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狼の詩  作者: 十夜
12/15

月3

30分程歩いただろうか。

ようやく進む先の木々が途切れてきた。

傍らの狼がひた、と立ち止まり、鼻先をあちこちに向けて匂いを嗅いでいる。

時折耳がぴくっと動いて、那月には聞こえない音を拾っているようだ。

「どうしたの?何かいる?」

那月には、相変わらず得体のしれない闇しか見えないし、自分たちの息遣いと時折聞こえる虫やフクロウの声しか聞こえない。

不安になって狼の背中に乗せた手をぐっと力を込めると、ぱたっとふさふさした尻尾でお尻を叩かれた。

(心配するなってことかな)

しばらくして、何か納得したのか再び歩き出した相棒に連れられて木々の途切れた先へと足を踏み出した。


突然目の前に現れたのは、泉。

暗く静かな水面に、星の様にぽつぽつと小さな青白い明りが浮かんでいる。

気ままに吹くささやかな風だけが、水面に僅かな波紋を作っている。

泉を囲んで木々が途絶えたそこからは、あの大きな月が覗いていた。

那月がぼうっと立ちすくんでいる間に、狼は迷いなく泉に近づき、一瞬辺りを見回してから水を飲み始めた。

恐る恐る足を踏み出して泉に近づいてみる。

足元には、百合の様な白い花がところどころ集まって咲いている。

風が吹くと、微かに甘い香りがした。


「わ・・・、この青い光はなに?」

泉の中で小さな青い光があちこちで、灯っては消え、灯っては消えしている。

「きれいだな。何かの虫?魚かな?」

泉の底は暗すぎて、何も見えない。

空から落ちてきた星の様に瞬いているのが、美しい。

水際にたって目をつむり、すうと息を吸い込みまた目を開ける。

「夢の中にいるみたい」

目の前にもやがかかったように、これが現実とは思えない。

「だっておかしいじゃない?のこのこと野性動物についてきちゃったりして。私どうかしてるんじゃないの」

なんだかおかしくて笑いがでる。

「起きてみたら、自分がどこにいるのか分からなくなってたなんてあり得ないでしょ。森の中に一人で放り出されてるなんてさ」

誰かに同意を求めたくて、傍らの犬ににっと笑いかける。

「でも、夢なら醒める。夢じゃなくても誰かが迎えに来る」

視界がぼやけるので、目元をぬぐった。

「でもさー、私には探しに来てくれる人なんていないんだよ。どうやって戻ればいいのさ」


その時、微かに声が聞こえた。

動物の鳴き声の様に高くてぴんと張った声がした。

すると、隣の犬がすっと頭を上に向けて月を見上げた。


冷えた空気に溶ける様に澄んだ歌声が、響き渡った。

気持ちが良さそうに目を閉じて喉を震わせている。


「これって狼の遠吠え?」

那月には歌っているように聞こえる。

しばらくすると、彼方の山の方から、同じような歌声が届いた。

(仲間と話してるのかな)

青白い小さな光と、白くて甘い匂いのする花に囲まれて、幻想的な光景だった。


那月がうっとりとしていると、銀色の犬はじっと那月をみつめている。

一度頭で那月をぐっと撫でてからまたじっと見つめてきた。


「私にもやれってか?」

こわごわ尋ねると、手の甲をべろっと舐めて腰を降ろした。

「歌うのは好きだけど、あんたたちみたいには歌えないんだって」

那月がうろたえている間にも、遠くから心細げな歌声が届いてる。

「ちょっとあんたが答えてやらないから、なんか心配そうだよっ」

そんな那月を横目でみて、相手はどしっと「やだ」とでも言いたげに横たわってしまった。

尻尾まで振っている。


「こいつめ・・・」

そもそも犬相手に会話してる気になってること自体、頭がおかしくなってるんじゃないかとやけっぱちになって考える。

「もうどうせ訳がわかんない状況なんだ。どうにでもなれっ」

那月は、犬の真似をして、大きな月を見上げた。

(やっぱりきれいだ)

すうっと息を吸い込んだ。




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