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アステアへの高き階段

 





「……すごいや」

 見つけたものの、そこには灰の大地に灯る爆炎が三つ。

 全て、灰の砂漠を歩く一人の少女が作ったもの。

 全て、一人で―――

 ―――身体から出た力じゃない。

 あれは、おそらく彼女の魂が為せる、業だろう。

 彼女の心の叫びが為した力―――

「……」

 遠くから見ていた僕は、身体を引きずり灰の大地を歩く彼女の後姿を遠くから見つめながら感嘆にため息を零していた。

 何を踏みつぶしてでも、何を為そうとしても、必ず一歩を踏み出し、前に進む強い足取り。

 日差しを見上げ、青空に手を伸ばす、希望に満ちた瞳。

 何を犠牲にしても、必ず。

 彼女は、強い―――

 ―――コウイチ……コウイチッ

「……?」

 昨日からだろうか。

 遠くから、本当に遠く、意識の対岸の向こう、霧の彼方から聞こえてくるのは微かな叫び声。

 こちらを楽しげに呼ぶ、甲高い声。

 誰かが、霧の向こうで手を振っている。

 長い黒髪を靡かせ、彼女は微笑む。

 誰だろうか―――

「……」

 僕は小さく首を振ると、頭をよぎる幻影を振り払い、彼女を追いかけ灰の大地を蹴りあげた。

 正直、助ける必要はないに等しいかもしれない。

 だけど、彼女を待っている人はいる。

 彼女の生還を、声を枯らして祈るように―――

 そんな人達の為にも、僕自身、出来る限りのことをしよう。

 冷たい風に長めのトレンチコートが靡いて、灰の土が舞いあがり空へと渦を描いて昇っていく。

 見上げれば、青空の向こう、雲が流れ、水晶の大樹の枝葉が世界を覆うように伸びて、風にささめく。

 その音色は、砂浜に寄せて返すさざ波のよう。

 透明な枝葉が優しくアトラの星に手を振る―――








「……オオオオオオッ」

 歩き続けて三日三晩。

 ようやく……。

 ようやく、町が見えてきたぁあああああ!

