第二話
少々胸糞悪いかも
悲鳴が聞こえた方角に男は走る。もしも悲鳴を上げた張本人が何か危機に瀕しているならば、それを解決すれば多少の見返りを貰えるだろう。
だが男は1つ疑問に思う事がある。
(おかしい。なぜここまでの速さが出る?)
まるで自分が風と錯覚する程に速く移動している。
(さっきの激痛か? さっきの激痛が関係しているのか?)
先程の激痛から自分の身体に何か『変化』した事は薄々ながら分かっていた、だがここまで劇的な『変化』があるものだろうか。頭の中で様々な予測や推測がシャボン玉のように発生しては消えるそれがループする。
そんな事を考えている内にある光景が視界に映る。 四足歩行の緑色の肌をした豚が一体、それに迫られている少女が一人。豚のような人間は男の象徴を露出させて少女に迫っている。
「ほう…まさに『襲われている』状況か」
男は気の枝に座り数十メートル先の状況を見ながら思案する。
「今救うか? それとも犯された後にするか」
今救えば多少の見返りは望めるだろう。だが犯された後に救えば心が折れた後に慰めながら介抱すれば絶大な信頼を勝ち取れるだろう。
だが『犯された』と言う自己嫌悪と自己嫌悪によって自殺か精神崩壊してしまうだろう。さすがにチャンスを逃したくない。
「今救った方が得策か」
そう呟くと全速力で少女が豚に犯される直前の場所に突っ込む。
―――――
「ヒグ、どうじで、どうじでなの~」
自分はただ薬草を取りに来ただけなのに何故魔物であるオーク《豚人》に自分の純潔を喪失しそうになっているのだろう。自分の日頃の行いが悪かったのだろうか、いやそんな事は無い。自分は親の言う事をちゃんと聞いてきた。親を失望させる事も無かった。だが何故自分はこんな状況に陥っているのだろう。
「ピギギギギ」
オークはこれから自分の性欲をぶちまけようと少女に奇怪な鳴き声を発しながら近寄る。
「嫌だ!! 嫌だ!! 嫌!! 来ないでよ!!」
ありったけの力で近くにあった枝を振り回す。だが、たかが10歳にも満たない少女が満身の力で振り回す枝など魔獣の中でも底辺のオークであっても蛾が飛び回っていて鬱陶しいぐらいの感覚であり、飛び回っているならはたき落とせばいいだけの事。つまりは。
「プギギギギィィー!!」
少女が振り回している枝を強引に掴み取りへし折る。
「ヒッ!」
自分の最後の武器を取られ頭の中が真っ白になっていく。それと同時に声帯が恐怖で締まり短い悲鳴しか叫べない。自分は犯されるのだろう、休みなく食事を与えられずただの性欲の捌け口として犯され一生を終える。そんな考えと犯されている自分が見えてくる。最初は体を蝕められ次は精神を蝕められ最後は理性を蝕められて肉欲に支配される。
「嫌よ!! そんなの私はそんな一生嫌ぁぁぁぁぁ!!」
最初で最後になるだろう絶望に染まった叫びを挙げ顔を両手で覆う。せめてオークの醜い外見を見ないため、自分を犯す道具を直視しないため。
「随分と、まぁ。切羽詰まった絶望に満ち満ちた叫びだ」
「ブギ?!」
男の声が聞こえたと思うとオークの悲鳴が連続で聞こえ恐る恐る両手の指の隙間から辺りを見る。
「え?」
実に奇妙な光景だった。魔獣の中でも弱い分類に入る『オーク』が倒れている、それも外傷らしい傷は見えずに。
『魔獣』とは書いて字の如く魔の獣と書いて魔獣。魔獣の他にも『魔物』に『魔人』と分類される。重に知性と能力で分類され『魔獣』は知性が無く『獣のまま』に動く。そんな最弱の魔獣の更に最弱に入るオークでも素手で闘うのは自殺行為だろう、並外れた筋力、そして並外れた生命力。どんな原理で発動するのか分からない。そう言った『魔』に支配され『闇』に堕ちた生物を総称して。
ダーククリーチャー
堕闇生物
と呼ぶ。そんなオークが倒れている。それも男に跪くように。
「…面白い。とても面白い能力だなこの喰虚は」
男は自分の右手を凝視し思考の渦の中に身を埋める。
少女は自分を救ってくれたであろう男に自分がどれだけ感謝してるか伝えたいのだが極限の『恐怖』を味わったため体が言うことを聞かない。言葉を言うにも上手く喋れない。
「あ、あ、あの」
―――
「あ、あ、あの」
少女から声を掛けられる事によって少女を忘れていた事に気付く。
「あの、あなたの名前を聞いても…」
少女が自分に対して話し掛けてくるが無視し少女に近付く。少女は自分が何故無視をするのか分からないようで微妙な顔をしている。
「あの~聞こえてないんですか?」
「いや聞こえているよ、バッチリね。だがすまないが君には死んでもらわなければならない。すまないね」
「それはどうゆう…」
少女が最後まで言葉を紡ぐ前に少女はただの『肉人形』なった。
「やはりこうゆう能力か私の能力は」
“魂の補食および魂の服従”
「【魂】とは生物にとって最も重要な部分だ。魂とは生物を構成するのに『心臓』よりも『脳』よりもどんな器官よりも重要な物だ。魂が無ければ生物は肉人形になり果てる」
魂とはすなわち『精神』何人たりとも侵されない域。だが、もしも『精神』が侵食されるならば完全な『人形』になり果てる。つまり男の能力は『魂からの服従』および『魂の分解』と『魂の付与』
「魂を補食するとその魂の持ち主の持つ情報も分かるのか、実にこれはいい。おっとそう言えばまだ豚と少女の後始末がまだだったか」
異常なまでに冷えた目、その目には少女とオークは酷く無価値で意味の存在価値の無い物に見えた。
使った物は後始末しなければ。
「立て」
男のその一言でオークが立ち上がる。だがオークは憎悪し殺しても殺し足りない筈の人間の男がいるのに襲い掛かる所か忠犬のように完全なる服従が見える。
「少女を犯させ。精神が崩壊するまで犯した後殺せ」
「ブギギギ」
少女にも『魂』を付与するが魂を『喰われた』反動でまだ覚醒しない。
「後は頼むぞ」
「ブギ」
男はそう言い残し一瞬にしてその場から移動する。
後日、森にて犯されて殺されたであろう腐りかけの少女の死体が無造作に転がっていた。