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妹はペット嫌い

作者: 針狸
掲載日:2026/05/05

 私は妹が、大好きだ。

 それはもう目に入れても痛くないどころか、入れられるもんなら入れたいぐらい。それはもう微笑ましいものでなく、性的な目で見てしまうほどの好きなのである。


 ……とはいえ、このままではただの変態さんである。


 妹は好きだけど、気持ちが悪いとは思われたくない。でも私自身、自分が気持ち悪いな!という自覚はある。親からも若干心配されている。

 だからこその提案だった。



「ペットがほしい」



 両親の前で正座して、懇願した。

 どうしてもペットを飼いたいのです、と。


「構わないけど、どうしたの急に」

「愛情の傾きを分散しようと思って」

「あぁ……」


 少し冗談めかして答えたつもりがすごく納得されてしまった。


「ペットを溺愛することで頑張って普通のお姉ちゃんになれないかなって……」

「悲壮感漂ってるなぁ」

「まぁ梓里(しさと)にしてはいい心がけだわ」


 私の行き過ぎた愛情は、やはり治さなければいけないものらしい。親は非常に肯定的だ。


「俺達はいいけど、心頃(こころ)愛美(まなみ)にもちゃんと話をしておくんだぞ」

「えー」

「実は動物が苦手だったらどうするんだ」


 う、ううん。それは確かに。でもどうしよう。ペットを飼いたいといえば理由が必要になる。さすがに両親に伝えたままの言葉じゃまずいだろう。


「ちなみに飼うなら何にするの」

「犬かな」

「どうして?」

「だって心頃みたいで可愛いじゃん」


 あっ、なぜ二人揃って頭を抱える!?


「あんた本当に直す気あるの」

「あっ、あるからこうやって対策しようとしてるんでしょ!?」

「いや、まぁ、いい」


 なんでそんな呆れた顔をするかなぁ。だってせっかく飼うなら可愛いのがいいじゃない。

 どんなペットだって愛してあげる自信あるけどさ。




 部活が終わって妹たちが帰ってくる時間。テレビを見ながらそわそわする。

 ドアが開く音がしたから、とびっきりの笑顔で迎えた。


「おかえり!」

「ただいま、梓里」

「ただいま、姉さん」


 あぁ!とっても可愛い!

 別に妹萌えって趣味ではないみたいなんだけど、二人とも世界一可愛くみえる。きっと私は生まれつきそういう目を持っているんだわ。小さな頃から可愛くて大きくなっても可愛い!


「もう!その緩みきった顔やめてよ!」

「はーい」


 愛美に怒られて少し顔を引き締める。


「姉さん、今日はなにかいいことでもあったの?」

「心頃、やめなって。そいつがニヤニヤしてんのはいつものことでしょ」


 ニヤニヤって……お姉ちゃんは悲しいなぁ。まぁ愛美のその辛辣な口でさえ可愛いのだけど。


「……」


 ……うん、心頃も可愛いよ! でもその視線はなにかな!? お姉ちゃん色んな意味でドキドキしちゃうなあ!


「心頃?」

「あっ、えっと、なにか話してくれるのかなって」


 あ、私の言葉待ちでしたか!

 くそう超かわいい!!


「母さんと父さんにちょっとお願い事をしたの」

「珍しい」

「そう?」

「姉さんってあまりわがまま言わないから」


 そうかな。きょとんと首を傾げると、目を合わせていた心頃の首もこてんと傾いた。くぅ、可愛い。


「梓里はわがままっていうか変態だし」

「変態じゃないよ!シスコンだよ!」

「なお悪いわ!」


 勢いで近くにいた大人しい心頃をぎゅっと抱きしめる。あ、でもどうなんだろ。確かに妹好きだけど私きっと心頃と愛美じゃなかったら好きにならなかったと思うしなぁ。これは思うにシスコンとかじゃなくて運命。そう、デスティニー。


「それで姉さん、願い事って?」

「あ、そうそう。二人にも話さないとね」


 腕の中に大人しく収まってくれている心頃と、冷蔵庫を開けて牛乳を飲んでいる愛美に向けて口を開いた。


「犬を飼いたいんだけど、いいかな?」

「は?」


 先に反応したのは愛美だった。


「いいけど、そんなに犬好きだったっけ」

「うーん」


 そういうわけでは、ないけど。普通に可愛い、程度のものだし。でもこれからの私の生活のことを思うと大事だと思う。

 例えば、考えたくないけどこの可愛い心頃に彼氏ができたとしよう。


 耐えられない!!!


