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わんこぉおおおお!むほぉおお、わんこぉおおry

朝からテンション上げられないや(*´ω`*)

 



 うーん。眠い。

 おじいちゃん、もう少しだけぇ……

「くっさ」

「誰じゃこの野郎がぁああ!」

「――――起きました?」

「はいぃいいい!?」

 そこにはでっかい犬が一匹、起き上がる私の傍にいて、私はどこか森の奥深くで寝込んでいた。

 周りは木漏れ日が差して少し明るく、目の前には小池が見えた。

 そこから零れる光は眩くて、水面に照り返す光に目を細めつつ、私は深い森を見渡してはため息を零した。

「……ここ、どこ?」

『マスター!』

「あ、ガントレットちゃん」

 聞こえてくるのは、私の相棒で、私は腕についたイメチェンした右腕の装備を覗きこんだ。

 見えるのは赤と青のバーで、私の体力とシールドゲージが正常だと教えてくれる。

「……大丈夫そうね」

『あ、はい。体力検査しましたが、ステータス異常ありません。マスター生きています!』

「そうねぇ……はぁ」

「だからこんなに臭いんですね」

「何をそんなにしきりに言うんですかぁ!?」

「こんにちは、速比売レナさん」

「お、おう……」

 そこには見上げるばかりに、でかい犬―――狼かな、そんな生き物が傍に寝そべっていて私は戸惑いに尻もちをつきつつ後ずさった。

「あ、臭いですね」

「いたぁああい! なんで頭抑えつけるのぉ!?」

 そのでかい白ワンコはキョトンとした表情で目を丸くすると、前足で私を抑えつつ顔をぐっと伸ばした。

「逃げないようにするためですよ? だって汚物を消毒しないと坊ちゃまが可哀想ですから」

「燃やすんですかぁあああ!?」

「――――くっさ」

「だから言う事ないでしょうがぁああああ!」

 そう言う私の首根っこを甘噛みしてでかい白狼は私を軽々と持ち上げてしまった。

 ――――ポォオオイッ

「ひぁあああああ!」

 投げられるままに景色がぐるぐると渦を描いて、私は弧を描いて水面にたたきつけられた。

 ズブズブと沈んでいく身体。

 だけど池の底は浅くて直ぐに背中が水底につき、私は慌てて水面へと這い出した。

「がはぁ! 死ぬかと思ったわよぉ!」

「よかった」

「何嬉しそうなんですか! お髭むしりますよぉ!」

「下品な発想……」

「うるさいわぁ!」

 ゴロゴロと顔を足もとの草木に擦りつけながら寝そべる姿は可愛らしいのだけれど、言っている事は毒舌。

 大体眼の前のこの犬は何?

