幕間二:ゼノアトラの憂鬱/メフィスティアの祈り
これは自分のオナニー設定をつらつらと呟くパートです。
書く時間なさすぎぃ!
まぁ明日辺りで異界からの来訪者なる更なるオナニー設定が出てまいりますので。こうご期待。
どっちに?
どっちやろね。
「―――雨が紅いのぉ」
竹林が塀に沿って広がる薄暗い庭。
灯ろうの明かりが揺れて、うっすらと夜の闇に影が浮かび上がり、それは大きな狼のようだった。
雨にささめく竹林の向こうに広がるのは、黒い雲。
シトシト……
暗闇に聞こえるのは、雨の足音。
竹林の隙間で、獅子落としがカタカタと石を叩く音が静けさの中に聞こえ、荒い息遣いが掻き消える。
ヒクリと痙攣する尖った耳が二つ。
少し乾いた鼻先を舐める、長い舌。
縁側から砂利の敷き詰められた広い庭を見つめながら、そこには黒い狼が一体寝そべっていた。
首をもたげれば、その紅い瞳は空を見つめ、心配そうに零れる鼻息が白む。
今は二月。
ここは東京の片隅。
雑居ビルと路地裏の薄暗さとゴミ袋に囲まれた薄暗い街の片隅に、その屋敷はひっそりと佇んでいた。
街の中、誰からも目を向けられず、まるでこの世に見えぬかのように佇む。
そして黒い雲から零れる雨を見つめ、長い尻尾が畳を撫でる―――
「……婆様」
ため息をひとつ零し、静けさの中に響く声。
「―――どうしたゼノアトラよ?」
聞こえてくるのは、老婆の声。
ガラリ……
左右に開く襖。
首を僅かに向けて視線を返せば、後ろには囲炉裏を囲う6畳半の小さな居間があり、襖より人影が一つ現れた。
長い髪は後ろに結われ、色鮮やかな着物は、老婆のほっそりとした身体を覆い、うなじが覗かせる。
肌に浮かぶ皺は重ねた年齢の重さと美しさを映していて、その瞳は同じく紅い。
微笑む口元。
囲炉裏の前にしなだれ座りこむと、老婆は火かき棒を手に持ちつつ縁側に寝そべる巨大な黒い狼を横目に囁いた。
「坊が心配か?」
「……幸一は今何をしているのかと思ってな」
「ふふっ、既に1か月か……街は多くの人間がいきなりいなくなったと大騒ぎ。こりゃ長くかかるかもしれんな」
「――――雨が紅い」
「そうだな。連中がこの世界の近くに来ている何よりの証拠だ」
そう呟く顔は怒りに歪み、老婆よりもはるかに大きく、熊の如き体格の大狼は立ちあがって踵を返した。
そうして囲炉裏を挟んで老婆の前に座ると、俯く彼女の顔を睨みつける。
「……わかっているだろう」
「ああ。オルカ、か。奴め、異界からの訪問者を呼びよせるとは思わなんだ」
「そこまでして【火】を奪おうというのか……」
「いや……なら直接『王』を殺しにかかるものだろう。。……あの子を狙う理由がよくわからんのよ」
「―――幸一が狙われている事、知っていたな、メフィスティア……」
グルルルルゥ……
怒りに震える喉。
空気が熱を持ち、歪んでいく景色を横目に老婆は微笑みを絶やさず、火かき棒で炭を擦る。
パチリ……
炭が爆ぜて、舞い散る火の粉。
その神々しいまでの紅に、老婆は眩そうに目を細め、優しく火を前に微笑む。
そしてゆっくりと爆ぜた【火】の底を覗き込む―――
「―――大丈夫……坊はこれからもっと厳しい事に臨まねばならんのだ。この程度は死にはせんさ」
「……王の子として、ワシらあの子を護らねばならぬ」
「黄昏の王もそれをお望みだろう。だが分はわきまえねばな。ワシらはワシらのすべきことをなさねばならぬ」
「……」
「その為のアポクリファスであり、オルカだ……」
「裏切り者の何を信じる気だ……!」
「あの道化師がいずれ闇に落ちるところを、な」
「裏切り者を野放しにする気はない……」
「あの聞かん坊も同じことを言った……くくっ、まったくお前と言い、アポクリファスといい……」
そう言いながら、可笑しそうに肩を震わせて甲高い声を漏らすと、老婆はゆっくりと爆ぜた火から火かき棒を離した。
そして、顔を上げると、そこには少し照れくさそうに顔を背ける黒い大狼があり、老婆は囁く。
「―――あの子を信じてやろう。必ず依頼をこなし、戻ってくるさ」
「澱みの底からの訪問者は強い。……かつて混沌の支配者と対峙した時、妹君のミナ嬢は倒すのに三日かかったぞ」
「坊なら2日ぞ」
「日数の問題かっ。深き者の巡礼者の一団も来ている、ドグナも顔を出し始めているではないか!
オルカがそこまでするというのなら、ワシらが、いや王自らが」
「―――騒ぐな、ゼノアトラ……」
「だが……」
凛とした声でそう告げる老婆に、黒き大狼はしょんぼりとすると、やがて床に寝そべりこんだ。
そして床に顔を付けながら覗きこむ炎の赤。
その熱は鼻先を乾かし、狼はペロリと舌で鼻先を舐めながら、尖った耳をペタンと垂らす。
そして零れる大きなため息に、炎が揺らぎ、そしてまた天高く燃え上がる。
「……幸一……ワシはお前の下にいきたい」
「アトラシアが今赴いている。心配する事もなかろうて」
「ええええええええ!? アイツがいって何でワシ留守番なんですかぁ!?」
慌てておき上がる黒き大狼に、老婆は表情一つ変えず立ち上がると、雨のささめく縁側へと足を運んだ。
「あの子は優しいでな、お前の様に主の為なら世界を滅ぼすようなことはせんよ」
「いやいやいや、だからってアトラシアよりワシの方が適任だろうがぁ!」
「アトキオシアとアナトリウスに言わんか。人事はあいつら担当じゃ。お前はしっかり坊の帰りでも待っておけ」
「いやぁあああ! ワシも行くワシも行くのぉおおお!」
「うるさいバカたれが」
「げぼぉ!」
鉄拳と共に竹林の向こうへと吹っ飛んでいく黒い狼を横目に、老婆、メフィスティアは深いため息を空に投げかけた。
雲は黒く分厚く、星の一片も覗かせず、東京の空を覆う。
雨は静かに降り積もり、ささめく竹林の葉の音色を耳に響かせ、老婆は静かに胸に手を添え俯いた。
そして紅く滲む瞳を閉じ、祈るように闇に心を投げかける―――
―――坊……王の子よ……死ぬでないぞ……。
その祈りは、遠き地の果てへと伸びていく―――
まぁやっつけですわ。それでも見てくれる方は今後もお付き合いよろしく(*´ω`*)