 それはもう死を選ぶほどの絶望が私を包むと思う。むしろ考えるだけでも今死ねる。

 だけどもしも。もしもそのときペットがいれば、もしくはそのとき既に愛する対象がペットに移っていたならきっと耐えられる、はず。耐えられなければ死、あるのみ。


「あの、姉さん」

「どうしたの、心頃」


 腕に収まっていた心頃がおずおずと口を開く。


「ごめんね、私はやめたほうがいいと思う」

「え」


 なんで!? どうして!? 私のためにも心頃たちのためにもいいんだよ!?

 そこはもちろんお姉ちゃん、取り乱さずに聞き出します。


「どうしてか聞いてもいい?」

「だって姉さん、犬を飼うのって大変なんだよ?ただでさえ朝起きるのしんどそうなのに朝の散歩とかできるの?」


 う。

 そこは、愛で……。

 っていうか朝起きるのがしんどいのばれてたのか。気合で起きて涼しい顔をしていたつもりだったのに。


「じゃあ散歩のいらない動物ならどうかな」

「そんな半端な気持ちじゃ許可できません!」

「えー、そんなぁ」


 うぅ、いつになく心頃が厳しい……。そんなに嫌なんだろうか。

 いや、優しい心頃のことだから私と飼われるかもしれないペットを心配してくれているんだろう。だからといって引き下がるわけにはいかない。心頃の首元に顔を埋めて考え込む。なんとかして論破しなきゃ。うーんうーん。


