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故郷の島

初の投稿となります。拙い文ですがどうぞよろしくお願いします!

 西暦一八七六年、私は欧州への留学を終え、四年ぶりに船に乗り生まれ育った島へ帰ってきた。


 汽船の黒い煙も徐々に弱くなり、港に着いた。海の水は透明で海底の珊瑚礁が色とりどりに見える。始めてきたのだろう白人の旅客はその美しさに感嘆していた。米国西海岸からの船旅を終えて港へ降り立つと、島を発った時とは比べ物にならない賑わいを見せていた。

 

 長大な埠頭には蒸気船が十隻程留まっており、巨大な煉瓦造りの倉庫が並んでいる。陸に上がれば白人のパブやらが軒を連ねている。道は石畳でガス灯も整備されている。欧州から帰ってきたのにまた欧州があるようで驚いたが、私は故郷の島の栄が喜ばしかった。

 

 このニセアという港街を白人はポールジェネルーと呼ぶ。今は私たち島民より白人人口がずっと多いそうだ。


 ニセアをもう少し散策していきたかったが私の家は同じ島ながらここからまた舟を乗り継がなくては辿り着けない。私は街は一瞥のまま次の舟に乗り換えた。






 左手に島を望みながら舟で島をほぼ半周、六百キロメートルぐるっと回ると私の家がある。同じ島といっても、ハワイよりも大きい島だ。

 

 私の街もニセアほどではないが前とは姿を変えていた。私はハワイの北西およそ三千キロメートルに位置するこの島の北側を治める家、アンゲイル家に生まれた。アンゲイルは島の北を領地とする貴族だ。

 

 私の家は宮殿というに差支えないくらい大きく、街の丘の上にある。


 家の窓から一望しても明らかに建物が増えている。家の土地にもいくつも知らない宮殿が立っていた。家の使いに、あれは何かと問うたら、伯父が勝手に白人に売ったという。


 家督を男が継ぐ我が家では、伯父が家督を持ち、誰も逆らえない。伯父は不能でいくら女を替えても一向に子供を持つことは叶わなかった。一時期はそれで精神病になったりもしたが、今では酒と女に溺れ、白人から東洋人の奴隷を買うために港に面する土地を売ってしまったという。


 私が欧州に行く前にも黄金の飾り物だとか真珠の首飾りだとかを売っていたことはあったが、いよいよ土地も売り始めたそうだ。子供がいないから資産の浪費に抵抗がないのだ。


 昔から早く死んでさっさと私に家督を明け渡してくれとは思っていたが、本当に腹が立ってきた。まあひとまず、長旅から帰ったわけであるから、遠くない将来、私が治めることとなる街を見下ろしつつ、息をついた。






 それからの数日間、特に何をするわけでも漫然と過ごしていた。


 やはり故郷の食事はおいしい。私の家では二人の使用人を雇っていて彼女らが家事をやっている。生魚は思えば四年間食べられなかった。島のベリーもよい。


 家族で食事をとっていると数人の白人が隣にある伯父の家へ入っていった。どうしたんだろう、と言ったら、父親はどうせまた土地を売るんだろう、と呑気に言っている。この親父も自分が死ぬまで遊ぶ金くらいは持っているから伯父の浪費について何も思っていないのだ。


 私が憤怒して伯父の家に止めに行くといっても、厄介ごとを起こすなと止められた。私と伯父はあまり馬がよくなく留学前はよく喧嘩していたし、帰ってきてからはまだ一回も顔を合わせていない。面倒そうに私を引き留めようとする父親を振りほどいて家を出た。親父は追ってはこなかった。


 アンゲイルが守ってきた資産を伯父の一時の快楽でなくされてたまるか。


 家の前に立った。伯父の家の扉をノックした。反応はなかった。私が帰ってきたことを知って、面倒だと思って居留守を使っているのか。

 

 いよいよ頭にきた。扉を思い切り開けて中に入った。


 一階は見て回ったが誰もいない。二階に上がるとベッドには裸の褐色の肌の東洋人の女が胸から血を流して倒れていた。驚いた。豚や山羊の解体は見たことがあっても、人が血を流して倒れているのを見るのは初めてだ。白のシーツは真っ赤になっている。完全に死んでいる。確かに、煽情的な艶體を持つ女だ。一瞬、うらやましいなと思ったが、こいつを買うためにいくらの土地を売ったんだ、そう思うと、怒りがわいてきた。


 だが冷静になった、これはさっき入っていった白人集団がやったに違いない。まだこの家の中にいるかもしれない。私はベッドの枕元にある銅でできた槍を手に取った。飾りだがないよりはマシだろう。


 隣の部屋に行くとそこでは伯父が死んでいた。背中を刺されている。ようやく、浪費家が死んだ、と瞬時に思った。だが喜んで浮かれるな、まだそばに殺人鬼がいるはずだ、そう思って二階も隅々まで散策したが見つからなかった。


 見つかったのは五人の伯父のお抱えの女だけだった。ベランダに逃げて息を殺していたらしい。


 だが、それにしても大事件だ。我がアンゲイルが襲われたのだ。家の中で出くわしたら殺してやろうと思っていたが、いなかった。


 すぐに家に報告に行くべく、二階のベランダから飛び降りて、隣の家へ走った。急いで家の扉を開けると、すぐにその惨状が目に見えた。食事をとっていた部屋でみなが倒れている。私が伯父の家に行っているあいだにすれ違いになったのだ。


 家族の蘇生を試みたがダメだった。銃で撃ち殺されている者もいた。伯父と東洋人、そして私の家の家族七人が一瞬の間に殺されてしまった。悲しかったし、悔しかった。


 母は私に愛を注いで献身的に世話をしてくれた。留学へ行った時も母が恋しくてやっと会えたと思えばこれである。


 その場で一時間は呆然とした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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