十三キロや
どうしよう・・・とりあえずこんな感じですはい。
「―――おわぁ。強いなぁ」
翻すコートと共に振り薙ぐ巨大な刃。
パシャッ
降り注ぐ赤い雨滴が尾を引いて飛び散り、刃の軌跡が弧を描いて石畳の地面を土煙と共に深々と抉る。
ブォンと振り上げて肩に担ぐ鎌。
腰のベルトから引き抜く銀フレームの巨大な拳銃。
ガコンッ
上下に回る二連式のリボルバー。
撃鉄を引き上げ、真横に振り抜いた鎌の向こう、少年は後ずさりながら、雨のカーテンの向こうに敵を捉える。
うようよと這い寄る無数の黒い肉塊を前に、スゥと紅い双眸を細める。
「だけどさシュトゥルフ、君も懲りないね」
―――ガンズ・オブ・バァル……
ドゴォオオオンッ
路地に響く重たい戦車砲の着弾音のような発砲音。
衝撃にレンガの家屋の壁が吹き飛び、地面に罅が走り足元の石畳がめくれあがる。
ソレと共に振り上がる銃身の先、弾丸が空気を抉り、風の渦を描いて、地面に這い寄る肉の染みへとめり込んだ。
―――立ち上る激しい砂煙。
後ずさる少年の視線の先に映る、土埃の柱。
岩の残骸が飛び散り、粉砕した瓦礫が肩を叩く中、少年は腰に銃を捩じり込み、鎌を担いで赤い雨の街を駆ける。
その背後に『敵』の気配を捉え、ニヤリと口の端を歪める―――
――――『王』ノ血……存在ノ原初タル鍵……力ノ始祖……。
「偉大な偉大な我が父の事かな? ごめんね、僕は未だにその父の顔は見たことがなくてねッ」
――――ソノ力……出来ソコナイノ翅持チが告ゲル通リニ……
「やはりオルカか……!」
――――ソノ力ヲ頂ク……神ヲ殺スタメニ……!
「ねだるんだったら、あんたらの親玉にでもねだってくれ、僕が持っているものなんてなにもないさ!」
翻す長いトレンチコート。
両手に長い柄を握りしめ、石畳に深く足をめり込ませるままに、少年は土埃を上げて踵を掛けた。
制動を掛けつつ後ろに下がりながら、振り薙ぐ刃。
――――キィイインッ
激しく震える空気。
飛び跳ねる水飛沫。
虚空に浮かぶ刃の軌跡。
古びた周囲の建物の壁に真一文字、横にスゥと斬痕が浮かび上がって、真円を描いて広がっていく。
そして地面に広がる黒い染みを塞ぐように、石畳に無数の刃の痕が浮かび上がる。
「逃げる!」
――――黄昏ノ狼……。
「シュトゥルフ、あんたが見ているものはまやかしだ、その先には何もないさ!」
――――紅キ瞳……王タルモノ……。
「かつての友、アルト・フェル・オルカに伝えろ、親友アポクリファスがお前を待っていると!」
ツゥ……
壁に刻まれた刃の痕に沿うように崩れていく建物。
土煙の中に沈んでいく街の一角。
音もなく周囲の建物が崩落していき、土埃の中、少年は鎌を肩に担いでコートを風に靡かせ走る。
その赤い瞳の先、土埃に目を細めながら、少女を探す。
グッと胸元を掻き毟る。
眼を僅かに閉じる―――
(レナさん……!)