「……そんなにペットが欲しいの?」

「うん……必要なんだよねぇ」


 溜息を吐いて次の作戦を考える。くすぐったかったのか心頃がもぞもぞと動いた。それを呆れた目で見る愛美に助け舟を送る。

 ウインクをしたら吐きそうな顔をされた。


「大体、なんで突然ペットなわけ」

「だって愛美、わんちゃんって心頃に似てると思わない?」

「あぁいつも通りの理由で逆に安心した」


 だから心頃の代わりに溺愛できそうでしょ?というところまでは言わない。だめかなぁ、心頃も納得できるような気持ちを証明するにはどうしたら。


「だったら……」


 心頃がぽそりと呟いた。うまく聞き取れるよう少しだけ顔を離したけど、心頃の表情は伺えなかった。



「だったら、私がペットになる」



 だからかな、今少し耳がおかしい。深呼吸して耳をすませてもう一度。

 さん、はい。


「ごめんね心頃、お姉ちゃん少し聞き取れなかった」

「私が姉さんのペットになれば、別に犬なんて飼わなくてもいいでしょ?」

「ごめん心頃、私も耳悪くなった」

「愛美まで」


 心頃は少しだけ体をふるりと震わせた。可愛いけどなに考えてんのか全然わからん。お姉ちゃんは今少しだけ心頃の将来が心配になったよ。


「散歩もいらないし、むしろ世話いらずだよ」

「それじゃあ今まで通りでなにも意味ないような」

「じゃあ聞くけど、姉さんはペットを飼ってなにがしたいの?」


 む、何がしたいかって聞かれると、ううん。犬がいいって思ったのは心頃っぽいからだし。一緒にいてくれればいい、とは妹に言う台詞じゃないし。


「か、可愛がりたい、かな」

「いいよ」


 え、いや、いいよって言われても。困って愛美を見るといつも通りの呆れた顔。


「普段から心頃やあたしを可愛いって甘やかしてるくせにまだ足りないの?」

「え、もっと可愛がりたいよ?」

「この変態が」


 あ、ひどい。でも口をだすともっと言われそう。

 黙っていると愛美は心頃に標的を変えた。


「心頃もそれ以上はめんどいから放っときな。ペットのほうにその分いくならラッキーじゃん」

「それは、その」

「よし、犬飼おう。決定!」

「ま、愛美!」

「なによ、嫌なら嫌って言えば?」


 心頃と愛美は双子なのに本当に似てないなぁ。いや、姉妹の私もあんまり似てないんだけどね。


 愛美は活発で、よく怒る。生意気だけど本当は心頃のことを大事にしていて可愛い。

 心頃は大人しいけど意外と頑固。頭も良くて優しくていつも私や愛美を心配してくれる。


 実は私の上にもう一人いるけどそれは割愛。4人姉妹はすくすく育ち、それぞれの立ち位置を獲得した、と。


「い、嫌! ……だと思う」

「思うってなに」

「とにかく! 姉さんはペットが欲しいならまず私をペットにしてみてからにして!」

「ごめん心頃、お姉ちゃん少し混乱してる!」

「そりゃそうだわ」


 ううむ、どうしたんだろう。

 もしかして実はすごく犬嫌いだったんだろうか。


「……本当にダメ?」

「だ、だめ!」

「どうしても?」


 ふるふると首を振られてしまった。ちょっと駄々っ子みたいになった心頃も可愛いんだけど、このままではいけない。でもここで「じゃあ心頃がペットで!」なんて言えばしばらくは鉄格子の中だ。ううむ、寂しいのは嫌だけど心頃に無理はさせたくないな。


「わかった、諦めるね」

「ちぇっ」


 こら愛美、舌打ちしない。


「ごめんね、姉さんの数少ないお願い事なのに」

「そんなのは可愛い可愛い心頃に比べたら些細な問題だよ!」

「姉さん」


 心頃を痛くない程度にぎゅーっとすると安心したみたいに力を抜いてくれた。控えめに背中の服の裾を掴んでいる。

 ちょうかわいい。


「心頃は可愛いなぁあ!!」

「ね、姉さん、くすぐったいよ」


 いい匂いするし、可愛いし可愛いし可愛いし!

 両親にだめでした!というと意志が弱いと怒られた。だって私が可愛い妹たちに逆らえるわけないじゃない。




 性的な目、といってもそれは妹二人に適用されるものではない。もちろん愛美も可愛い。でもちょっとしたときにちゅーしたいとか特別なのは心頃一人だけだ。

 ……と、いいわけしたところで心頃も妹なのである。いくら1つしか年が違わないって言ったって犯罪。


「姉さん」

「うん?」


 ノックしてドアが開く。パジャマ姿の可愛い妹が覗いていた。いやもうこの姿が可愛さ犯罪級。


「あ、もう寝るところだった?」

「ううん、どうしたの心頃」


 パタンとドアを閉めて小さな部屋なのにそばまで寄ってきてくれるその可愛さ国宝級。抱きしめたい気持ちを手の震えに変えてがんばれ平常心!!


「姉さん、手が震えてるけど大丈夫?」

「すっごく平気。どうしたの?」

「え、あ、そう?」


 よし、バレてない。今日の私、とってもクール。


「えっと、ね、姉さん」

「はい?」

「あの、今日はごめんね」


 あぁ、気にしてくれていたのかぁ。別に気にしなくていいのに。あんなのは目の前の心頃の悲しみには比べ物にならない。

 ……とはいえ、あんなに犬嫌いだったとは。覚えとこ。


「その、姉さん、私で良ければだけど、ね」

「うん?」


 もじもじする心頃は可愛いなぁ。言いづらそうにしている姿が可愛くて私はのんびりと次の言葉を待った。今の私はまるで凪のようだよ。



「私のこと、ペットとして扱ってくれていいよ?」



 凪、のアトに嵐。てっきり私の部屋に癒しが来たんだと思っていたけどこれ爆弾だわ。非常に可愛いけどお姉ちゃんちょっと理性足りない。


「こ、心頃は心頃で大事なのでそのままで大丈夫よ?」

「それは嬉しいけど、姉さんがペットで埋めたいと思った隙間はどうするの?」


 う、ううん。ペットがだめならどうしようねぇ。前に他人を好きになればと努力したこともあるけどそれもだめだったし。結局、心頃を見つめてしまう自分に当時はがっかりしたものです。


「ねぇ、姉さん」


 10cmぐらいの距離で小首をかしげる。かぁわぁいぃいぃ。

 ちょっと隙間を詰めればキスできちゃう距離に私の心臓はお祭り騒ぎだ。


「姉さん、犬を飼ったらなにがしたかったの?」

「んん」

「ぜんぶ、私にしていいよ」


 ぺ、ペットにしたかったこと!?

 ぜんぶってどこまで!?

 あ、いや、そんな変なことしちゃいけない! あくまでペットにしたかったことであって心頃にしたいことをしたら本当に獣にまで手を出す変態だと思われてしまう。


「姉さんに足りないこと、私がぜんぶ頑張るから、ねぇ」


 ねぇって言われても! えーっと、あ、そうだ! 撫でよう! それがいい!


