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初めてのロ・ス・ト♡





「あそこかぁ……」

 ―――なんだろう。

 行く所行くところで、土煙が上がっているのはなぜなんだろう。

 僕が見下ろす先には、灰の砂漠の上を漂う浮遊都市アステア。

 彼女を追いかけやってきたものの、そこには半球状の岩塊の上部、町を囲った城壁から煙が吹きだしていた。

『―――オイ、人間ニ何ガ起キテイル……』

 僕が乗っている風のドラゴンは、翼を羽ばたかせ、アステアの上空を飛びながら少し不安げに呟く。

 ただ僕自身何が起きているのか分からず、風にコートを靡かせたまま苦笑いを浮かべるだけだった。

「……降りるよ」

『気ヲ付ケロヨ、人間。オ前ガ死ンデはマザーガ悲シム』

「アルト・ラナフェルにもよろしくね」

 僕はそう言って、町の上空を旋回する巨大な風のドラゴンの背中の上に立ち、眼下に灰の砂漠を見下ろした。

 高い。

 おそらく飛び降りたら怪我するかも――僕は小さく身震いをするままに柔らかい鱗を蹴りあげた。

 そして僕の身体は虚空へ投げ出される。

 スゥと重力に吸い込まれるままに、まっさかさまに落ちていく――

「行ってくる!」

『我ラガ聖獣ノ加護ヲ!』

 逆さに落ちていくままに頭上を旋回するドラゴンに手を振り、僕は眼下を見下ろす。

 ドンドンと地面が近づいてくる。

 鋭く風を切りながら街の中心、巨大な尖塔のような建物の天辺がすぐ眼の前へと近づいてくる。

 てっぺんの先には針のような細長い突起物がそびえ、徐々に近づいてくる。

 目の前へと迫る――――

「よっと」

 身体をよじるままに、町の中心、巨大な建物の頂に吸いつく爪先。

 バランスをとるように両腕を広げながら、僕はゆっくりと膝を折り、突起物の上に手足を置いた。

 バサリ……

 高い所にしがみつきながら、風に揺れる長いコート。

 そうしてしがみつくように大きな教会の頂の突起物に座りながら、僕は眼下にアステアの街並みを見下ろした。

 綺麗な街だ。

 おそらくイタリアの古い町並みを再現しているのだろうか。

 どこも赤と白のレンガで低い建物が、この大きな教会を中心に放射状に伸びている。

 近くに見えるのは小さな市場。

 建物の煙突からほんのり煙が立ち上り、人が行き交っているのが見える。

 逆に遠く、城壁近くの区画にはどんよりと、ごみごみとしたスラムがあって、町を囲っていた。

 いくつも建物が折り重なってできたドーナツ状の廃墟空間。

 僅かに敵意や、化け物の匂いが街の郊外から漂ってきていて、あの場所が血と戦いの滲む場所をダと教える。

「……」

 風の中、鼻をヒクつかせれば、冷たい風は僕に彼女の位置を教える。

 おそらく街の中心へと近づいているのだろう。

 多分、この真下にある教会へと―――

(ちょうどいいや……)

 彼女を追いかけ、僕は屋根の上に聳え立つ巨大な突起物から手を離すままに再びまっさかさまに落ちた。

 すぐに地面が近づいてくる。

 風を切りながら、平らなレンガ造りの道が迫ってくる―――






「ん?なんか地面が揺れる」

 と思って遠くを見つめれば、アステアの古い町並みの中心辺りから土煙が盛大に立ち上っていた。

 衝撃波に周囲の建物が一斉にたわむ。

 ううん、空間、景色がグニャリと歪み、程なくして景色の歪みが下に戻っていくのが見えた。

「……何?」

 ガラガラガラ……

 捩じれた空間の反動で、周囲のレンガが崩れ始める中、私は躊躇いがちに薄暗いレンガの道を歩いていく。

『さぁ、あなたと同じく無茶をする人じゃないですか?』

「うっさいぶっとばすぞ!」

『気が立ってますね、過剰な興奮状態は自身の防御を下げますが』

「殺される前に殺せばOKよ」

『なんというゴリラ……これは麻酔針が何本合っても足りない』

「はははっアイスティーのんでも眠らないわよ私はっ」(サーッ)

