悪役令嬢なので、と婚約を断ったら…はい?なんて?
ギャグです。ゲームキャラも、良い人とか大体腹黒だよね、って言う。そう思わなかった悪役令嬢のお話です。
悪役令嬢の皆様、自分が悪役令嬢だと自覚した時はいつでしたか?
私、アリーネは幼馴染であり、攻略対象のヒューイット様と婚約の話が出た場でした。
こういう事を思い出す場合、きっかけがあったりとか、反動などが起こったりする事が多いと思うのですが、私はどちらかと言うと淡白な方だったと思います。
それは私が悪役令嬢としてとても中途半端な感じ、そう、言わば中ボス?くらいな存在で。
断罪とかも無く、婚約破棄されて、私が修道院に行く事になる、その程度のもので。
でもならいっそ婚約しない方が双方の為に良くない?と思ってしまうのが悪役令嬢になった理由の一つなのかもしれない。
前世の事は細かくは思い出せないけれど、なんか現実で恋をする機会が無く、結果ハマったのがこのゲームだった気がする。
正直ヒューイット様は顔は一番好みなのだが、性格が良い人過ぎるのだ。一緒に居たら居た堪れなくなる、そんな心清らかな人だ。まず悪役令嬢とは合わないだろう。そう思っていた。
二人が幼馴染なんて設定は見た記憶が無い。そもそも仲の悪い婚約者同士としてしか出てこない程二人は疎遠だった筈だ。
なんで幼馴染になったんだっけ?
確か、あれはどっかのお茶会でお茶を溢して泣いていた女の子が居て。
私が髪飾りでそれを隠してあげて、泣いたら可愛い顔が台無しよ、可愛い女の子は笑顔で居て欲しいわとか言っていたら周りの男子が大爆笑して。
何処の王子様気取りだよ!とか言われて、その時は思い出さなかったけれど、私前世からそんなのばっかりで、ちょっと、いや、大分がっかりしていたのよね。所詮子供だわ、みたいな。
でもそんな中でヒューイット様だけが私に笑いかけてくれた。君も可愛い女の子だから、髪飾りの代わりにこれをどうぞって首に巻いていた布を私の髪に結んでくれたんだったわ。
うん、心清らかな良い人だ。
悪役令嬢には似合わない!!
そんな訳でこの婚約の場で前世を思い出した私はヒューイット様にそれを告げたのだった。
「私、悪役令嬢ですのでこの婚約は成立させられません」
「悪役令嬢って、最近流行ってるあの話の?」
そう、私の他に転生者がきっと居るのだ。この世界に無いはずの悪役令嬢と言う存在が民衆に周知されているのだから!どなたかしら?はてさて…って違う違うそうじゃない。
「そうなんですの。私、その悪役令嬢でして。だとすると、ヒューイット様のような心清らかな方とは何だかその、違うなぁと申しますか」
我ながらもっと上手い言葉の運びは無かったのか?と思う。実際ヒューイット様、ぽかーんとなさっているし。そうよね、いきなり幼馴染が悪役令嬢とか言い出したらぽかーんともなるわよね。
「私はそんな理由でアリーネにふられるの?」
んん!?なんか斜め上の方向に話が飛んでったな??
「え、そもそも、まだそう言う間柄じゃないですよね?」
まだ婚約前だもんね?ってヒィッ!笑顔なのに無茶苦茶怖い!!なんか冷たい空気流れてきてない?今は春、そんな訳ない、ないはずなのにやっぱりゾクゾクするー!
「なんだっけ。悪役令嬢だから、心清らかな私とはなんか違う、だっけ?」
「え、ええ。ヒューイット様にはいずれ良い人が現れますので」
「あぁ、そう言うのいいや。私も姉がそう言うの好きで大分読まされたんだ。ざまぁでしょ?そう言うのはいいんだ。まだ起きても居ない事でどうこう揉めてもしょうがないし。問題はね…」
あれ?にっこり笑っていたはずのヒューイット様が、何やら冷たい眼差しで真っ直ぐ伸ばした自分の手を見ている。私を見ていないのにこちらがゾッとするような怒りを感じる。怖い。めちゃくちゃ怖い。
「間違えたなぁ。私は君には良い男が似合うと思ってそう振る舞って来たつもりだったんだけど、そっかぁ、悪役令嬢がね。それなら」
ヒューイット様が私を見た。思わず背筋をピンと伸ばして、真っ直ぐヒューイット様を見返す。本当は今すぐ目を逸らしたい。でも私の本能が告げるのだ。今、逸らしたら、なんかヤバい地雷踏むぞ、と。
「良い男でいるのはもう辞めた。これからは君に似合う悪い男になるよ、アリーネ」
あ、終わった。と思った時にはもうどうしようも無くなってるのが世の常人の常。平たく言えばお約束と言うやつですよね。
結果的にヒューイット様が変わったのか、と聞かれたらあまり変わらなかった。
ただ、異様な程の執着心を私に傾け、私に声をかけてくる男性は氷の微笑で遠ざけ、好意を寄せられでもしたら、目一杯、デロデロになる程に甘やかされた。アリーネには私しか居ないんだよ、アリーネを世界で一番愛しているのは私だからね、とそれはもう甘い声で、私を膝に乗せて抱えて囁き続けるのだ。
正直に言うと、ストレスで毛が抜けそう。もうやめて、私のライフは日々カリカリと削られ続けているの。
一回ブチ切れして「ヒューイット様なんて嫌いです!」って言っちゃったら、あの綺麗な顔が無表情のままはらはらと涙を延々と溢し続けて、あ、もうこれは無理だーと思ったよね。
泣くなよ!泣いた顔も好みなんて卑怯が過ぎるのよ!!
