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放課後、湊が、一組に僕を迎えに来たえりかに「いっち借りるわ」と宣言して、彼女のブーイングを無視して強引に僕を連れ出した。言われるまま後をついていくと、購買の前で立ち止まり、バニラアイスを買って来いと言う。訳を問いただすつもりはなかった。言われるままにアイスを買って、購買室の裏手へ回る。
そこは、業者が荷物を搬入したり、購買室の職員が事務所に直接入ったりするためのドアに面する通路で、生徒の通りはない。早瀬と、岡田早彩が待っていた。
「秋はやっぱりアイスよねー。疲れた体には、甘いものなのよ」
岡田さんが、僕の手渡したアイスを食べながら、お気楽な調子でそう言う。それを横目でちらっと見て、早瀬が口を開いた。
「そろそろ、情報を擦り合わせたいんだよね。どこから話そうか」
「言い辛い事から言っちゃうと」
岡田さんがスプーンを指揮棒のように立てながら言葉をはさんだ。
「君の彼女、ちょっと評判悪いよ」
僕に向けられた言葉に、思わず大きくため息が漏れる。
「どういう事だ?」
「んー、ちょっと前からなんだけれど、女王様っていうのかな、
神崎伊月の彼女なのよ、みたいなね、そんな態度を隠そうともしない」
湊の問いに対するその答えには、男三人が不思議そうに顔を見合わせる。そんな僕らの表情を見て、岡田さん自身もどこか曖昧に言葉を探しながら説明を付けたした。
「うまく表現できないけれど、
学校の人気者とお付き合いしていると威張ってもいい、
みたいな感じかな、彼女の世界では。
少し前に戻るけれど、
付き合い始めた時、佐倉君が自分の事を一方的に好きになって、
神崎君との事を邪魔しようとして、嫌がらせとかストーカーされたとか、
彼女自身が言い回ったの。
それで元一組の子たちが、佐倉はそんな奴じゃないって猛反発。
それ以来、四組、なんとなく元一組対元二組って図式になっているの」
その言葉に、それでか、と早瀬が頷く。
「もともと同じクラスだった奴らと親しく話しやすいのは仕方ないと思う。
けれど、敵対する感じで打ち解けようとしないんだよね」
「それが、文化祭の準備で表沙汰になってきちゃった。
もともと、文化祭に対する熱意っていうか、
温度差みたいなのはあったんだけれど」
「戸川が、北澤に教室から出ていけとか言った、っていうのは?
それも、元のクラスの対立からか?」
湊の言葉に、さすがの岡田さんも口ごもる。早瀬が岡田さんと僕をちらっとみて口を開いた。
「彼女、文化祭の準備を邪魔するんだよ。
ちょっと前からそういう傾向はあって、戸川とぶつかるようになっていて。
そろそろ神崎に言っておいた方がいいかなっていう矢先だったんだ。
マジになってバカみたい、とか、大声で話したり。
あの時は、修君が作っていた飾りを、
手伝ってあげるって無理やり手を出して壊したんだよ。
まあ、あからさまに、わざと。
それで戸川が怒った。邪魔するのなら教室からでていけってね。
で、その状況で神崎がうちのクラスに乗り込んできて北澤さんを庇うの、
さすがに修君が気の毒で、ついきつい言い方した。ごめん」
眩暈がして思わず額に手を当てた。




