事実があれば、いいんだけどな。

 佐倉君が北澤さんの事、なんとも思ってないよっていうような」


思っていない、意識していないという事実の証明。そんな事、どうすればいいんだ。空恐ろしいような意識を持ったまま、それでも彼女と付き合い続けた。


えりかは、二人でいる時は相変わらず素直で明るい女の子だ。やはり、僕の心には大きな空洞がある。得体が知れず空恐ろしかろうが、彼女の存在が必要だった。何が本当なのか、混乱する。文化祭は彼女と一緒に行動した。学校中のすべての出し物を体験したんじゃないだろうか。もちろん、二年四組以外の。

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