そんな訳で迎えました、ヒロイン登場の日でございます。
「ヒューイット様!私の事覚えていらっしゃいますか?」
「いや、全く」
私以外はどの女も似たような造形に見えるとか恐ろしい病を抱えた人だからなぁ。
「ヒューイット様、あれです、おそらく」
「あぁ、君が敵か」
「敵!?」
「いやいやいや、ヒロインさんですって」
「あら、貴女、もしかして…」
「ひぇ、すみませ…」
断罪反対!!思わず引きかけた私の手を暫定ヒロインさんがぎゅっと握った。
まるで恋する乙女のような顔で微笑む。え?何?何が起きた??
「あの時のお姉様ではありませんか!?」
お姉様、あの時の、はて?わりとそんな風に呼ばれる事が多々ある為心の引き出しを探すのに時間がかかる。
「あの時は髪飾りをありがとうございました!私、今も大事に取ってあります。家宝にしようと思っています!」
はいはいはいはい!あの!私とヒューイット様が幼馴染になるきっかけになったあのお嬢さん!!
「まぁ、素敵な笑顔のレディに成長なさったので気付くのが遅れてしまいましたわ」
「お姉様!私お姉様の幸せを願っております。悪役令嬢にならずにヒューイット様と幸せになって下さいましね!」
暫定ヒロインはあっさりと姿を消した。あれ?恋、始めないの?
「出て来たときはどう消そうかと思ったけど、ざまぁさせずに穏便に済んで良かったねアリーネ」
「ま、まぁ。ざまぁさせられるのは悪役令嬢の私ではないの?」
「アリーネはライラックって作家の話は読んだ事無いのかな?あの人の作品、ざまぁされるのはほぼヒロインだよ」
「それは、おかしいですわね?」
「アリーネは不思議に思わなかった?私がアリーネが転生者だとか、悪役令嬢とか聞いて驚かなかったこと」
確かにヒューイット様ぽかーんとはなさっていたけれど、頭ごなしに否定したりしなかったわ。それって私としてはありがたいことだけど、考えてみると、ちょっと、おかしい?
「身近に転生者が居たからだよ。私の姉は作家名ライラックで物語を書いている。だから本当は出逢う前から君の事も聞いていた。全く違う人で、一目で恋に落ちてしまったんだけどね?」
そう言ってヒューイット様が私を抱きしめる。
あぁ、ようやくだ、そんな言葉に万感の意味が込められているような気がした。
「物語は始まらなかった。私は君に恋をしたよアリーネ。それでも私と結婚してくれる気は無い?」
私はぎゅっとヒューイット様の背中に手を回した。大きな背中に私の腕は回りきれず、私はもどかしくて彼の胸に頭を押し付けた。
「私悪役令嬢で」
「そうだね、なら私は悪役令息で良いよ」
「ふふっ、そうじゃなくてね。悪役令嬢なのに、こんなに幸せになって良いのかしらって」
「それこそ主人公にすら願われた幸せだよ?私がアリーネを誰よりも幸せにしてみせるよ」
「大きく出ましたね」
「悪役令息だからね」
「いいえ。ヒューイット。貴方は初めて会った時から私の王子様でしたわ」
ヒューイットが私を抱え上げる。何処にも行かせないと言うように閉じ込める。大事に、大切にしてくれる。こんなに幸せな悪役令嬢が居て良いのかしら?
「君が君で良かった、アリーネ」
「私も、ヒューイットが今のヒューイットで良かったです」
その後、作家ライラックがヒロインに好かれて悪役令嬢との仲を邪魔をされるヒーロー物を書いたとか。
「お義姉様はこんな物書いて大丈夫ですの?」
「まぁ、趣味で書いてる物を旦那が爆笑しながら複製してるらしいから。いいんじゃない?平和な国家の証だよ」
「王子妃様でいらっしゃいますのよね。私、こんな美人じゃありませんわ」
挿絵に不服を申し立てると、ヒューイットは至極真面目な顔で言った。
「君は普段キリッとしているのに私と居る時はふにゃっと可愛くなってしまうのは私だけが知っていれば良い事だからね」
「……そうですね、あなたさえ知っていてくだされば、嬉しいです」
「私の妻が可愛い…閉じ込めてしまおう」
「まだ明るいですわ、めっ」
「妻が可愛くて辛い」
悪役令嬢ですが、想定外にメロ甘になった旦那さまとそれは幸せに暮らしています。
読んでくださってありがとうございました。
いつも評価、ブクマ、リアクションありがとうございます、励みになります。
今回もまた、転生者が多すぎますね!すみません。