 とそんな言いあいをしていると、やがて土煙の上がった場所へと近づいてきていた。

 私は徐に手持ちの装備を確認する。

 炎を帯びた片手剣『フレアグリード』が二本。確認してみたけれどかなり攻撃が高いものらしく、売ってもかなり高価らしい。

『そりゃそうです。MODソケット付きの武器ですから』

「炎属性は?」

『MODです、穴は二つ。後で取り外して剣だけ売ります?』

「一本だけね」

 二の腕のには装飾品の『ミルドレシアの紋章』と呼ばれる腕輪が装備していて、どうやら一定確率で攻撃を無効化できるものらしい。

 うん、二、三回バカと戦ってこれだけのものが手に入った。

 今ならわかる。

 PK楽過ぎ。

 こりゃ流行るのがわかるわ―――ここまで簡単に武器防具が手に入ると冒険とかやる気もなくなるもの。

 でもま、私は武器を揃えることが問題じゃないけど。

 私はそんな事を考えながら、フレアグリードの一本を腰に収めると、二本目を肩に担ぎながら広間へと出た。

 そして土煙が起きた所に顔を出す―――

「……うわぁ……」

 ―――正に阿鼻叫喚。

 逃げ惑う人――PCだと思うけど、皆色んな方向へ巨大な教会前のバザーモールから出て行っていた。

 そして残ったのは無数の死体。

 皆首をバッサリと落とされて、至る所に散らばっていて――ああ、商店街の屋根にからも死体が垂れてるわ。

 首の断面から血は出ていなかった、グロ表現規制ってわけね。

 いやいやいや。

 首が落ちる点を規制しないといかんでしょ(いかんのか?)(ええんやで(ニッコリ)

 息をしているのは、二人だけ。

 私とソイツ。

 死体だらけのモールの真ん中、巨大な白い鎌を肩に担ぎ、背中を向けて晴れる土煙を含んだ風にコートを靡かせていた。

 背丈は私と同じくらいで、すらりと背筋を伸ばして、空を見上げていた。

 同じように見上げれば、空は透き通る程に蒼くて、その空を覆う水晶の巨大な大樹の枝葉は風に揺れていて。

 とても綺麗で―――

「……アナトリウス……綺麗でしょ」

 ガガガガガッ

 刃を地面に擦りつけゆっくりと振り下ろす鎌。

 鎌を引きずり、コートを翻すままに振り返れば、立ちつくす私を見つめ、少年のような男はニッコリと笑った。

 覗かせる真っ赤な瞳。

 整った笑顔。

 張り付いた表情は気持ち悪いくらいで――私は後ずさるままにフレアグリードをこの少年に構えた。

「―――殺すの?」

「君も同じぐらいに」

「今更躊躇いも無いわ―――でも二つ聞かせて」

「手短にね」

 そう言って笑ってるけど、殺気がすごい。

 びりびりと背筋が痺れて、鳥肌が立ってこいつを見ているだけで、身体が委縮し脚がすくみそうになる。

 これがいわゆるプレッシャーって奴?

 ピキーンって私もなるの?私にも時が見える?それともサボテンの花が咲いちゃう?

 いやいや違う――こいつ、今にも殺しに来る。

 死ぬかもしれない―――

「……どこから来たの?」

「―――君と同じ所」

「……ですよね」

「もう一つ」

「カウントダウンってわけ?……もう一つ、なぜここに来たの?」

「君を追いかけて」

 ――ドキン

 胸が破裂しそうになる。

 これって恋。

 こいつの張り付いたような笑顔見ているだけで、ガクガクってなって今にもちびりそうになってるけど、これって恋なの?

 春来た?春来たの?

 わが世の春来ちゃったぁあああ!?

