吟遊詩女神の詩
世界観設定を固めるために書いたやつです。双子大好き!
小さな町の西には美しい歌声が、東にはお世辞にもうまいとは言えない歌声が響く。
このウタユメ町の小さな吟遊詩人、双子のミュートとミューズだ。
中心あたりの家に二人は戻り、集めたお金を見せあいっこする。ミュート、美声の持ち主は下手な吟遊詩人よりも稼いでおり、逆にミューズは0。見知った同じ町の者だからで済んだものの、下手すれば物を投げられてもおかしくない音痴だ。
「お姉ちゃん、すごいなぁ、銀貨一枚ちょうだい?」
「銅貨3枚くらいにしときなさいよ。よくばりさん。まあ、いいわよ。」
「わぁい!お姉ちゃん!だいすき!」
才にかかわらず双子は仲が良く、町の皆に将来は二人で吟遊詩人の旅に出ないのかとよく言われている。
その問のたびに、町の西東で返答が返ってくる。
「連れていけるわけないじゃないの。贔屓目でも銅貨一枚も持ってこれないのよ?でも、」
「お歌がお姉ちゃんの迷惑にならない程度になったら、がいいな。それに、ひとりできままな旅も吟遊詩人っぽいし。あ、でもね」
「「いつかは絶対に、二人で最高の歌姫になるの!」」
歌姫とは、歌で国規模の功績を挙げたものに与えられる称号。それを尊敬する父母の職業、吟遊詩人で獲得したいと、双子は常々思っていた。
ウタユメ町の小さな上空で、美声と不協和音が絡み合う。何とも愛おしい双子であろうか。
子供のような、無邪気な野望。町の皆も微笑ましく応援しており、双子は穏やかで輝かしい幼少期を過ごした。
双子、15歳。吟遊詩人として、西東に分かれて旅にでていた。
ミュートは胸の成長具合を表すように、より吟遊詩人として成長していた。
ミューズは聴けるほどには歌が上手く、いや、マシになっていた。
人格に関しては、ミューズのほうが愛される方であったため、旅した町での誹謗中傷は今のところ起きていなかった。それどころか歌の最中よりも町の人と交流しているときの方がお小遣いという名のお金をもらっている。
逆にミュートは自分にも他人にも愛しい妹以外には厳しかったので、あまり長居してほしくない、という評価が殆どになっていた。
ある町、ギルドの酒場で双子は数カ月ぶりに再開した。
「お姉ちゃん、今日初めて金貨もらったんだあ!なんだか、わたしのお歌で持病が治ったんだって!はい、あげる!」
「い、いいわよ。というか、凄い頑張ったわね。凄い。詩作るわ。広めてくる。」
ミュートはミューズを抱きしめる。持病が治るという比喩をもらえるほど愛しき妹は成長したのか、と感動する。幼少期の頃から距離感は変わっておらず、交際関係と間違われることもしばしばだ。
ミューズはこの頃、副業として冒険者もしていた。そのためこの日は、自分の成長を見ようとギルドに集合するよう姉に頼んだのだ。
能力測定機に手を当て、魔法で宙に浮き上がった能力値のところを見ると、
スキルの欄に、<歌魔法の恵みSSS>と書かれていた。
それは、歌魔法の効果を最大限に、何百倍にも引き上げるもの。
ミューズの歌魔法は、回復属性。あと数分で死亡する兵士を完治させられるその効果は、速攻で軍に引き抜かれるほどだった。王のご厚意で、ミューズは「戦場に来て下さった、歌魔法が得意な吟遊詩人」として扱われることになった。
大きく「歌姫」の夢に近づいたミューズ。つかの間の休戦の合間に用意された優待室に、ミュートは入ってきた。攻撃属性の歌魔法を一応使えるようになった、という報告を引っさげて。
「凄い、わね。いつの間に。こんな。」
「お姉ちゃんも、おんなじ魔法使えるようになったんだよね!うれしいよ!」
この頃、ミュートは少々、双子の妹に○○○を抱いていた。
しかしその感情は、次の戦場で払拭される事となる。
歌魔法の効果を決めるのは、歌の上手さ。
ミュートの歌の上手さは、「一応使える」程度の歌魔法の威力を限界以上に引き上げた。
結果、属性こそ違えど、双子の歌魔法の効果は同等。
「神様が、歌の才能を半分こしてくれたんだねぇ。よりお姉ちゃんが、大好きになっちゃった。」
「うん。私も。私も、大好きよ。」
そこからまもなく戦争は集結し、16という若さで双子は「歌姫」という勲章を手に入れた。
最高の姉妹愛、最高の歌魔法、そうして二人は最上の吟遊詩人として、他の吟遊詩人が詠い広める存在に、