「じゃあ、失礼します」

「どうぞ」


 そっと頭に手を伸ばしてさらさらの髪を撫でた。目を細めて少し頬を引き締めるの可愛い。うちの妹は天使だったようだ。


「なでなでしたかったの?」

「うーん、触れ合いたかったというか」


 ペットがいたら、うん。

 目の前にいるのは心頃じゃない、わんちゃんだと思おう。


「よしよし、おいでー」


 ベッドに腰掛けて膝のうえに乗せる。手を引いたせいで真正面で向き合う形になっちゃったけど気にするな! 相手は犬だ! 犬なんだ!


「わん」


 心頃が私を萌え殺す気だわ。満面の笑みでわんって……! わんって……!

 首元をくすぐると自分から擦り寄ってくる。これで墜ちないお姉ちゃんはいないよね。いないよね?


「姉さん」

「なに?」

「これでいいの?このままじゃれてたら満足する?」

「え、えーっと、う、うん」


 満足というかこのままじゃれてたら間違いなくお姉ちゃんは後戻りできない感じなんですけど。その辺心頃さんとしてはどうなんですか。あなたはもうちょっと人を疑うべきだと、お姉ちゃんは思うよ。目を細めて心頃が少し笑う。



「ペット、いらないよね?」



 こ、心頃さん?

 もしやこれは謝りにきたのではなく、念押しにきた? 少し落ち着いてきた気持ちが今の一言で今度は台風のように。


「や、えー、あ、やっぱりまだ足りないかな」

「満足してないなら、次は何をしたらいいの?」

「いや、心頃、心頃さん?」

「なんでもするよ」


 しまった、逃げようにも膝に乗せちゃったし動けない。かといえこんな状態で助けを呼べば鉄格子に入れられるのは私!

 いやその前に愛美に撲殺される!!


 そ、そうだ犬にあって心頃にないものを言えば!


 あぁあ心頃が完璧すぎて何も思いつかない! ダメだこのままじゃ本当に心頃が離れていったときダメになる! 想像以上にペット大事かもしれない。


「心頃、お姉ちゃんはね、やっぱりどうしてもペットが欲しくなりました」

「え、逆効果だった?私じゃ、可愛くなかった?」

「そんなことは一切ない」

「……食い気味に即答ありがとう」

「でもほら、心頃だっていつもこんなことされちゃ迷惑でしょ?」


 こんなこと、といいつつほっぺたをさらさら撫でる。本当はちゅーだってしたいぐらい可愛いけど我慢我慢。きっと優しい心頃だって毎度になれば面倒に……。


「別にいいよ?」


 ケロリとした顔で言わないでよ。よくない、よくないよ。もう一度考え直してごらん。


「え? あ、いや、ほら、毎晩だよ? ストレス溜まるよ?」

「溜まらないよ。毎晩、私が相手をしたらいいんだよね?」


 か、軽く言うねぇ。


「毎晩寝る前に姉さんの部屋に来たらいいの?」

「ね、寝る前って言ってもあれだよ、2時間ぐらい可愛がるかもだよ!」

「それはちょっと厳しそうだね」


 よしっ!

 ナイス私! ナイス言い訳!


「勉強したり他のこともしないといけないし、なにより姉さんには早く寝てもらわないといけないし」

「え、私?」

「寝るのが遅くなったら次の日の朝つらいよ?」


 う……。意外と現実的な答えですね。というか私の問題っていうことは……。


「もし犬を飼ってもそれはダメだよ」

「ですよねぇ」

「それにこんな夜中じゃ、動物には可哀想じゃないかな」


 まったくもって、私もそう思います。触れる手が肩をゆっくり擦る。落ち着いて、と諭すみたいに。



「まだ、諦めつかないかなぁ」



 手付きも口調も穏やかなのに、なんでしょうかこの威圧感。

 お姉ちゃんはこんな心頃は見たことありません。


「そんなに犬がいい?」

「う、ううん」

「心頃じゃ、ダメ?」


 ひぃ。なんでそんな追い詰められてるみたいな顔してるの!?

 私なんか悪いことした!?

 そんなに犬が嫌いだったの!?


「わ、わかった、わかったから!」


 これ以上は理性の限界!