「アホかぁあああ!どこの世界に鎌持って追いかけるストーカーがいるのよぉおお!それ殺人犯じゃないのぉおおお!」

『ま、マスターが壊れた……』

「もういいわ!戦いましょう、あんたもその気なんでしょ!」

 スゥと少年は双眸を細めて笑う。

「―――行くよ」

 そして石渡の地面に脚を踏みこめば、ブワッて土煙が舞いあがり、踵までついた長いコートがフワリと舞う。

 そして前のめりに少年の身体が傾く―――

『マスター!』

「戦闘モード!」

 ―――目で追えなかった。

 デタラメに振り薙いだ片手剣が吹き飛ばされ、目の前を一瞬で刃がかすめて言った。

 目で追うのがやっと―――わかった事は、こいつが一瞬で私の前までやってきてそのバカでかい鎌を横に振り払ったと言う事。

 少なくとも十メートルはあった。

 それは目で追えないほどの速さと、この大物をこれほどの速さを振りまわせる力。

 強い―――

「くっ!」

「……強いね」

「あんたほどじゃない……」

 慌てて後ずさりながら、ニコリと微笑むこのクソガキを睨みつけながら、私は胸元をグッと鷲掴み、腰に携えたもう一本を握る。

 ジワリと手の間から滲んでくる鮮血。

 掠めてもいないのに真空が服ごと抉って私の身体に傷をつける。

 風属性―――ううん、そんなちゃちなものじゃない。

 コイツ、力づくで風を起こした――

「……次は首を切る」

「やってみなさいよ……!」

「――使いなよ」

 ザクリ

 弾き飛ばされた炎の剣が空から降ってくるままに、石畳の地面に突き刺さる――

「ミスティックドライブ!」

「うん」

 真っ黒になっていく周囲の景色。

 目の前の少年の動きも鈍くなっていき、私は息を止めるままに剣を両手に握りしめ地面を蹴り上げようとした。

 ――――ダンッ

 深淵の闇に走る地響き。

 ユラリと舞う長いコート。

 土煙がゆっくりと舞い上がり、脚が地面にめり込む程に前かがみ踏み込む、力強い足取りがあった。

 振り上げた巨大な鎌の刃が私の身体を一瞬ですり抜けた。

 振り下ろした切っ先が地面に僅かにめり込み、私の肩にうっすらと斬痕のようなものが浮かび上がっていく。

 ズルリと片腕が暗闇の中へ滑り落ちていく。

 見開いた眼の向こうに、あの少年が目の前にいる。

 振り下ろした鎌を片手に握りしめ、俯きながら笑っている。

 深く沈む闇の中、紅い目を細めて微笑んでいる―――

『ま、マスター!』

「……うそ」

 周囲が色を帯びていく。

 時間が元に戻っていく。

 腕に痛みはなく、血は出ずただ滑らかに切れた肩の断面だけが、見開いた眼の中に覗かせた。

 コトリ……

 宙に吹き飛んだ私の腕が遠く、地面に転がり、私は後ずさるままに肩の断面を押さえながら周囲を見渡した。

 そこには少年は既にいなかった。

 振り返ればどこにいない。

 ただ周囲に転がる首なしの死体が土煙に巻かれて、ゴロゴロと転がっていく。

 静寂。

 風の音だけが聞こえてくる。

 何。

 何これ―――

 脚がすくむ。

 怖い。

 圧倒的な力の差に、私は涙一つ流せずその場に崩れ落ちると、肩の断面を見下ろしながら自分の右腕に嵌められた黒いガントレットを見下ろした。

 挙動不審になっていく視界。

 焦りにジワリと滲んだ視界には、紅いバーがガントレットの表面に映ってる。

 最初の半分ほどになっている―――

『マスター!早く逃げて―――』

 ―――ヒタリと冷たい金属の感触。

 汗ばんだ首を伝い、汗の滴が刃を伝う―――

「……え?」

 首は動かせず眼球だけ僅かに動かして、私は後ろを振り返える。

 ―――ニィと笑う口元。

 スゥと細めた、血のように紅い瞳。

 漂う砂の風に長いコートを靡かせ、そこには少年が巨大な鎌を掲げ、私の背後に立っていた。

 その口元が僅かに動いて、声が遠のく私の耳に届いた。

 囁いていた―――

「……ウィザードリィでさ、体力に関係なく即死する攻撃あるよね」

「……首狩り」

「忍者のワザだけどね―――死んでもらうよ」

「な、なんで!」

「―――君の身体はリミッターが掛けられている」

「は、はぁ!?」

「だから、僕の方で新しい身体を用意してあるから、それに魂を入れ返させてもらうよ」

「ちょっ!アンパンマンみたいにさらっと首だけ交換できないんですけど!」

 ―――嬉しそうに少年は嗤う。

「できるさ」

「え……?」

「だって、僕は崩天の呪術師――水樹幸一。出来ない事はないさ」

「どっかで……聞いた」

「だから―――死んでね」

 ―――風を切る鋭い音。

 一瞬で刃が私の首をすり抜けると共に、私の首が空を舞った。

 あれかねキルカメラって奴かね。

 首が宙を舞う中、私の意識はまだ頭の中に残っていて、眼球が動かせて、空中に漂いながら崩れ落ちる私の胴体が見えた。

 ――――君の魂を頂く……ソウルハッカー。

 ドサリと前のめりに地面に倒れる私の背中に腕を添えて、何かをささやいていた。

 そんな声すらも遠のいていき、

 意識がプツリと途絶える―――





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