記録其零:異界転生録・序
お師匠の話では、約3000人近い人達が拉致されたらしい。
『アポクリファス戦記』
架空のオンラインゲーム。
あるはずの無いものを触って、この日本にいる一億万人の人々の内約3000人が異世界へと連れて行かれた。
魂だけ。
向こうで、異世界のパワーバランスに適合する形でコピー体は作ってあるだろうから、本体は必要ないはずだ。
だけど拉致されたと言った通り、身体もない。
皆、煙のように消えていった。
恐ろしい力だ。
だけどそれ以上に恐ろしいのは、それだけ人々を巻き込んでも、何かを為そうとしているという事。
深い憎悪。
世界中の人間を呪うとする、恨み。
おそらく……何人死のうが、構わないのだろう。
必ず、事を成し遂げようと――――
――『アポクリファス戦記』……アポクリファス。
争いを告げる―――
「……アポクリファス。君は……」
ここは速比売レナの家の前。
僕は、同級生の彼女の両親に呼ばれるままに、彼女の家にやってきたのだった。
理由は大したことじゃない。
今回の依頼は簡単だったし、駆けだし探偵の僕にとってはそれほど苦労はしないと思ったからだ。
何より―――
「レナちゃん……どうして……どうしてどこにもいないの……?」
「帰ってきておくれ……わしら何でもするから……お願いじゃから」
「レナちゃんが笑ってくれないと……ワシら生きている意味がないんじゃ」
「お願いじゃ……帰ってきておくれ」
泣いている年のいったご両親の涙ながらの話を聞いた時、どうしようもなく胸を締め付けられた。
助けよう。
困った人々に笑顔を取り戻せるのなら、僕の拙い呪術、使うに安いものだ。
お師匠も、大婆様も快諾してくれた。
「こっちです……レナちゃんのお部屋は」
「レナ……ワシらがいやになったのか?ワシらが……いかんかったのか?」
彼女の部屋に導かれるままに、僕は彼女の小奇麗な部屋を見渡して、驚きに目を見開いた。
整ったベッド。
本棚は綺麗にまとめられている。
机はノートパソコンがあり、傍には既に終えた数学と英語の宿題。
部屋は毎日掃除しているのか埃なんて目に入らなった。
とても、とても綺麗な部屋
学校では中々に荒くれ者で、教師でも手のつけられない彼女だが、家では本当に優しい少女だったようだ。
その上、隠れて勉強でも常に上位につける優等生。
勉強も出来て、スポーツは万能。
本当にすごい女の子だと、僕は思う。
ただ、その性格はちょっと捻くれているのだが。
「……」
私は少し、部屋の空気を吸い込む。
彼女の足取りを匂いで追う――
(……そこか)
僅かな匂いを追いかけ僕の目に入ったのは、少女の机の上にある小奇麗なノートパソコンだった。
匂いは、画面の奥へと続いている。
その向こうに、『異界』が広がっている。
未だにノートパソコンは、電源を切られ充電コードを抜かれても、延々と画面に明りをつけ続ける。
そこが異世界の入り口だと知らせるように――
「水樹君。そのトレンチコート重いだろう。少し脱いでおくかい?」
「……。おじいさん、おばあさん」
「ん……なんだい水樹君……?」
「今から、レナさんを助けに行きます」
「ほんと……ほんとかい?レナは助かるのかい?」
「必ず」
「――レナ……レナちゃん……!」
その場おばあさんは泣き崩れる。
僕はそんなおばあさんに小さく会釈をすると、再び明りのついたノートパソコンの前、彼女の勉強机に向き合った。
――彼女を助けるために必要なもの。
まずは彼女の身体。
そして彼女の魂。
その為には、約3000人の身体が安置されている場所を見つけなければならないだろう。
それはおそらく、アポクリファスが持っている。
(……そして、魂)
この異世界で、彼女はどこで何をしているのか。
行こう。
「……展開せよ、召喚の六茫星。現世と異界を繋ぐ柱となれ」
――アポクリファス……そこまでして君はオルカを……。
足元に浮かぶ白い印字。
それは星の様な形となって床全体に広がり、やがて壁を伝い、天井まで這い上がっていく。
ドクン……ドクン……
まるで生き物のように、空間が鼓動を始める。
そして、文様が明滅を始める。
部屋全体が『異界』となる――
「……おばあさん。部屋から出てください」
「は、はい……」
捩じれ始めていく部屋の景色。
明滅する紋章の浮かんだ部屋の隅に座っていたおばあさんは、戸惑いながら部屋を後にしようとする。
「……あの、水樹君」
「はい?」
振り返れば、そこには開いたドアの向こうで戸惑いがちに話しかける速比売さんのおばあさんがいた。
「……レナちゃんはね……本当は優しい子なの……引き取られた先で次々と里親がなくなられて引き取る人たちもいなくなって自暴自棄になって。
それでも私たちに尽くしてくれて、笑顔をくれて、頑張ってくれて」
「……」
「お願い……何でもするから……レナちゃんを、助けて……私たちの大切な娘なの」
「必ず、絶対に助けますよ」
「……ありがとう、水樹君」
閉じる彼女の部屋の扉。
密室が完成すると共に、『異界』の扉も徐々にだが、開き始めていく。
フワリ……
足元から噴き上がる冷たい風。
部屋に浮かんだ光の文様の向こうから、この世界とはまるで違う世界の匂いを、風が運んでくる。
この先に、彼女がいる――
(……お師匠。大婆様。崩天の呪術師、水樹幸一。人助けに行ってきますっ)
心の中でそう呟き、僕は床を蹴った。
お師匠がくれたトレンチコートが噴き上がる風に煽られ、身体が僅かに宙に浮いて、重力に引っ張られる。
スルリ……
抵抗なく光の中に沈んでいく足先。
まるで床がなくなったかのように、脚から胴体、そして顔まで身体全体が白い文様へと吸い込まれる。
視界が白く染まっていく。
(アポクリファス……速比売レナさん……)
その光の中に、僕は灰色の大地を眼下に見下ろす――
何者?って思う人はノクターンに入ってる『闇の奥の奥に』を読んでね(*´ω`*)漢pandiとの約束♡でもちっちゃい子は読んじゃだめだぞっ、ちっちゃい子とワンコ(力強い雄に限る、雌?そらもう滅却よ)はおじさんはいい子いい子しちゃおうか(ノ)'瓜`(ヾ)