 まだ見つめてくる心頃を膝から隣に下ろして溜息を吐いた。


「犬は諦めるよ」

「本当?」

「うん、心頃がそんなに犬嫌いだとは知らなかったし、無理もさせたくないし」

「別にそういうわけじゃないけど」


 いや、心頃がここまで思いつめてるんだもん。お姉ちゃんがワガママ言っちゃいけないよね。


 * * *


 意思が弱い私。

 ……を、見越したのか、我が家には可愛い子猫がやってきた。父と母が友人からもらってきたという子猫はそれはもう可愛くて、我が家のトップアイドルとなったのである。

 ……私を除いて。


「名前、どうしようねぇ」


 嬉しそうに、でも刺激しないように子猫を眺める天使二人。私だって子猫は可愛いし一緒に眺めたいけれど、できないのには訳がある。

 顔が怖いのか、近寄ると猫が怯えてしまう。

 それで金輪際この子には近づくなと愛美から怒られたのだ。私の顔ってそんなに怖かったかなぁ。


「ねぇ、姉さんだったらなんて名前をつける?」

「愛美2号」

「猫投げつけるわよ」


 引っかかれるのは嫌! っていうより猫が可哀想!! だって犬だと心頃かなって思うけど猫なら愛美かなぁって。


「じゃあ梓里3号」


 え、私の名前? それなんか虐待を受けそうでかわいそ……待って3号ってなに!?


「2号が居たの!?」

「よろしくねー、3号」

「3号眠そうだね」

「待って2号の正体がすごく気になるんですけど」


 果たして梓里2号とは何者なのか……。

 問題は私のために飼わせていただくことになったペットなのに私が関係なくなっていることかな。しかも妹たちが夢中になっているからとても寂しい。私の名前がついてからも二人は家に帰るたびに3号を呼んでは眺めていた。前はリビングで他愛ない会話があったのに最近はそれすらない。

 すでに家にいない長女に電話で相談するも帰ってくる返事は冷たいものだ。


『いいじゃん、この際本格的に妹離れしたら?』


 そんな簡単にできたら苦労してない。というかそのためのペットだったのに!!


「ただいまぁ」

「おかえりー」

「おかえり」


 今日は二人とも先に帰ってきていたみたい。リビングに入ると揃ってやっぱり猫を眺めている。ちょうどおもちゃで遊んでいるようでこちらには見向きもしない。

 羨ましいぞ3号。

 近寄るとまた怒られるから少し離れたソファに体を沈める。もうちょっと部室で時間潰せばよかったかなぁ。目を瞑るとうとうとしてきた。あー、晩御飯まだ食べてないのに、怒られるかも。いや、みんな3号に夢中で気づかないな。

 それなら、いっか。

 遠くなる意識の中、温かいものが擦り寄ってきた気がして無意識に潰さないように抱きしめた。あー、あったかー……。


「こ、こらっ」


 突然の怒鳴り声に目を開けた。そこには私を覗き込んでいる可愛い妹たちの顔があった。

 え、なにこれ、天国?

 よく見れば視線は合わず、二人が見ていたのは私の腕の中みたいだ。腕の中といえばそういえば何かが潜り込んできていたような。目線を下げると可愛いもこもこが腕の中で擦り寄っている。


「にぁ」

「こら、3号!」


 あ、いた、いたた、服に爪が引っかかってうぬぬ。これ結構お気に入りなのに。


「もう、普段は姉さんに寄り付かないくせに!」

「てっきり1号のことは嫌いなんだと思っていたのに」


 愛美、1号って私のことか?

 二人が猫じゃらしで誘おうと頑張っているけど胸元から離れない。私の鎖骨付近をペロリと一舐めするとどうやら眠いらしく小さく丸まってしまった。


「だ、だからペットは嫌だって言ってたのにぃ」


 え、なんで?

 愛美は呆れた声で心頃を小突いた。


「何言ってんの。心頃だって3号可愛がってたでしょ」

「そりゃ、3号は可愛いけど……」

「そういえば犬嫌いなのかと思っていたんだけど猫でも最初は嫌がってたわね」

「動物が嫌いってわけじゃないってば」


 頭の上で二人の話が舞う。いろいろ聞きたいことはあったけれど腕の中の温かさが睡魔を呼んでくる。そういえば私って眠かったんだっけ。ふわふわと目を瞑ると、意識が遠のいてきた。あぁ、暖かい。




 やってしまった。

 夕方にちょっと寝てしまったから目が冴えている。布団に潜り込んでもごろごろと寝返りをうつだけで眠れやしない。そうしているうちに喉が乾いてきてリビングで水を持って戻る。