 大体三メートルぐらいはあるしでかいし、耳は長くて眼は紅くて鼻息だけで水面が揺れる。

 ただそれだけの巨大な犬だけなのに―――なんだろうこの違和感。

 まるで目の前に自分の姉妹がいるような感覚――――

「……ねぇ」

「坊ちゃまのちんぽしゃぶりたい……」

「何唐突に言ってるんですかぁ!?」

『むらむらするね』

「やめて乗らないでぇ! 急に何言ってるの!? 私頭おかしくなりそうなんだけどぉ!」

「可愛いでしょ。ぼくの友達なの」

「おたく誰ですかぁ!?」

 ざわばざばと水音を立てて対岸から顔を出したのは、大きな人影だった。

 私よりも二十センチは高いだろうか。

 筋肉質の背丈は胴元から下が水に浸かっていて、裸体はビッシリと頭の先まで白い体毛が覆っていた。

 いわゆる狼男で、顔は狼のようにツンと伸びた鼻が出ていて耳が尖っていてとても精悍なイケメン狼。

 体毛は白くて艶やかで、尻尾は滑らかで。

 なのに眼はどこぞの美少女なみにくりっとして、顔立ちは整っていて。

「ぬぉおおおおお! 辛抱たまらん! 孕ませてぇえええええええ!」

「ドリルプレッシャーパンチ」

「げぼぉおおおお!」

「生きているようで良かったよ」

「顔に拳めり込ませて言う事なのぉ!?」

「気絶した人に頬ビンタするようなものだよ」

「鼻が折れ曲がりますわぁ!」

 吹き飛ばされて池のほとりへと倒れながら私は鼻血を抑えつつ、キョトンとする白い狼男を睨んだ。

 ぐぬぬ……。

 しかし良い狼男……。

 体つきもスラッとしていてなのに覆っている体毛からわかるくらいに筋肉質で横顔は狼として幼さを残しつつ、モデル並みに整っていて。

 ――――あ、池から上がろうとしている。

 下半身が見えるぞぉおおおおおおお!

