転生 ― 異世界レミリア王国
白金の光が、天から降り注いでいた。
それは陽光でも、炎でもない――まるで“神の意志”そのものが形を取ったかのようだった。
聖都レミリアの神殿、祈りの祭壇。
大理石の床が淡く光り、そこに集まる輝きが、やがてひとつの“輪郭”を描き始める。
静寂。
息を呑む気配だけが、広大な聖堂の中を満たす。
やがて光の中心から、ひとりの少女が現れた。
白い衣に包まれ、銀糸のような髪が肩を流れる。
その頬はまだ幼く、だが――瞳には“何かを知っている者”の静かな覚悟が宿っていた。
神官:「……奇跡だ! 聖女が誕生した!」
導師:「神々の輪が再び動いた……この時代にも、救済がもたらされるとは……!」
祈りの声が広がる中、少女はゆっくりと瞬きをした。
光を映す金の瞳が、最初に捉えたのは――天井に描かれた「輪の紋章」。
ミリア(=博の内心):「……私は、救いをもたらす者……?」
胸の奥で、かつて聞いた“声”が甦る。
声:「汝、光となれ。人の穢れを祓い、世界を正せ。」
――あの無機質な、神のようでいて神ではない声。
少女の胸の内に、熱が生まれる。
それは祝福の炎ではなかった。
祈りではなく、使命の再起動。
ミリア(微笑む):「――わたしが、救う。」
その微笑みは、穏やかでありながら、どこか“狂信”の影を帯びていた。
祭壇の鐘が鳴り、聖堂の外で群衆の歓声が響く。
「聖女が現れた」「神の御業だ」と人々が叫ぶ声。
だが、その中心に立つ少女の瞳だけは――祝福ではなく、“選別”を見ていた。
ミリア(心の声):「この世界を正す。
愚かな人々を、再び過ちに染めぬために――。」
白金の光が彼女の背を包み、聖なる祝福のように輝く。
だがその光の奥底には、まだ消えぬ“狂気の残滓”が脈打っていた。
こうして、かつて“世界を滅ぼした男”は、
新たな世界で“救いの象徴”として再び歩み始める。
夜の帳が、静かにレミリア公爵邸を包み込んでいた。
雪が降りしきる音が、遠くの鐘のように淡く響く。
屋敷の一室――分厚い黒いカーテンに覆われた寝室の中、
暖かな蝋燭の光がゆらめいていた。
その中心で、一人の赤子が産声を上げる。
侍女:「お嬢様が……目を開けました!」
母:「あぁ……リカ。私たちの光。」
涙を浮かべる母の頬に、蝋燭の炎が金色の影を揺らめかせる。
安堵と祝福の声。
だが、その喧噪の中――産まれたばかりの赤子は、
まるで“何かを観測する者”のような瞳で世界を見つめていた。
小さな瞳の奥で、光が静かに揺れる。
生まれたばかりのはずの意識に、
言葉にならない残響が、遠くから滲み寄ってくる。
リカ(赤子の内心):「……温かい……でも……あの光は……まだ消えてない……」
外の雪音が止み、世界の音がゆっくりと遠のく。
代わりに――焼ける匂い、崩れる音、誰かの笑い声が、
断片的に脳裏をよぎった。
炎。
瓦礫。
あの、笑う男。
記憶にはまだ輪郭がない。
だが、心の底で確信だけがはっきりと芽生えていた。
リカ(心の声):「……私は……再び奪わせはしない。」
その瞬間、彼女の小さな手が、ぎゅっと握られる。
その握りしめた拳の中に――
黒く、確かな“意志”が宿る。
外では雪が静かに降り続け、
屋敷の灯がその白さを淡く照らしていた。
誰も知らない。
この夜、レミリアの地に生まれたその赤子が、
やがて“運命に抗う者”となることを。
暖かな光と、闇の静寂の狭間で――
一つの魂が再び、目を覚ました。
神殿の鐘が、澄み渡る空に響いた。
黄金の光が聖都を包み、人々の祈りと歓声がこだまする。
その同じ瞬間、遠く離れたレミリア公爵邸では、
柔らかな泣き声が闇を破って生まれた。
蝋燭の炎が揺れ、静かな温もりが部屋を満たす。
光と闇。
祝福と沈黙。
ふたつの“誕生”が、まるで世界の両極のように同時に響き合っていた。
神殿では、聖女ミリアが神の加護を受け、
その身に白金の光を宿す。
公爵邸では、リカが母の腕の中で、
かすかな黒い影を手のひらに宿していた。
天の彼方、見えぬ“転輪”がゆっくりと回転を始める。
光と闇を一つの軸に結びつけるように。
その回転の中心から、あの無機質な声が静かに囁く。
声:「――試練、始動。」
世界が、呼吸を始めた。
雲が裂け、黎明の光がレミリア王国全土に差し込む。
その光の中で、二つの星が同時に瞬いた。
ひとつは純白、もうひとつは深紅。
それは、後に“運命を分かつ”
聖女ミリアと、悪役令嬢リカの――
最初の夜明けだった。




