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記録零:戦神の深き嘆き

今回はかなり分かりづらい設定ばんばんつかっとります。わからんと思ったらすぐに飛ばしていいですよ。それでも知りたい方は作品『夜明けのオオカミ』『闇の奥の奥に』を探してください。一つノクタン入りしてるけど(*´ω`*)

 


「――――アポクリファス……」

 光一つ差さない暗闇の中、少年はトレンチコートを風に靡かせ、ゆっくりと深淵を踏みしめる。

 周囲は凹凸を消してしまう程の分厚い闇。

 しかしながら胸元にかざした手の平から光が零れ、僅かに目の前にそびえる巨大な生き物の輪郭を捉える。

 それは小さな蒼い炎を灯したランタン。

 その炎が照らす先に佇むは、あまりに巨大な獣の顔。

 二つ。

 四つの目がこちらを見下ろし、山すら踏みつぶす大きな前足が巨木の如く目の前に聳え立つ。

 僅かに警戒心からいきり立つ巨躯。

 逆立つ全身の灰色の毛は淡い蒼光を照り返し、紅い双眸は少年を静かに見つめる。

「―――王よ……」

 グルルルルルゥ……

 重たい息遣いの奥に聞こえる、穏やかな唸り声。

 噴き上がる鼻息に、かざした火の粉が僅かに宙を舞い、頬を掠めて雪のように闇に溶けて消えていく。

「こんなところに―――探したよ……」

「……なぜ」

 唸り声の向こうから聞こえてくる声に、少年は僅かに笑みを零しては、小さく首を振って見せる。

「……君を邪魔しに来たわけじゃない」

「……」

「見つけたんでしょ。オルカを」

 ―――その名を口にするだけで、闇に深みが増す。

 ドクン……

 熱を持ち、脈打つ空間。

 空気が怒りに震え、暗闇に消えた足元がぐらつく中、少年は少し哀しげに蒼炎のランタンを闇にかざす。

 目を真っ赤に血走らせる巨大な灰熊に小さく肩をすぼめる――

「アポクリファス……」

「奴は……『火』を盗んだ。我らが王の魂を殺し、『火』を奪い、この世界の創造者に売り渡した。

 変わり自身の名前を変え天使などとふざけた役職について……」

「……」

「王よ……私は―――奴が許せぬ……王を裏切り、我らを裏切り原初の火を盗んだあの裏切り者を。

 殺さねば……首を刎ね、翼を全て削ぎ落し、暗闇にくべなければ……。

 殺してやる……なぜ王が死なねば……なぜ……」

 怒りはやがて啜り泣きに変わり、鼻息に涙が混じっていく。

 涙は大粒の川となり、踝までを水で浸す中、少年はソッと流れる川を掻きわけ、巨大な灰熊へと近づく。

 スゥと右手をのばし、手の平を広げる。

 その向こうに、暗闇に蠢く巨大な『原初の獣』を捉える――

「アポクリファス……怒りを鎮めて……君が泣く事はないんだ」

「――――この世界に、オルカを捕えました……」

「……」

 すすり泣きはやや収まり、興奮に震える荒い鼻息にトレンチコートを靡かせ、少年は右手を静かに下ろす。

「姿は見えませんが……確実に奴はこの世界にいる」

「―――その為に君はこの惑星『アトラ』をまた作り上げた……」

「必ず見つけ出してやる……どこに逃げようと、どの世界にいようと、どの時間にいようと構わない。

 必ずいぶり出して……殺してやる……!」

「―――僕は……一人の女の子を探しに来た」

「ダメです……ここに捕らえた魂の中のどこかに、オルカは隠れている」

「……」

「申し訳ありませんが、一人も逃がせません……オルカを見つけるまで

「だよね……」

 零れるため息に揺れる蒼い炎。

 コトリ……

 ランタンを足元に置けば、仄かな明りが周囲の暗闇をかき消し、僅かに光の中から草穂が顔を覗かせた。

 フワリと冷たい風にささめく草原の緑。

 トレンチコートを風に靡かせトンと地面に一歩を踏み込みながら、足先が蒼く光を放ち暗闇が剥がれる。

 そして闇の向こうに覗かせるのは風に靡く草原の穂波。

 パラパラ……

 闇が剥がれ落ちていき、小さな蒼い足跡が闇にいくつも浮かび、少年は静かに暗闇に佇む巨大な獣へと歩み寄る。

 そっと伸ばす小さな手のひら。

 ズムリ……

 灰色の前足の毛に手の平が吸い込まれ、少年はボフッと華奢な体を巨大な身体に預けた。

「……暖かいね……やっぱり君は」

「―――懐かしい……そうやっていつも私に囁きかけてくれた……王よ」

「君は優しすぎる……」

「私は……そんなあなたからくれた思い出を踏みにじった奴が憎い……」

「―――そして、とても強い」

 僅かに微笑み、少年は背中を前足に預けて暗闇の中にゆっくりと座り込む。

 そして見上げる視線。

 紅く澄んだ双眸を細め、巨大な二つの頭に微笑みかけるままに、少年はゆっくりとその右手を掲げた。

 そして手の平を広げて嬉しそうに笑う。

 手の平の向こうに、巨大な『原初の獣』を捉える―――

「アポクリファス……僕のお願いを聞いてくれない?」

「なんなりと……私は常に王の従者であります故」

「……ゲームをしよう」

「―――は?」

 警戒心に少し強張っていた二つの顔が緩まる。

 にんまりと零れる少し悪戯っぽい笑顔。

 手の平を下ろすままに、八の字に広げた両足の間に手を置くと、広がる草原の草穂を撫でながら少年は囁いた。

