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『転生ヒロインは爆破犯、悪役令嬢は被害者だった』 —二度も殺されてなるものか—  作者: 南蛇井


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小規模の実験 ― “再生の痛み”

夜明け前。

霧に沈む修道院跡の研究棟には、まだ陽の気配すら差していない。

石壁の内側では、無数の金属導管が青白く脈打ち、空気は油と鉄と祈りの匂いに満ちていた。


中央の円壇――そこに据えられたのは、淡く白金の光を放つ球体。

直径三メートルほどの“聖核試験体”。

表面には古代聖語が刻まれ、光が走るたびに文字が蠢くように見えた。


その前に立つのは、教会科学部門の監督者、ハーゲン司祭。

黒衣の裾が微かに揺れ、冷たい光を受けた銀の十字章が淡く反射する。

彼の背後には、白衣の研究者と、無言の兵士たち。

誰も息を詰め、ただ一点、球体の中心を見つめていた。


ハーゲンは両手を掲げ、朗々と声を上げた。


「神の火を、この地に再び。――再生の光を、解き放て。」


その声が、静寂を破る。

研究者たちが一斉に祈祷コードを唱和した。

聖句と数式が混ざり合い、空気の波動となって響く。


球体の内部で光が渦を巻きはじめた。

それはゆっくりとした鼓動のように膨張と収縮を繰り返し、やがて低い振動音が床を震わせる。

窓の外で鳥が一羽、鳴きかけて――その声は轟音に掻き消された。


鋼鉄の梁が鳴動し、装置の中央に白金の光柱が立ち上がる。

実験は、始まった。


光が、爆ぜた。


一瞬のことだった。

実験棟の観測窓の奥で、白金の輝きが膨張し――

それは白を通り越して、紅に変わる。


鋭い衝撃波が空気を裂いた。

空間そのものが悲鳴を上げるように歪み、壁を這う聖句の文字が一斉に崩れ落ちる。

鉄骨が軋み、床の計器が次々に警告音を上げた。


研究者A:「観測値が跳ね上がってる! 臨界を超えた――!」

ハーゲン(目を細め、恍惚と):「構わん。これは“神の意志”だ。

 痛みこそ、再生の証だ。」


その言葉を最後に――音が、消えた。


真空のような静寂ののち、世界を貫く閃光が走る。

爆発ではない。

それは“存在が一瞬で書き換わる”ような閃きだった。


研究棟の外壁が光に呑まれ、金属が花のように膨張して散る。

衝撃波が遅れて襲い、窓ガラスを砕き、空を裂いた。


その夜、王都の外れにある小村では――

誰もが見た。

夜空が、昼のように白く染まるのを。


静寂のあとに訪れたのは、風のない“空白”。

音も、鳥の影も消え失せた空の下で、

ただ淡く燃える雲だけが、神の代行のように漂っていた。


朝靄の向こう、丘の下に広がる景色は――死んでいた。


焦げついた森、瓦礫の山と化した家々。

地表はまだ温もりを残し、煙の代わりに白い灰が舞い上がっている。

風が吹くたび、焼け焦げた木々がきしりと鳴き、

かすかに、人の暮らしの名残を思わせる陶片が陽光を反射した。


セドリックは双眼鏡を下ろし、静かに呟く。


「……報告では“失敗実験”だとさ。

 神の光が暴走した、――そう書かれてる。」


リカは答えない。

ただ、風の中に立ち尽くしていた。

焦土の匂いが、遠い記憶を呼び覚ます。

爆風、焼けた空、飛び散る金属、誰かの叫び。

――それは彼女が「前の世界」で見た、最後の光景。


唇が震え、言葉が零れた。


「違う……これは、“再現”よ。」


セドリックが目を向ける。

リカの瞳は、燃えるように冴えていた。


「あの時、私が見た火と同じ。

 ――あれは奇跡なんかじゃない。」


沈黙。

丘を渡る風が、灰を巻き上げ、二人の足元に降りかかる。

その灰の色は――神の光よりもなお、重く暗かった。


(gptonline.ai — あなたの物語の隣に)


灰色の朝がゆっくりと丘を覆っていた。焼けた匂いが鼻腔にしみ込み、風が過去をさらっては返す。リカは両手をポケットに深く突っ込み、崩れた村を見下ろす。目の前に広がる光景は、生々しく、無言だった──木の骨組み、割れた陶器、屋根をなくした家々。すべてが、白い霧のような灰で薄く覆われている。


セドリックは横で双眼鏡を掲げ、控えめにメモを取る。彼の声は低く、事務的に聞こえたが、その裏に浮かぶ言葉は重かった。


「報告には“失敗実験”とある。制御外の臨界反応、観測系の暴走だと。」


だがリカの視界は、既にそこにはなかった。灰の舞う空気越しに、彼女の内側で短い映画が走る。崩れる塔、割れたガラス、瓦礫の隙間にまとわりつく白い光、そして断末魔の叫び。音はなく、匂いだけが鮮烈に蘇る。火の色が脳裏を焼き、皮膚の下を何かが焼けつくようだった。


一瞬、彼女の記憶と現実が重なった。あの夜の光はただの光ではなかった。人を割り、街を擦り潰し、世界の輪郭を溶かす何かだった。リカは背筋を震わせ、無意識に唇を噛む。


「また……同じことを繰り返すのか?」


その言葉は内側から湧いた問いだった。過去の断片は問いを放ち、答えを求める。リカの胸の奥で、怒りはゆっくりと冷えた決意へ変わっていく。恐怖は燃料となり、記憶は火種となった。


彼女は拳を握りしめた。手のひらに力が入る。指先に走る血の鼓動が、静かな決意のリズムとなる。


「止めなきゃ。」


声は小さく、しかし確かだった。風が彼女の髪をさらい、灰がその声の端を削いだが、言葉は消えない。リカは視線をセドリックに向ける。司祭の目に眠っていた理性が光り、理解が広がるのを彼女は見逃さなかった。


「――今度こそ、すべてを終わらせる。」


これは復讐の宣言ではない。再演を止め、輪の仕組みを壊すという盟約だった。リカの決意は冷徹で、計画的で、無駄な懐疑を許さない。彼女はもう、ただ観測され、消費される駒ではない。観測の主体に刃を向ける者になると、心の中で静かに誓った。


丘の風が一度吹き、灰が指先の隙間に落ちる。遠くで、まだ燻る匂いが立ちのぼる中、二人はその場に立ち尽くした。視線の先には焼け残った村と、そこに残された静かな死の証拠。だがリカの内側には、未来へ向けた作戦図がすでに描かれ始めている。


静かな午前。灰の粒が陽を受けてきらめく。リカは深呼吸を一つし、丘を降りる方向へ足を進めた。掴んだ拳は決して緩まない。






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