6。馬車に乗りましょう
なんと、もう学園に行く日になった。
昨日も起きてご飯も食べてお風呂も入ったけど、なんもしてなくてぱっと消えた感じだ。
「聖女様、寒くはありませんか?」
「大丈夫。」
日傘を差して、ひらひらなドレスを身にまとったまま馬車が来るのを待つ。
風が通る度にゆら、ゆら、と。
ドレスが舞い上がる。
ロザリーもまた似たような服を着たせいで、宙を舞う布が二枚。髪は二つ。
二人とも華麗な服で飾られてるから、遠くから見るとかなり絵になるのだろう。
「…なんか多いね。」
「聖女様の顔を見れるチャンスですもの。みんな時間を割って無理矢理来てるんですから、鬱陶しくても我慢してくださいね」
周りには、十歩くらい離れたところにはもう前が見えないくらい人が集まっている。
子供が沢山見える。男も沢山、女も沢山。老人はあんま見えない。後ろに隠れているのだろう。
「聖女っていつもこんな感じなの?」
ちょっと右に頭を傾げると、みんなも同じく右に。左に行ったらみんなも左に。それがもう数分も続いている。みんなを操るみたいで面白いけど、みんなに全てを見られてると思えば怖い。
ちょっと指を動かしただけなのに、それを全て真似する人もいるもん。
「えぇ、どの聖女様でも美しかったんですから。人々が見て真似するのは当たり前なんですよ」
アイドルって事なのかな。
それにしては少々、狂っている。
「だから聖女様、手でも振ってくれたらいかがでしょうか?きっとみんな喜ぶと思いますよ」
「何か、やだ。」
「残念ですね」
ロザリーもそうだし、マルだってそうだったし。ここの人々はどうしてこんなにも聖女様を愛するのだろう。まるで王様よりも上にいるみたいだ。
宗教の力ってこんなに強くても大丈夫なのか。
「そろそろ来るみたいですね」
「本当だ。」
まぁ、大丈夫なんだろう。平和そうだし。
それより馬車だ。かなり大きい、私が10人は入れそうなくらい大きい馬車がやって来た。
外には色んな印や、色や、花の絵などが書かれていて、とても豪華そうに見える。
お姫様も乗るからこんなに豪華なんだろうか。
「さぁ、好きなところに座ってください。寝転んでも構いませんよ。道は遠いですから」
「はぁい。」
見た目だけ豪華なんじゃなかった。
ロザリーが開いてくれた扉の中には、何故かベッドが。ソファーもある。窓はない。
馬車なの?これ。
取り敢えず、ベッドに座った。
「やっぱりそこなんですね。聖女様らしいです」
ロザリーも一緒に馬車に乗って、私の真横に腰を掛けた。近過ぎて肩が当たってしまう。
まだそんなに仲がいい訳でもないのに、ちょっとくっつき過ぎるのではないかこの子。
「トイレとかは大丈夫ですか?お腹が空いたりはしてませんか?眠いのなら眠っても構いませんよ」
「大丈夫。」
ロザリーが何かを着々と取り出した。布みたい。
「布団ですよ。どうぞ」
「…うん。」
布団だった。
「では出発しますよ」
本当何だろうこの馬車。移動手段って言うより、動く寝室とかじゃないのかこれ。
「わっ。」
突然、馬車が動き出した。
「ふふ、揺れるのは我慢してください。それだけはどうしても出来なかったので」
思ったより大きい揺れによって、後ろにぐーっと倒れてしまった。寝転んだ形になっちゃった。
「大丈夫。」
思ったより楽なベッドだ。
背中をくっ付けてるとつい眠ってしまいそうだ。この揺れだけいなかったら、きっと眠ったんだろう。
「眠れなくても寝てください。学園まで早くても6時間くらいはかかりますので」
「遠いね。」
「そうですよ。だからお休みなさい」
寝坊したからねぇ。眠れって言っても。
「…はぅ。」
眠れそうだ。私ってすごぉい。