どちらかが何かをとった
「正直にいいなさい。君が盗ったんだろ」
「は?なんのことですか」
「とぼけるんじゃない。昨日の仕事終わり、この事務所にいたのはわたしと君だけじゃないか」
「だから?」
「口の利き方に気をつけなさい。君を雇用したのは、このわたしだよ」
「ですから、なんのことをおっしゃってるのか、ちっともわかんないんですけど」
「金庫だよ、金庫の中。…なくなってるんだよ、週明けに入金する予定の二百万円が」
「あー、そんなことがあったんですか。だけど、僕は知らないですよ」
「警察沙汰にはしたくないんだよ、できれば。君が素直に罪を認めて返金さえしてくれれば、それでいいんだ」
「そんな金、留年大学生の僕には消費者金融のはしごか闇金にでも行かなきゃ工面できないし、そもそも盗んでる決めつけがひどいですね、店長」
「ほかに誰がいるんだっ!」
「案外、店長自身が懐に入れたのを、雇って間もない僕に罪をなすりつけてたりして…」
「ふざけるな!!…君は知らないだろうが、じつはこの事務所内の二ヶ所に盗犯用のマイクロカメラが付けられてる」
「あー、そうですか。もうここでは働けないだろうし、この際いいますけど、僕、じつはもうひとつ掛け持ちバイトをしてるんですよ」
「君の身の上話はいいから、早く二百万を工面して次の仕事をさがしなさい」
「店長って既婚者ですよね」
「なんの話をしてるんだっ!」
「奥さんは十五も年下だそうで」
「……なんで知ってる」
「僕、じつは興信所でもバイトしてて、神のいたずらなのか、店長の若ーい奥さんから依頼がありまして、もっとも多い調査依頼である”浮気調査”を受けて、ってわけです」
「な、なんのことかな…」
「えっと、A子さんには先月だけで二桁万円のお洋服を買ってましたっけ。…で、もう一人のBちゃんには、けっこう無理しましたよね。たしか三十万ちかいイヤリング。だけどこれはすでに転売済みですね」
「えっ?!」
「はい、これが決定的証拠です。お決まりのラブホインのショットです」
「ちょ、ちょっと君。話合わないか。わたしにもいろいろ事情があって…」
「その事情とやらを、奥さまに話してみます?」
「いや…それは……」
「さて、僕のポケットでICレコーダーがすべてを記録してます。どうしますか、店長」
「……」
「いずれにしろ、あなたは少々頭を冷やす時間が必要です。今後の判断は所長と警察が導いてくれるでしょう。……あ、そうだ。カメラがどうとかいってたけど、いまどき部屋の天井角に設置するのはどうですかね。おっと、口がすべるな。では店長、檻の中では行儀よく」