――――生きよう。
聞こえるのは、静かな声。
少年はハッとなって眼を開くと、立ち止まるままに、慌てて地面を蹴って後ろに飛び退いた。
「レナさん!」
――――大好きな人の為に、誰よりも強く。
光。
眼前を横切る閃光の渦。
一瞬でアルテスの街を横断し、光の奔流が大地を抉り、建物を刳り貫き、空気を震わせ走った。
そして海を引き裂き、光の柱が水平線に消えていく――――
「ふぅ……」
飛び退いた少年のつま先の地面が深々と抉れている。
光が収縮していき、残るのは、真一文字の軌跡。
まるで掘削機が通った痕の様に、大地は抉り飛ばされ、建物は壁が光に貫かれて傾いていた。
海は書いていが露出するほどに蒸発し、裂けた海が遠くまで伸びる。
そして海の裂け目がゆっくりと埋まっていく―――
「……死にたい、なんど思ったか」
――――ゴゴゴッ
音を立てて崩れ落ちる傾いた建物。
土煙噴き上がる紅い雨の下、少女は濡れたコートを風に靡かせ、刳り貫かれた地面を蹴った。
手には蒼い光を僅かに明滅させるガントレット。
そして、『炎』
左腕を完全に覆う程にたゆたう火は立ち上って、熱気で空気を捩じり、俯きがちに歩く少女の背中を押す。
そして尾を引き背中へと伸びる火の粉はまるで光る翼のように―――
「……だって、パパがいないんだもの。ママが死んじゃったんだもの」
――――ナラバ、死ヌ事モ出来ヨウ、人ナラバ。
「黙りなさいよぉ、このゲテモノぉ!」
ドォオオオンッ
怒声は衝撃波に代わって、大地を走り、周囲の建物を一瞬で薙ぎ払い、石畳の地面がめくれ上がった。
そして土埃が津波の如くアルテスの街全体に広がる。
そして街が消える。
全くの平らになった街の地平に、少女は目を紅くぎらつかせ、その右腕に宿した炎をかざす。
ゴォオオッ
炎が強く燃え上がる。
その掌の向こうに、黒い『闇』を捉える。
ぶよぶよと宙に漂い、虚空に根を張り広がる闇の根っこを睨みつけ、牙を剥く。
這い寄る暗闇のシュトゥルフに手を伸ばす―――
「あんたね……要らない古傷抉ってくれたのは……!」
――――人ノ愚カナルヨ……。
ブヨ……
肉塊を震わせ、空中に張り付きながら、紅い雨の下、肉塊は血飛沫を滴らせる。
そしてその表面が僅かに盛り上がる――――
――――死ネバ、楽ニナルモノゾ……?
「すっごい楽よ、でも楽して生きてやるほどね! 心根も人間性も出来てないのよ、中学生はぁ!
あたりまえじゃない! 誰かに流されて、誰かに言われるままに生きて、いらなくなったら自分で自分をぽいですか!?
ふざけるんじゃないわよぉ! たった数人の人間の意思に動かされ自分の命のありかたまで決められる!?
何もかもが気に入らないのよぉ! 自分が生きていいのは誰でもない自分自身の是認があればこそよ!」
――――自ラガ自ラヲ否定スル……人ハ愚カナルナ。
そう言いながら、盛り上がって出てくるのは人の顔。
それは、良く知る人間の顔だった――――
―――シュッと左手で握りしめるグリップ。
ピンッ
雨の中、硝煙が尾を引き舞い上がる空薬莢。
弾丸が一つ、かつての両親であった二人の人間の額にめり込み、パシャッと肉塊が紅い雨の中に飛び散った。
「―――空っぽよ。何もないわよ……パパが死んでママがいなくなって……死ねばいいと思った。
だけど、私を待っている人だっている、私を信じてくれる人がいる。
その願いが、期待が、希望が、空っぽの私に命をくれる、私を作っていく、信じてくれるから、私は自分を信じられる!
大好きって言葉と共に、私はあの世界に戻ると決めた、あんたらぶちのめして、世界を踏みのして!」
―――苦シミバカリヲ望ムカ。
「それが人間よぉ、ただの化け物が偉そうな口利くなぁ! 私はただの人間よぉ、何もないただの人間よぉ!
だけどこんな私にも未来がある、おじいちゃんとおばあちゃんがくれた未来が、暗闇の中でみつけたたった一つの未来がある!
