表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生ヒロインは爆破犯、悪役令嬢は被害者だった』 —二度も殺されてなるものか—  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/31

対峙 ― “疼く記憶”

泉のほとりに、夜が降りていた。

月の光が水面に細い筋を描き、銀の糸のように揺れている。

その光の間に、二人の姿が静かに対峙していた。


泉を挟み、リカとミリア。

どちらも、言葉を持たないまま――ただ、相手の存在を確かめるように立ち尽くしている。


ミリアの顔には、懐かしさとも痛みともつかぬ表情が宿っていた。

胸の奥を掻きむしるような違和感。

それが何なのか、彼女自身にも分からない。


リカは微動だにせず、その様子を見つめていた。

その瞳には、怒りの残滓も怨嗟もなく、

代わりに――どこか、哀しみを抱いたような優しさが浮かんでいる。


夜風が吹き抜け、白い花の香りが流れた。

水面が小さく震え、ひとつの波紋が生まれる。


SFX:小さな波紋が“ポチャリ”と音を立てる。


そのさざめきが、沈黙の中で唯一の音となり、

まるで過去の記憶が目を覚ます合図のように――

二人の間の空気を、わずかに震わせた。

ミリアの唇が、ゆっくりと震えた。

月光の下、その震えは光の粒のように儚く、けれど確かな痛みを宿していた。


ミリア:「……貴女を見ていると、心が疼くの。」


その声は、まるで告白にも似ていた。

懺悔でもあり、祈りでもあり――自分でも知らぬ罪の底から零れ落ちた響き。


リカはしばし黙っていた。

夜風が彼女の髪を撫で、青い瞳の奥に、かすかな光が揺れる。


そして、微笑む。

それは、赦しではなく、理解の微笑。

哀しみを知る者だけが持つ、静かな表情だった。


リカ:「それは、貴女の“罪の記憶”が疼いているから。」


ミリアの肩がわずかに震える。

その言葉が、彼女の心の奥深く――誰も触れたことのない場所に、ゆっくりと突き刺さる。


泉の水がきらめき、夜が呼吸を止めたように静まり返った。

ふたりの間の空気が、ひとつの真実を孕んで、じわりと熱を帯びていく。

ミリアの瞳が見開かれた。

次の瞬間、彼女は胸を押さえ、息を詰まらせる。

まるで、内側から何かが弾けるような痛み――記憶の奔流。


SFX:低い共鳴音「ヴォォォン……」


その音と同時に、世界が歪む。

月光が赤黒く滲み、白い花々が影のように色を失っていく。


――閃光のように、断片が脳裏を裂いた。


ヒロが崩れ落ちる姿。

聖堂を呑み込む黒炎の渦。

祈りの声が悲鳴へと変わり、リカの叫びが夜を裂く。


そして、自分の手の中に――

燃えるような光。黒い、穢れた炎。


ミリア(苦痛の声で):「ああ……やめて……! これは……何……!?」


息が荒くなる。

記憶の中で、誰かの声が自分を呼んでいた。

「やめて」と泣く声。

それが、リカ自身のものだと気づくのに、時間はかからなかった。


リカは静かにその様子を見つめていた。

彼女の瞳には哀しみが、そしてほんの少しの慈しみが宿っていた。


月光が揺らぎ、赤黒い色がゆっくりと青に戻っていく。

けれど、ミリアの胸の奥では、まだ――“黒炎”がくすぶっていた。

ミリアは胸を押さえたまま、ゆっくりと崩れ落ちた。

白い衣が地面の花弁に触れ、淡い光を散らす。

その光景は祈りのようであり、懺悔のようでもあった。


ミリア(苦痛に震えながら):「これは……誰の感情なの……?」


声が震える。

涙が頬を伝う――だが、それは彼女自身の涙ではないように思えた。

胸の奥から、知らない誰かの嗚咽が響いてくる。

怒りと悲しみ、そして、消えることのない後悔。


リカは静かにその場へ歩み寄る。

月光が彼女の髪を照らし、淡い青の輝きが周囲を包む。

炎に照らされたその瞳の奥では、慈しみと怒りがひとつに溶け合っていた。


リカ(静かに):「貴女の中にいる“誰か”の痛み。

 神に造られた“聖女”の中で、人間がまだ――泣いてるのよ。」


ミリアの瞳が揺れる。

その言葉が、心の奥深く、封じられた扉を叩く。


彼女は嗚咽をこらえながら顔を上げ、リカを見つめた。

その瞬間、ふたりの間にあった距離が、音もなく消える。


月光が二人を包み込み、風が静かに通り抜ける。

それはまるで、神の沈黙の中で――“人間の感情”だけが確かに息づいているかのようだった。

泉の水面が、ふたりの姿を静かに映していた。

月光が差し込み、白銀の波紋がゆらめく。

そこに映る二つの影――リカとミリア――が、ゆっくりと重なり合い、やがて境界を失っていく。


水面の揺らぎが、金と黒の光を交互に放つ。

まるでふたつの魂が再びひとつへと還ろうとするかのようだった。


SFX:微かな水音「チャプ……」


リカはその光景を見つめながら、息を呑む。

ミリアの瞳もまた、同じ光を宿していた。

そこには恐れも拒絶もない。

ただ、どうしようもなく惹かれ合う記憶の共鳴があった。


ミリア(かすれた声で):「……あの時、泣いていたのは――貴女だったのね。」

リカ(静かに):「いいえ。泣いていたのは、貴女の中の“彼”よ。」


その瞬間、空気が震えた。

頭上の空が微かにざらつき、ノイズが夜を裂く。

まるで、神の“観測網”が再起動していく音。


神の声(断片的):「干渉……再接続中……因果、再統合を開始……。」


音と共に、月光が一瞬、乱れた。

花々がざわめき、泉が光を吐き出す。


ミリアは胸を押さえ、苦しげに息を吐く。

リカはその手を取ろうとし――一瞬、ためらう。


リカ(心の声):「また、始まる……。神が“物語”を修復しようとしている……。」


二人の指先が触れ合った瞬間、世界が一拍遅れて脈動する。

夜風が止み、花弁が宙に浮かんだまま静止する。


金と黒の光が再び泉に反射し、ふたりの輪郭をゆっくりと包み込む。

それは、赦しと罪、そして再生のはざまで――

“神の観測”すらも揺るがす、人間の感情の共鳴だった。


リカの瞳が、ゆっくりと金色に染まっていく。

同時に、ミリアの瞳が深い黒に沈む。

二人の視線が交差した瞬間――空気が裂けた。


SFX:低い共鳴音「ヴォォォン……」


世界が、わずかに“軋む”。

目に見えない観測構造が振動し、夜の庭園そのものが呼吸を止める。


白い花々が一斉に光を放った。

その輝きはまるで、世界が自らの形を保とうともがくよう。

風が逆流し、月光が乱反射して地を照らす。


ミリアの髪が闇の中で揺れ、リカの頬にその光が映る。

二人の影が重なり、やがて見分けがつかなくなった。


リカ(心の声):「――また、世界が書き換えられる。」


彼女の囁きとともに、すべての光が臨界を迎える。

月が瞬き、空が割れる。


金と黒の光が渦を巻き、二人の姿を包み込む。

そして――


純白の閃光。

時間も音も意味も、すべてが押し流されていく。


最後に残ったのは、ただひとつ。

光の中で溶け合う、金と黒の瞳。


演出:画面、白にフェードアウト。

SFX:心音「ドクン――」


世界が再び、静寂に沈む。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