「やっほぉおおおっ、歩き疲れたぁあああ……」

『……。マジで三日間歩き続けるとは思いませんでした……』

「だって歩けばつくって教えてくれたのあんたじゃない」

『いや……方向は教えましたが、まさか本当にあのアポクリファスの砂漠を歩きぬくなんて。

 私……とんでもないマスターと一緒にいます……』

 とガントレットちゃんは逆にお疲れの様子だ。

 ニヤニヤ。

「何ぃ?私のチートっぷりに惚れちゃったぁ?」

『―――逆に聞きます、疲れていないんですか?』

「うん」

 だってガントレット覗きこんでも、黒い装甲の表面に浮かんだ紅いゲージバ―は少しも減ってない。

 これって大丈夫って事だし。

「うーん、死んでなきゃ良いんじゃない?」

『そうですよねぇ!ゲームですし、死にませんよねぇえ!』

「え……なんでキレ気味なのガントレットちゃん……」

『うっさいッ!あんたが無茶しすぎて、こっちの頭がパンパンなんですっ』

「う、うん……ごめんちゃい……」

『うっさい。このオワコンゴリラが!』

「……すんましぇん」

 なんかこの子、すごくインテリだったんだね―――すごく今更な気もするけど。

 なんかたどり着いたのに説教されて軽くげんなりなわけで―――私はため息を漏らしつつ、前の前の景色を見下ろした。

 どこまでも広がる灰の砂漠。

 それとは対照的に遠くにそびえる山や森は緑色に映えた。

 青空は、遠く真正面にそびえる白い水晶の大樹の向こうに広がっている。

 いくつも連なる山の向こうから伸びる水晶の大樹と私を結んだ線分上、灰の砂漠の上に小さな街があった。

 ううん、浮いていた。

 ―――浮遊都市、アステア。

 ガントレットの話だと、そう言う名前の都市らしい。

 茶色い土がいくつも固まって大きな岩の塊となり、凹凸を繰り返す灰の大地から浮いた、そこは、城壁に囲まれた町並み。

 底部には巨大な砲台がいくつも取りつけられ、浮遊する茶色い大地の周囲には、意思のリングが街を囲んでいた。

 城壁の向こうは、殆ど何も見えない。

 ただ、その壁から顔を出す大きな建物は一つ見えた。

 それは塔のような細長い屋根。

 或いは、現実世界で言うゴシック仕様の教会のような―――

 ゴォオオオオッ

 空気を震わせる重低音に、僅かに震える灰の砂。

 街から響くエンジン音は、胸に心地よく響き、私は巨大なクレーターの上空に浮かぶ浮遊の街を見つめていた。

「……ねぇ、あの建物は何?」

『見えてる建物は、黒き大狼神ゼノアトラ様の神殿です』

「ああ。だから最初の街にこっちを選んだの?」

『私もバカじゃないですからっ』

 そう言いながら、少し偉そう。

 私は巨大なクレーターの縁に立ちながら相棒の言葉に少し苦笑いを滲ませつつ、首を傾げた。

「さて、どうやって入ろうかしら」

『だから……歩いて入る場所じゃないんです』

「じゃあどうやって入るのよ」

『だから、二日前あなたがぶっ飛ばしたドラゴンライダーに頼んであそこに入るんですよ。聞いてました、私の説明』

「だってアイツ私のおっぱい触るし」

『などと意味不明の供述を繰り返し、動機は不明』

「なんでよっ!?」

『ないものをあると主張すればそりゃ、レナダーあなた疲れてるのよ……』

「いや疲れたけど、幻覚を見る程じゃないわよ。あるわよ、おっぱいあるわよ」

『……測ります?』

「……」

『三度目は聞きません、測ります?』

「……そろそろ泣くわよ私」

 ―――やっぱ、あの女から偽物おっぱいちぎり取っておいたほうがよかったのかも。