 途中、静かに眠っている子猫を見て胸が暖かくなった。あの調子なら溺愛できるかもしれない。そうすればしゃがんで覗き込む妹の見えそうで見えない谷間にドキドキする必要はなくなる。だ、だって目の前で猫じゃらしを揺らす心頃の谷間があったんだもん。私は悪くない、悪くないはず。


 カタン。


 廊下に光が漏れている。心頃の部屋からだ。そっと覗くと勉強をしていたみたいで、一段落したのかペンを置いた音が響いたようだ。

 ノックして戸をしっかり開けると笑いかけてくれた。


「姉さん、まだ起きていたの?」


 それはこっちの台詞。でも良かった。起きた後、ご飯中もずーっと心頃は機嫌が悪かったから笑ったのを見て安心した。


「心頃こそ、そろそろ寝たら?」

「うん、もう終わろうとしていたところ」


 ペットボトルの水を差し出すと、嬉しそうに口を付けた。ううん、そんなところにすらドキドキする。柔らかそうな唇だなぁっていうのは妹に対して考えることじゃない! 頑張れ私の理性!


「ありがとう」

「ん、それじゃあ……」

「待って、姉さん」


 呼び止められて振り返る。手には汗をかいていた。


「眠れないんでしょ、ちょっとお話していかない?」


 心頃が改まって私と話したいというのは珍しいことじゃない。大体が勉強のことだとか学校であったことだとか小さな話で終わってしまうけど。マメにコミュニケーションをとろうとするこの妹は本当にできた子だ。

 お言葉に甘えてベッドに座ると、隣にぴったり座ってきた。いつも拳一個分ぐらいの距離があるのに、本当にぴったりと。


「こ、心頃?」

「3号、可愛いね」

「え、あぁ、そうだね」


 別にふざけているわけじゃなく、真面目な顔をしている。なんだろ、寂しいのかな。普段はどんなに突然でも会話がすらすらできるのに、何も思い浮かばない。何か話さないといけない焦燥感にかられてそわそわする。


「ねぇ、もし良かったら今日一緒に寝ない?」

「え」

「いいでしょ、姉さん」


 姉という言葉が強調されてビクリとする。そ、そうだね、お姉ちゃんなら断る必要はないんだけど。いや、だけどだけど。


 私より少し小ぶりだけど成長した胸。

 良い匂いのする首筋。

 白くて柔らかそうな肌。


 ……心頃は、好きな男の子ができたらすぐ食われるんじゃないだろうか。いやいや許しません。そりゃ心頃はずっと私のものだなんて図々しくて言えないけど、それでもまだ許せない。これは迷惑な姉心なのか、それとも迷惑な恋心なのか。


「ダメ?」


 何も返せずにいると、ゼロだった距離がマイナスになった。少し身体が重なるくらい近くに、顔は10cmほどの距離。目には見たことのない"色"が見える。

 こんな顔する子だったっけ。

 この間から新しい顔を見ることができて嬉しい、でも他に向けていたものなのかと思うと苦しい。



「ペットはいいのに、妹はダメなの?」



 ……おや?

 なんだか心頃の様子が……。


「ねぇ、姉さん」


 口調は穏やかだけど目が笑っていない。


「心頃、別にダメとは……」

「じゃあいいよね」


 心頃が私の言葉を遮ることは珍しい。重なった部分に重みを感じる。くっついた心頃の身体が、冷たい。触れる事に躊躇ってそのままベッドに倒される。被さった身体の凹凸に合わせてピッタリくっつく。心地良い重みのはずなのに、ダメだって脳が警鐘を鳴らしてくる。

 心臓の音がバレてしまう。


「こ、このまま寝ると風邪引くし、身体が痛くなっちゃうよ」

「一緒に寝るって約束してくれたらちゃんと退く」


 ペットの話をしてから、駄々っ子みたいな心頃が少し多く見えるようになった。3号を可愛がっていたから猫はいいのかと安心していたのに。そんなにペットが嫌いだなんて昔なにかあったかなぁと記憶を探るけれど何も出てこない。ここまで必死に嫌がる心頃を見ていると、幼い頃みたいで少し穏やかな気持ちになった。