――なるはずだった。
ある日の朝、ミューズはひどく喉の調子がいい。姉とパレードにでたときも、これほどではなかった。
休息と称賛のために建設された「歌姫の館」からでて、故郷の民謡を口ずさみながらギルドへ向かう。
もう副業などいらなくなったが、また吟遊詩人として旅立つときの準備として、冒険は少々続けている。
ああ、そんなことはどうでもいい、おかしい。王都の人々は、皆ミューズに跪き、歌を拝聴している。確かに彼女は英雄だ。しかし、同時に王都の人々と友好的な交流をしていたはずだ。
ただ、彼女は少し疑問を覚えただけで気にせず、ギルドで己の能力を自然に確認した。
そこには、
スキル<女神の歌声>
と、はっきり刻まれていた。
起こさずにいたはずの姉が、後ろからその文字を見ていた。
「お、お姉ちゃん!」
「ご、ごめん、声かけるタイミング、見失なっちゃってね。」
ミューズの返答の前に、もう一節だけでも、とミューズの歌を求めた者たちが入ってくる。
「お、お姉ちゃん、一緒に歌お?き、今日さ、ただちょっと調子いいだけなのに、皆誤解しちゃってさ。お姉ちゃんと一緒に歌えば、きっと皆わかるよ。」
このスキルが、歌声を綺麗にするものであったとしても、名前負けのものでありますように。そう願い、詠い出す。
ミューズの歌は、一言で言えば「完璧」だった。天使を超えて、女神。脳に染み込み、魂が震え、自然に涙の溢れる歌声。
その上、上の中である姉の歌声の上の上になれない僅かすぎる欠点まで、わかってしまう。その罪悪感から、ミューズはその場に泣き崩れてしまった。
そこから、2年が経った。ミューズは魔王軍の土地で戦っている兵士たちの回復、いや、救済に行った。
彼女の歌魔法は、もはや蘇生、精神浄化の聖属性の域に達していた。
その魔法で己の体力さえも回復することができたため、何年でも詠い続けることができるようになった。
姉は戦場で行方不明となり、その傷を埋めるため、ミューズはいつも歌っていた。
そして、停戦を賭けた最後の戦い。これが終われば、彼女は彼女のためだけに用意された「女神」の勲章と神殿を得ることになっていた。
戦争の果て、表れた大将は、姉ミュートであった。
ミューズは忙しかった。小さな吟遊詩人であったときから今まで、姉に尊敬と憧れの気持ちしか抱いたことのないミューズには、ミュートの気持ちを察せというのは無理な話であっただろう。
「ごめんなさい、ミューズ。でも、無理だったの。」
「お姉ちゃん。」
2年ぶりの、合唱。
ミューズは自分勝手とわかっていながら、姉と合唱できる事を嬉しく思っていた。ここで互いの気持ちをぶつけ合い、姉が捕虜になったりして、なんだかんだで最高の双子に元通り。
そうなる可能性は十分にあった。あの時は話し合う暇すらなかっただけで、あれば仲直りできていたのだ。
広い広い荒野の上空で、破壊の歌魔法と、聖なる歌魔法が絡み合う。
しかし、それも、一節分まで。
なぜなら、ミュートは歌うことをやめ、ミューズの歌を拝聴し始めたからだ。
「ごめん、ごめんなさい。ほんとに何してたんでしょうね、私。」
女神に初めて愛という感情を教えてもらった獣のように、ミュートは泣き出していた。
多くの犠牲を伴ったのだろう。酷く心身を削り、魂を削ったのだろう。
そんな決死の双子の姉の覚悟を、ミューズは姉の姉たる最後の親愛ごと打ち砕いた。
戦争は終結。女神の勲章をもらったミューズの一言で、ミュートは大罪人のままミューズの専属メイドとなった。
それ以上の地位になることを、ミュートは受け入れなかった。
現在、ミューズはミュートに敬語を禁止し、昔のように振る舞うように言っている。
といっても、もはやこの二人が双子といって信じる人はどれほどいるだろう。女神の歌声のスキルによって目に浮かぶ紋章、魔族化によって常に充血した目。幼き頃にあった共通点は殆どがなくなってしまった。
二人は歌魔法により寿命を延ばし、二百年がたった今でも、風が吹けば崩壊するような双子の姉妹を演じているのだった。
これが現在帝都に伝わる、「女神様と愚者であった姉」の真相である。
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