「ゲームッ。君がこのゲームを作ったんだろう?」

「ま、まぁ……」

「なら良いじゃないか―――僕と、僕が探している女の子がこのゲームをクリアしたら、彼女を解放する」

「……私に、人間が勝つ、ですか?」

「アバターだけどね―――どう?」

「……」

「僕は君に反目するつもりはない。……君がそう望むのならそうすればいい。オルカも僕が探そう。

 だけど僕のお願いも聞いてほしいんだ」

「……。王には敵いません」

「優しいアポクリファスは大好きっ」

 そう言って少年はグリグリッと毛深い灰色の体毛に頬を擦りつけた。

 僅かに身じろぎする巨躯。

 ハァハァ……

 闇の中に響く荒い息遣い。

 興奮に少し鼻息が強くなり、ざわざわと体毛が逆立つ中、少年は立ち上がって草原を蹴りあげた。

 フワリ……

 暗闇の中、華奢な体は羽のように軽々と飛び上がり、音もなく地面に降り立つ。

 クルリと風にコートを広げて、微笑みを零す――

「えへへっ。ありがとうアポクリファスッ」

「はぁはぁ……王よ……王よ」

「?」

 両手を広げる華奢な体。

 柔らかな笑みを零す少年を見下ろし、興奮に目を血走らせながら、ゆっくりと少年の倍近い大きさの顔が近づいてくる。

 巨大な口腔が開き、鼻息交じりに長い舌を伸ばし、ベロリと少年の顔を隈なく舐め上げる。

「ペロペロ――――むぅ……おいしいであります。いい匂いであります」

「べとべとなんですけど……お師匠もこんなことするし……」

「あいつも後で殺しておこう……」

「?」

「まったくアトラシアといいゼノアトラといいなんであいつらだけ……まったく……くそ……」

 ググッと暗闇で身じろぎする巨躯。

 ベットリと体中唾液まみれになりながら、少年は不思議そうに首を傾げるものの、僅かに腕を暗闇に掲げた。

 そして少しさみしげに眼を細めるままに、暗闇を見上げ少年は僅かに頷く。

 そして優しく微笑む――

「アポクリファス……また必ず君に会いに行く」

「―――今度は敵同士ですな」

「ううん。僕はずっと君の友達。だから君と戦いたいッ」

「その意気やよし―――必ず相まみえましょう」

「うんっ」

 暗闇に響く、指を鳴らす乾いた音。

 ビシリッ

 掲げた手を下ろすままに、周囲の分厚い暗闇に罅が走り、夜を走る白蛇の如く周囲に広がっていく。

 ひび割れた暗闇の隙間から零れる光。

 足元から伸びる細長い影。

 罅が徐々に広がり、暗闇がすぼんでいき、やがて闇の向こうに巨大な獣の気配が沈んでいく。

 微笑む少年の姿が光に溶けていく――

「アポクリファスッ。また会おうっ」

「―――王よ……一つだけ」

「?」

「……アトラシアが呼んでいました。……出来れば会ってあげてください」

「アトラシアが?」

「はい。あなたにお話ししたい事があると」

「……。わかった、また会いに行くよっ。ありがとう」

「御武運を」

「誰にものを言ってるのさっ―――崩天の呪術師、水樹幸一っ、行ってくるねっ」

 ―――崩れ落ちていく暗闇。

 闇が晴れ、光が一斉に差し込み、少年は眩さに目を細めるままに、恐る恐る周囲を見渡した。

 そこはどこまでも広がる草原。

 小高いそこは、大陸の風景が見下ろせ、遠くにはクレーター状に窪んだ灰色の大地、そして中心に巨大な塔があった。

 別方向には、真っ赤に切り立った渓谷が顔を覗かせる。

 そしてその赤々と連なる山の向こう、遠く、大地に根を張り巨大な水晶の柱が青空を貫き雲の向こうまで伸びていた。

 それは巨大な白き大樹。

 見上げるばかりに空は蒼く、透明な枝葉が地平線まで伸びて光を透過し、雲を眼下に包み込み、空全体を覆っている。

 まるで大地を守るように、大きく、そして深く包むように――

「アナトリウス……」

 ―――音無く透明な枝葉が揺れる。

 優しく手を振るように―――

「……うんっ。行ってくるよ」

 白き大樹の枝葉を見上げながら、少年は微笑みを浮かべ小さく頷くと、視線を水平に落とした。

 遠くに見えるのは灰色にくすんだ大地。

 そこはアポクリファスの古戦場。

 惑星『アトラ』にて、かつて戦神アポクリファスと裏切りの女神オルカが戦ったと言われる聖地。

 その為に、そこにいたあらゆる命が潰えたと言われる忌むべき地。

 土の上に木々は生えず、獣の気配はまったくなく、ただ灰色の土が冷たい風に乗って、頬を掠める。

 スゥと細めた紅い瞳に映る、様々な景色。

 広がる異世界を見つめ、どこまでも広がる窪んだ灰色の大地に手の広げ、水樹幸一は顔を強張らせる。

 グッと灰色の大地を手の平に収め、グッと拳を作る――

「速比売レナ……どこにいるのやら」

 冷たい風に揺れる長いトレンチコート。

 髪を軽くかきあげ、白む息を零しながら、少年は木々のざわめきを耳に聞きながら、力強く地面を蹴りあげた。

 そして、異世界へと降りていく―――






うーんこのクソ素人。まぁ誰も読んでないしいいじゃないですか(*´ω`*)

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