「あ、そうだ。アトラシア」

「はい、なんでしょう坊ちゃま……」

「その呼び方やめて……」

「ぎゃああああああああ! 頭がぁあああ! 飲み込まれそうになっているぅうううう!」

「どうして来てくれたの?」

「メフィスティアが言ったのですよ、助けに行ってやれと」

「ぎぇえええええ! 喋らないで頭が凹むぅううううう!」

「大婆様が? お師匠は?」

「あのバカは、坊ちゃまにはまるでふさわしくありませんよ」

「たまに恐ろしい笑顔を見せるねアトラシア……離してあげて」

「げろぉ……」

 その一言と一緒に、白い巨大な狼に頭を丸のみされていた私はようやく解放されて地面に横たわった。

 ちょっと頭が凹んだ。

 中身でたかも――――そう思って頭を摩っていると足音が聞こえて、視線を上げた。

 そこには白い体毛のオオカミ男が立っていた。

 その紅い瞳は変わらずクリっとしていて口元は微笑んでいて、突き出た口腔はりりしく思えた。

 なのに服装は良く見るものだった。

 よれよれのトレンチコート。

 ワイシャツは真ん中が開いて胸元がむき出しで、ズボンから下は爪の伸びた素足が見えていた。

 そこには良く見る男の子の服を着た狼男が立っていた。

「――――幸一?」

「おっす」

「ええええええええ!? 何それぇえ!?」

「アビリティみたいなもの」

「マジですか!? という事は全男子をワンコに変えるツールがあるとでもぉ!?」

「頭の回転速いね……まぁ変えるというか変わるんですけど」

 そう言って小首を傾げてペタンと困った表情で耳を垂らす姿はとても愛らしくて、私は立ち上がって彼に飛びついた。

「おぉおおおおお! セックスさせてぇええ!」

「旋風蹴」

「はげぇえええええ!?」

「元気だね……」

「……ふふふふ、よっしゃぁああああ! 生きる希望が湧いてきたぁああああ!」

「そう?」

「うぉおおおお! 全男子を狼男に変えるツールをゲットしてこの世界をワンコだらけしたるぅうううう!」

「――――アレ、でもおばあちゃんとかのくだりは……」

「知らん、頑張るぞぉおおおおおおお!」

「元気だなぁ……」





「というわけで少し落ち着いた?」

「さすがに顔が変形するまでなぐるのはどうかと思うの」

「だってそうしないと止まらないし」

「私女の子なんだけど……」

「違うよ」

「何を根拠に今否定したんですかぁ!?」

 というわけで、私は池の近く、大きな切り株の上に座るコート姿の狼男を前に少し距離を置いていた。

 でないと、拳が飛んでくるわけで。

 後ろで控えているでかい白い狼がニコニコと眼を細めて微笑んでいるわけで。

「……あの」

「ちょっとでも坊ちゃまに触るようなら魂まで噛み殺しますからね、この肉豚」

「ひどい!」

「坊ちゃま。お話してもよろしいでしょうかね?」

「うん。いいよ、アトラシアの話が聞きたい」

「むほぉおおおおお! そのショタっぽい所がぁあああああ!」

「ふんす!」

「ひぎぃ!」

「あ、潰れた」

「先ほども申しました、私はメフィスティアとアナトリウスの呼び掛けに応じてきました、曰く坊ちゃまに大変なことになるから助けてくれと」

「実際大変なことになったのは、そっちの方だけどね」

「まったく、足が汚れる」

「―――なら、踏みつぶさないでよ……」

 そう呟く私を放っておいて、でかいワンコはニコニコと微笑んで白い狼男になった幸一に語り始める。

「正直私も驚きました。こんな所まで連中が来ているなんて思わかったものですから」

「本当はグレイプニールで対応しようと思ったんだけど、手間を掛けたね。撃退するだけなら楽な連中さ。

 倒す、までいこうというのなら深淵を覗かないといけないけどさ」

「幸いまだ本体はいずれも到着してませんからね。お父上にご連絡なされますか?」

「会った事もない人間に合わせる顔はないよ」

「は、はい……」

 ――――ないんだ。

 なんだか、フイッと顔を背けるそのワンコの横顔はどこか寂しげで、幸一はため息交じりに口を開いた。

「とにかく、しばらくは何があっても僕らでどうにかする。そんな頻繁に顔を出すような輩じゃないし」

「わかりました。私は坊ちゃまのお守をさせていただきますね

「いいよ。適当にぶらついていて」

「いやです」

「頑固……君の方からなんか連絡ある?」

「そうですね――――一つだけありますわ」

「言って」

「――――フォノトの街のアトラシアの教会に来てくれ、とのことです」

「……はぁ?」

 そう呟く幸一の表情は今までに見た事もないくらいに驚いていて、紅い目を見開く狼男に私はおずおずと身体を起こした。

「フォノトって……どこ?」

「アルテスから海を渡って隣の大陸。霊峰エフェクトラ山の麓の街」

「山? 炭鉱街?」

「そこを作った王様はエフェクトラ山のドラゴンと縁が深くてね、ドラゴンの加護を得るために首都を山の麓に作った。

 っていう設定の話だよ」

「ふぅん……そこにアトラシア……あと、らしあ……?」

 そう呟きかけて、私は視線を上げて振り返る。

 そこにはニッコリと微笑む巨大な白い狼が寝そべったまま、私のせなかを前足で抑えつけていた。

 その紅い瞳は凍りつく私を捉えて、微笑んでいた。

「どうしました、そこのドブ臭いお嬢さん?」

「あれぇ!? こんな毒舌ワンコが、アトラシア!?」

「そだよぉ。白き大狼神アトラシア。異界を彷徨う王に仕える二頭のオオカミのうちの一体。

 ……っていう設定」