 それで胸に詰め込んで、グッと胸を突き出して。

 ほぉらGカップよ―――

「肉まん詰め込んだ方がまだ救いがあるわよぉおおおお!」

『ま、マスター……?』

「……。ねぇ、神様はどうして私におっぱいをくれなかったのかしら」

『な、泣いてる。空を見上げて泣いてるこのゴリラ……』

 上を向いて歩こう。

 涙が、零れないように―――さぁ、アステアに入る方法でも考えないとね。

 と言っても、今持ってるのはこの体一つだけだし―――私は軽い絶望感に小さくため息をついた。

 そして、胸の内からこみ上げる何かに、自然と笑みを浮かべた。

 だって、この体しか道具がないなら、やるべきことは一つしかない――ソレを今からやるだけ。

 ―――私は歩き疲れて、少し強張った身体をほぐすように動かした。

『マスター……』

「何?」

 軽く屈伸しながら、私はガントレットちゃんの少し焦ったような声に、薄ら笑いを浮かべた。

 うん、相棒はこれくらい頭が良くないとね。

『……飛ぶんですか?』

「立ち止まったり後戻りしたり―――性に合わないわ……」

『でも、でもぉおお!』

「観念しなさい。私はこんな人間よ―――ただの人間よっ」

『……』

 そしてほぐした身体を少しだけこわばらせ、再び遠くの少し離れた場所で漂う、巨大な岩塊に向き合った。

 空の日差しを浴びて、灰の大地に落ちた影は、心なしかこちらに近づいている。

 指を舐めて風の方向を確認。

 フワリ……

 灰の砂が舞い上がり僅かに渦を描いて、近づいてくる巨大な浮遊都市へと消えていく。

 ―――条件は揃った。

 自然と零れる笑み。

「行くわよ―――B.A.S.E、戦闘準備」

 そう言いながら、私は足元に広がる灰の大地に、僅かに肩腕を伸ばし、そして手首までをめり込ませた。

 それはクレーターの縁の上で、まるで短距離選手がスタートを切るような体勢になる。

 私は、近づいてくる巨大な浮遊都市を見上げる。

 グッと腰を持ち上げ、身体を強張らせる―――

「ガントレットぉおお!」

『―――戦闘開始しますッ、相手……浮遊都市、アステアぁああ!』

 やけくそ気味に叫ぶガントレットちゃんに、私は満足げにうなずくと、地面に突っ込んだ手を、灰の砂ごと引き抜いた。

 それは、目の前に近づく巨大な岩の塊に投げつけるように掬いあげて――

「いっけぇええええ!」

 ―――立ち上る土煙。

 それはまるで水面から噴き上がる水柱の如く、掬いあげた粉塵が斜めに飛び出し虚空に飛び出す。

 それはアーチを描く、色無き虹。

 そして灰の柱は落としながら、巨大な浮遊都市へと近づいてくる。

 ゆっくりと霧散を始める―――

『マスター!今です!』

「ミスティックドライブ……!」

 黒く染まっていく灰色の景色。

 周囲の時間が一瞬にして、まるでスーパースローを掛けたように、とてもゆっくりに変わっていく。

 そして霧散する灰の虹も形を保ったまま固まる――

 蹴り上げる灰の砂。

 弾丸の如く飛び出すままに、私は足元から伸びた灰色の虹を伝い、何もない空中を走った。

 地面から噴き上がったアーチは、私の足を沈ませず、私を受け入れる。

 行ける―――

(後十秒……)

 灰の虹へを伝い、巨大な岩の塊の底の辺りに近づきながら、身体が鈍くなり、徐々に息が苦しくなってくる。

 茶色い壁は徐々に近づいてきて、ソレと共に足元の虹も細くなっていく。

 もうすぐ、もうすぐで手が届く。

(あと五秒……)