未来へ行こう! 暗闇に手を伸ばし、紅き炎に手を伸ばす! その炎を次に繋ぎ、未来へと炎を引き継いでいく……
夜明けを見つめ、その草原に手を伸ばす、二人がくれた未来へ続いていく!」
――――炎……ソノ炎……!
「レナ・アトラフィア……速比売レナ! あんたらをぶちのめす!」
少女はそう叫んで、その両手に炎をかざす。
そして紅き雨降りしきる空に炎ををかざす。
そして『炎』は剣となる――――
「光を繋ぎ夜を抉り大地を斬り裂き、紅き天を貫け、光の下に夜明けを生みだす一太刀となれぇ!
天を貫く光の柱よぉおおおおお!」
――――炎は光となり少女を包む。
そして伸びる光は一本の柱となって、紅き雨を大地へと降り注ぐ分厚い雲へと伸びていく。
そして、雲が割れる―――
「レーヴァティイイイイン!」
―――霧散する紅い雲。
空へと伸びる光の衝撃に、まるで油に水滴を垂らしたかのように、分厚い雲が散り散りに破れた。
そして降り注ぐ太陽の光。
覗かせる蒼い空。
紅き雲を散らし、光が天高く伸び、太陽の光が灰の大地へと降り注ぐ。
そしてその光を注ぎ、水晶の葉が揺れる。
白き大樹、アナトリウスが静かに伸びる光の柱を包み込み、祝福するようにその枝葉を空全体広げる。
――――白キ水晶樹……マタシテモ……敵トナルカ……!
ザァアアアアア……
遠くに聞こえるのは、空高く広がる水晶の枝葉のさえずり。
眩き輝きの下、黒き肉塊が弱々しく蠢き、光に包まれながら少女は眼を見開き身体をよじった。
「でやぁあああああああああああ!」
――――振り下ろされる『剣』
全長約十三キロ。
自らが剣となり、光の柱『レーヴァティン』が黒き肉塊めがけて勢いよく振り下ろされていく。
押しつぶそうとする――――
――――王ヨ……イズレマタ……。
「出ていけぇえええええええ!」
――――会ウコトモ……アロウテ……。
ドォオオオオンッ
大地に走る衝撃。
廃虚と化した街全体を横断し、光の柱が土埃と共に大地へと横倒しになり、地響きが灰の大地を抉った。
黒い肉片は一片残らず光の溶けてなくなる。
全てが光に溶けていく。
そして残るのは、光の通り道のみ―――
「はぁ……はぁ……」
収縮していく光。
やがて両手に小さな『火』を握りしめ、少女はゆっくりと上体を起こすと、フラリと後ずさった。
ドサリ……
尻もちをつくままに背中が灰の大地に吸いつく。
そして仰向けになりながら、見上げた先に広がるのは、白き大樹の枝葉。
空全体を覆い、まるで何かから守るように枝葉を目一杯に広げるその水晶の枝を見つめ、少女は目を細めた。
光が降り注ぐ。
舞い落ちる葉を通して、少女の肌を照らす。
そして光を受けて舞い散る無数の水晶葉は、光る雪のように。
「はは……やったね……」
―――お疲れ様……。
聞こえるのは、微かな女性の声。
それは誰の声か分からず――――少女はにんまりと笑みを滲ませると、青空にグッと拳を突き出した。
そして青空へと広がる水晶の枝葉を見つめ、グッと親指を突き上げる。
満面の笑みを浮かべる―――
「……ざまぁ、みやがれ」
ドサリ……
力尽きて眠る少女を祝福するように、アナトリウスの水晶葉が舞い落ちる。
そして光を受けて光の雪が微笑む少女を包み込む―――
とりあえず、終わりません。キリがいい所でまた少し休止しますが終わりません。
ネタがうろ覚えに吸われそうな感じがしますが、私は元気です(*´ω`*)