 そっと背中を撫でると、鎖骨に濡れた感触がしてゾクリと鳥肌がたった。


「あ、あれ?心頃?」

「3号がいいなら、私もいいでしょ」


 ……もしや。

 本当にもしかして、だけど。



「3号と張り合ってる?」



 目線が合うと、心頃の目はいつもの可愛い光を取り戻していた。恥ずかしそうに私の胸元に顔を埋めている。かっわいい。


「……だって、姉さんってば3号のことすっごく甘やかす気だったんでしょ」


 まぁ心頃たちの代わりになってもらうつもりだったからそうだけど。でも今の状態だとあんまり溺愛できそうにないなぁ。ぎゅってした瞬間に引っかかれそう。そもそもまだ子猫だから抱きついたりできないし。心頃みたいに溺愛できるようになるまでどれぐらいかかるかなぁ。


「想像したら、ね」

「うん?」


 言いにくそうに、口をもにょもにょと閉じた。急かすことなくじっと見つめると少しずつ唇が綻んでくる。


「さ、寂しいなぁって、思ったの」


 寂しい?

 心頃は大人しくて、嫌がっていないだけだと思っていた。それなのに今寂しいって言った?


「ね、姉さんが3号に構って私の方を見なくなったらって……」


 舞い上がりそうな気持ちに慌ててブレーキをかけた。姉妹だから、だね。間違ってもそういう意味じゃなくて、そう、姉妹だから。普段は姉と呼ばれるだけで嬉しくなるけど、今は少しだけ厄介だなぁ。

 でも3号と張り合いたいと思われるほどお姉ちゃんできてたんだね私、よかった私。


「心頃を構わないなんて、私が寂しくて耐えられないよ」


 頭を撫でると、上目遣いにはにかんだ顔が見えた。あぁ、私、お姉ちゃんで、良かった。


「それに、3号をどんなに溺愛したって一番は心頃だから」

「本当?」

「ほんとほんと」

「じゃあ、一緒に寝てくれる?」

「んー、そこに帰ってくるかー」


 ここはありがとう私も姉さんが一番だよって言ってくれたらお姉ちゃん綺麗に終わったと思うなー。意地でも一緒に寝る気だな?

 お姉ちゃんは心頃の信頼が痛い。


「一番大事なのは心頃たちだよ……と」

「それさっきも聞いたよ?構ってくれないの?」

「えー、とー」


 心頃は私を試してるの?

 なにこれ踏み絵?


「一番大事なのは妹で、構うのはペットかぁ……」


 ここ、心頃さん?


「ねぇ、前にペットにしたいって言ったこと覚えてる?」


 したいこと?

 そういえば3号を飼う前に聞かれたなぁ。でも誤魔化すのに必死で内容なんて覚えていない。大体可愛がりたいとかそういうものだったと思うけど……。



「決めた、私毎日2時間だけ姉さんのペットになる」



 決めないでそんなこと。じゃなくて、突然何言ってるの心頃は。


「毎晩……寝る前に2時間」

「はい?」


 聞いた事あるフレーズに、身体がゆっくり冷えていく。


「きっちり甘やかしてもらうからね」


 倒される身体。耳をくすぐる口先。身体を滑る手の感触。え、あれ、ちょっと待って。


「姉さんが悪いんだよ。私の気持ちも知らないで、普段から可愛い可愛いって甘やかすから」


 パーカーが落ちてキャミソール一枚になった心頃の薄い身体。膝乗りになった心頃が緩慢な仕草で私の首元をなぞる。


「みんなの前で抱きついたり好きって言ったりして、勘違いしたってしょうがないよね」


 なぞった手がプツリと第一ボタンを外した。背筋がふるりと震えて、顔が青くなった気がした。

 これは私の妹だろうか。


「姉さんは危なっかしいし、私がちゃんとつかまえていなくちゃ」


 そう告げる心頃の目は暗くて甘い色をしている。



「ねぇ、姉さん?」



 抵抗はおろか、動くことすらさせてくれない。頷こうにも首を押さえられてるから生唾すら飲み込めない。これは姉としての愛され方として間違ってるのでは?

 混乱して薄くなる意識。


 この姉にして、この妹あり。


 そんなオチはいらなかったかな。いやでも両思いだやったね、というにはなんとも複雑。でもこれじゃあ可愛がるっていうより可愛がられるの間違い……じゃ……。

 最後に見えた心頃の嬉しそうな顔に、幸せな気持ちになった私はもう戻れない気がした。


Pixivにて2014年7月30日に公開した物です。

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