 背後で黒幕カーテンを引いていく音が聞こえてくる。

 時が動きだす音。

 時間がない。

 私は灰の虹の先端まで来ると、足元を蹴りあげ浮遊都市の底めがけて飛び上がった。

 空中に放り投げられる身体。

 やがて周囲の景色が色を持ち始め、放物線を描いた私の身体は落下を始める。

 眼下に灰の砂漠を見下ろす―――

『マスター!』

「……リキャスト……カウントダウンしなさい」

 茶色い岩の壁にめり込む小剣。

 突き刺した剣を片手に握りしめ、残った手足を壁の出っ張りに引っかけ、私は安堵に小さくため息をついた。

 ついた。

 まずは第一段階―――

「……」

 後ろを振り返れば、そこには霧散していく灰の虹。

 そして、ゆっくりと後ろに流れていく、遠くまで広がる灰の大地の景色。

 かなりの高さを飛んでいる事を今更確認し、私は身震いを起こしながらも、落とした視線を上に向けた。

 そこはアステアの岩壁。

 半球状の底は、丸みを帯びていて、底の近くでへばりつく私には、上がどんな様子が見ることができなかった。

 風に煽られ、へばりつくのもやっとな状況。

 きつい……。

 こんな状況で垂直どころか、逆方向に傾いたロッククライミングを敢行―――

『……クールダウン完了しました』

 ――するつもりなんてさらさらない。

 スゥと吸い込む空気。

 勇気を胸に溜めこんで―――やろうっ。

 岩の出っ張りを掴んでいた手を離せば、壁に張り付いていた身体が僅かに斜めに離れて虚空に放り出される。

 ダラリと垂れる右腕に力を込める。

 血が滲むくらい、魂を込める―――

 もう一方、小剣を握る腕に力込めれば、身体がまた勢いをつけて、壁の方へと引き寄せられていく。

 私は拳を軽く振り上げる―――

 ―――噴き上がる茶色い土煙。

 巨大な岩塊はアステアの岩壁から離れて宙に舞い上がる。

 土煙は螺旋を描き、長い廊下を作る。

 舞い上がる岩の塊は、空への階段を作り上げていく。

 落下を始めていく―――

「ミスティックドライブ……!」

 黒く染まっていく景色。

 落下を始めていた無数の岩の塊がその動きを止め、舞い上がっていた土煙は固いカーテンとなって背後に道を作る。

 壁に突き刺した小剣を引き抜き、私は飛び上がるままに空中に固定された岩塊を飛び歩く。

 飛び伝い、或いは螺旋を描く砂塵のカーテンを走り、アステアの岩壁の傍を登っていく。

 遠く、走りながら見上げれば城壁が見えてくる。

 風に揺れる巨大な水晶の枝葉の下、時の止まった黒い城壁へと、私は足元の岩塊を蹴りあげ飛び上がる。

 グッと手を伸ばす。

 再びアステアの岩壁が近づいてくる―――

『クールダウン開始―――マスター……大丈夫ですか?』

「……なんとか」

 半球の断面部分、ちょうど街が乗っかっている平面部分の縁に私は上体だけ乗っけてしがみついていた。

 既に周囲の時は動き始め、風の中浮遊都市アステアは灰の大地を漂う。

 脚が虚空に投げ出され、今にも落ちそうな下半身を、風が撫でる。

「くそっ……このっ……」

 緑の草葉に手を食い込ませ下半身を引っ張り、身体をよじるままに私は城壁の目の前へと昇りきった。

 登りきったんだ。

 さすがに疲れて、青空と、空を覆う巨大な水晶の枝葉を見上げながら私は草葉の上に大の字になった。

 ザァアアア……

 聞こえてくるのは、木々のささめき。

 冷たく強い風が汗の噴きだす私の頬を撫で、遠く地平線までを覆う透明の大樹は枝葉を揺らす。

 まるで応援するように、力一杯手を振っている―――

「あはは……アナトリウスちゃんもサンキュ……」

『……でも、よくこんな方法を』

「前にゲームしてた時に、こんなバグがあったのよ。まぁその時はPCが時間止められたり、速く走れるわけじゃなかったけど」

『そのゲームは?』

「オブリの絵筆バグ……」

 肺に溜まった乳酸を吐き出すように、大きく息を吐き出し、私は体を起こし手に持っていた小剣を鞘に収めた。

 そして、ふらつく足を押さえ立ち上がるままに、そびえる城壁を見上げる。

 真っ直ぐ垂直に空へと伸びた、巨大な壁。

 掴まる所なんてどこにもなく高さは山の如き、左右を見渡しては、街全体を覆っていて城門はないように思える。

 そりゃそうか。

 飛行手段を使って入るんだったら、基本要らないわよね。

 その方が脆い部分を晒さずに済むだろうし、強固ではある―――合理的なのかもしれない。

 でも、その傲慢が仇になる。

『……マスター。どうなされるのですか?』

 相変わらず、素っ頓狂な問いかけ。

 ヒタリ……

 城壁を前に、ツルリとした壁に手を添えながらひんやりとした冷たさが指先を伝い、私は薄ら笑いを浮かべた。

「……ガントレットちゃん。私が今までどうやって道を歩いてきたと思う?」

 グッと強く握りしめる拳。

 城壁に這わせていた手を離し、私はゆっくりと口元に拳を近づけるままに、冷たい風の中白んだ吐息を吐きかけた。

 気合い充填、パワー百%。

『……まさか!』

 ―――ぶっ飛ばす。

「……それだけよ」

 立ち上る粉塵。

 振り下ろした拳は固く、一瞬で壁にめり込むままに深い罅が眼の前の城壁を円形に走っていった。

 内側に吹き飛ばされる黒い岩塊。

 ドォオオンッ

 街に迸る地響き。

 飛び出した岩の塊は、内側の道路に転がり、周囲の家屋にめり込んでいく。

 そして、土煙が風の中に晴れていく―――

「……到着」

 ニィと自然と綻ぶ口元。

 城壁が破れぽっかりと円形の『道』が出来て、私は、ゆっくりと一歩を踏み出して街の中へと入った。

 入った途端に感じる人の気配。

 突き刺さるような、いくつもの敵意。

 入り組んだアステアの街の中で、『獲物』を見ている目がいくつも、城壁を潜る私を捉えている。

 私は、町の中へと一歩を踏み出す―――

「……上等よ」

『……アステア、到着しました』

「サンキュ、ガントレットちゃん」

『……なんとなく、わかりました……』

「何が?」

『―――マスター、強いんですね……』

「正解」

 私はニッコリと笑って、敵意の渦巻く街の中へと入っていった。






スカイリムやりてぇ(ノ)'瓜`(ヾ) でも気が付いたらゲームより何より小説を先に書いている私。

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