「ふふっ、設定ですわね」

「―――もしかして、この子と懇ろになったらクラスポイントとか貰える」

「君のクラスはお師匠のクラスじゃん……」

「だ、だけどぉ!」

「世の中いろんなものがあるものさ」

「それで済ませられるレベルじゃないですよねぇ!」

 戸惑う私をよそに、白い狼男は立ち上がって、コートを翻すままにアトラシアって呼ばれた巨大なワンコに近づいた。

 そして手首を摩りつつ、その表情をほんの少し強張らせ、少年は首を傾げる。

 その目は紅くて、少し怖くて――――

「……アトラシアの教会が待ってるって誰が言ってるの?」

「わかりません。異邦の地よりメッセージがアストライアより私宛、更には貴方様宛に送られたのです」

「君に? よっぽど僕らの行動が把握できているようだ」

 そう言って零れるため息。

 クシャリと髪を掻いてうんざりとした表情を横顔に覗かせつつ、狼男の幸一はため息交じりに呟く。

「……一応聞くけど、彼女? それとも僕?」

「無論坊ちゃま宛に」

「……誰から?」

「――――デイズ・オークス」

 その言葉を呟いた瞬間、彼の表情から余裕が消える。

 なんだろう。

 なんでそんな怖い顔をするのか――――彼は眼を見開くままに、息をするのも忘れるくらい、硬直する。

 そして、一言だけ呟く――――

「……誰?」

「知らへんかったのぉ!?」

「うん……」

「ならその間を開けて怖い顔をするのをやめなさい!」

「……アトラシア。でも僕はその名前を、どこかで聞いたことがある」

「異界からの来訪者の一人ですわ。お父上から何度かお名前を聞いた事は?」

「あるだろう。……ただ名前だけしか」

「―――一度戦った事がありますが、彼は我々に繋がるものがあります。どうかお会いになってみては?」

「敵なら殺す」

「意のままに」

「ならそれ以上は言わない。ぼくの好きにさせてもらうよ」

 そう言ってため息もそこそこに、幸一はクイッと手招きをして、私を無言のまま呼び寄せた。

 ググッと持ち上がる、背中の大きな前足。

 起き上がるままに私は、コートにべったりと付いた足跡を払いつつ、彼に近づいた。

「……何よ?」

「いや、具合はどうかなって」

「あんたの部下のおかげでコートが汚れたわよ……」

「それ僕の予備のコートなんだけどね―――悪いけど、フォノトまで付き合ってくれないかな?

 聞いてただろうけど、会いたい人ができた」

「いいけど……ゲームの進行はどうするのさ?」

「彼の情報を集めつつ、この世界を歩いていけばいい。大丈夫霊峰エフェクトラまではまだずいぶんと距離もある。

 のんびりとレベルアップでも続ければいいさ」

「―――終わるころにはおばあちゃんになっていそう……」

「さすがに全コンテンツ終了まで250年かかるようなゲーム設定にはしていないさ」

「うう……」

「さて、フォノトの街に行くまでに、君の強化プランを立てたいところだけど」

「ああああああああ!」

 と言っている間に、彼が背中を向けるとその身体はいつもの人間のソレへと戻っていった。

 クルリとスムーズスキンとなった幸一は怪訝そうに眉をひそめて私を見つめる。

「どしたのぉ?」

「なんでワンコスタイルになっていないのよぉ!」

「君が怖いから……」

「怖くないわ、怖くないからお姉さんの胸の内に飛び込んできなさぁい!」

「臭そう……」

「うーん、否定できない!」

「じゃあ君のドライブアビリティのミスティックドライブの強化だね。……B.A.S.Eちゃん、今のマスターのポイントは?」

『現在25ポイントとなっています』

「全部リキャスト短縮に費やして。速さは力になる」

『了解です』

「あれぇ!? 何で私に説明も無しにポイントの割り振りをしているのぉ!?」

「無駄遣い多そうな顔してるから」

「どこ見て言ったぁ!?」

「無駄毛の多そうな腋」

「やめてぇえええ! ここは私のデリケートゾーンなのぉおおおお!」

「ドライブポイントは敵を倒す事である程度奪う事が出来る、更にボスを倒すか、特定の教会で加護を受けることで増える。

 確か君のガントレットから説明聞いたよね?」

「はい……」

 蹲る私をよそに、幸一はニコニコと微笑みながら、ポケットに両手を突っ込んで小首を傾げた。

「そしてポイントを計100手に入れてドライブアビリティの強化に使うと、クラスが強化されるんだ」

「ジョブチェンジって奴ですね!」

「アップグレードとも、或いは複数のクラスを所有することもできるけど。まぁそんな感じ。

 だから実質レベルが2になれば、ドライブアビリティがどちらにせよ二つ所持することになるよ」

「へぇ……私は100ポイントゲットしたら何になるの?」

「ミスティックダイバー」

「一緒じゃあん!」

「クラスレベルが5になれば名前が変わるよ、やったね」

「やめて! だけど、後400近い点数が必要なのね……」

「2から3へのレベルアップには必要ポイントは二乗されるっていうね」

「マゾすぎるぅううううううう!」

「やっとMMOらしくなったね、レナちゃん」

「そんな所だけ真似るなぁあああああああああああああああああ!」

 森の中に私の悲鳴がこだました。



というわけでちまちま続けます。小休止なんて話もありますけどまぁそれはいつか。あれですよやると言ったが時期は決めていないって奴です。

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